VSシャドウウルフ
「さて……何匹いるかな」
探知魔術を使いシャドウウルフの数を把握する。まず見えているのが正面にいる一匹。そして探知にかかったのが五匹の計六匹だ。
数えきったところで目の前のシャドウウルフに目を向け剣を抜く。
ある程度余力を残した身体強化を発動し、更に剣に魔力を纏わせる。纏っている闇を効率よく払う為だ。
「ふっ!」
大きく息を吐きシ突進、そしてそのまま剣を振り下ろす。
なんとも言えない感触が伝わってきて剣の当たった部分から少しだけシャドウウルフ本来の体毛が見える。
「ガウッ!!」
しかしそのまま狙わせてくれるはずもなく纏っている闇が触手のように俺を襲う。
「これぐらいは……よっと」
剣を数度振るい斬り落とし少し離れた所に着地。そして直ぐに用意していた魔術を発動する。
「ガウッ!?」
剣によって開けられた僅かな闇の隙間に
「まず一匹」
この攻防で俺への警戒が高まったのか先程までたっていた音が無くなりシャドウウルフ達の動きが止まる。
「あんたらの中にあの魔物知ってるやついるか!?」
「……俺は知ってる。シャドウウルフだよな?」
「あぁ!俺が少しの間受け持つからその間に倒し方を教えてやってくれ!」
「わかった!」
これ以上の増援があった時の為にほかの冒険者達も使えるようにしておく。冒険者達の間で会話が始まりシャドウウルフの倒し方や気をつける点が伝えられる。
その会話を意識の外に押し出し俺は再び森の中に潜むシャドウウルフ達に意識を向ける───
ーー咲希ーー
和くんの掛け声で冒険者の人達がシャドウウルフの倒し方を教えて貰っている。そんな中私はどう倒すかを迷っていた。
和くんみたいに剣を使ってもいいけど生憎剣の使い方はよく知らない。正確には知識として知ってはいるが使ったことが無い。
「やっぱ体術だよね」
そう決めて森の中に潜むシャドウウルフ達に魔力を飛ばす。
その挑発に乗った三匹のうち二匹が私の所に向かってくる。
「《強化》」
この世界で言うとこの身体強化のようなものを言霊で行う
和くん達のように身体強化が使えたらいいけど私はこの世界の魔術を使えない。どういうわけか一切使うことが出来なかった。だから自分の言霊で強化を施しシャドウウルフ達に正面から向き合う。
「ガァッ!!」
一匹が飛びかかってきてその後ろからもう一匹が駆けてくる。簡単に処理するのが難しい連携だが私ならごり押せる。
「落ちろっ!」
飛びかかってきた方に踵落としを喰らわせてそのまま後ろにいた方にぶつけて行動を止める。
「確かあれを剥がさなきゃなんだよね」
手を突き出して地面に叩きつけられた二匹に狙いを定める。
「《穿て、光の矢》」
貫通力を高めた矢を放ち二匹を貫く。
「ギャウン!?」
「そのまま死んで……《爆ぜろ》」
和くんがやっていたように二匹に刺さった矢を爆発させる。この爆発で二匹は命を落とす。
「思ったより弱いね」
これならあと二匹も余裕かな、と思っていると残っていたのが森の奥へと逃げていく。
「えっ?」
途中までは存在を確認出来ていたが突如地面に潜るようにして何処かへと消えていってしまった。
「……影に潜った?」
シャドウウルフは名の通り影を使って逃げた様だ。和くんの方に目を向けるとふるふると首を振る。どうやらあちらも同じらしい。
「消化不良だなぁ……」
ーー和樹ーー
「逃げたか……まぁ召喚者がいるかぐらいは確認できるか」
仕留めた二匹に近づいてナイフを持って一息に腹を割く。そして心臓部分に存在する魔石を取り出して解析魔術を使う。
「……やっぱり召喚者はなしか」
召喚者がいればこの魔石に魔術の履歴が残るのだが残っていないということはこのシャドウウルフ達は何らかの理由でここに来たと言うことになる。
その理由がわからないが。
「和くん何してるの?」
「解析してた」
「ふーん?」
「あ、冒険者の人達に戦闘が終わったって言わないとな」
「そうだね」
あっという間に終わった戦闘に戸惑っている冒険者に事情を説明する。
「……なるほど、ではシャドウウルフ達は私がここで詳しく解析しましょう」
「できるんですか?」
「はい。これでも魔法学校を卒業した身ですから」
先程シャドウウルフのことを知っていると言った冒険者が詳しく調べてくれるらしい。魔法学校を卒業したならその腕は確かだろう。
「では行きますね」
シャドウウルフを中心として魔法陣が広がっていく。そして解析が済んだ情報が空中に浮かぶモニターのような物に次々と表示されていく。
この光景に魔術に詳しくない者は疑問を浮かべていたが、ある程度知識のある冒険者数人がそれらをまじまじと見ている。
「かなり弱っていますね。体も衰弱している」
「それで軽かったんだね」
「……あぁ。咲希は蹴ってたもんな」
「ふふーん」
「それと完治しきっていない傷も確認できました」
この二つの情報だけである程度のことはわかる。こいつらは何者からか逃げてきたのだ。本来住む冥界からここに。
「これは持ち帰ってギルドで確認したほうがよさそうですね」
「だな」
「一応手分けして持ちましょうか」
「ああ。警戒して三グループぐらいで帰った方がいいだろうな」
広場に残っている冒険者達を三グループに分けてそれぞれが死体を収納魔法のついたバッグにいれて持ち帰る。
帰り道は何事もなく俺たちは無事ギルドへと帰還した。
「お金貰えてよかったね」
「シャドウウルフは結構高いからな、助かった」
「これでしばらく何もしなくてもいいぐらいじゃない?」
「そんな気はする」
「お兄、私眠くなってきたかも」
「帰りはずっと警戒してたしな、疲れが出てるんだろ」
「そうかも……」
「とりあえず宿に帰ろっか」
時間は夕方。帰り道に随分と時間がかかってしまった。慣れていなければ疲れも当然出るだろう。
「咲希は大丈夫か?」
「私は大丈夫!」
「流石だな」
「私も咲希お姉ちゃんみたいになりたーい」
「当分先だろうな」
「うー……」
「まぁお金は手に入ったし、しばらくは明日香の特訓が出来るだろうから今日みたいなことは少なくなると思う」
「そうかな……?」
「体力も魔力もあるんだし魔術覚えればなんとかなるだろ」
「じゃあ私も武器とか使ってみたい」
「武器なぁ……」
武器の練習も確かにしておいた方がいい。けど魔術と剣術がどちらも中途半端になる可能性があるからできるだけそれはしたくない。
剣を振りながら魔術を使うのは存外難しい。最初からそれができる奴はそうそういない。ましてや武器をまともに使ったことない奴はそれに頼りがちになって寧ろ弱くなることもある。
だから明日香にはしばらくスティックで魔術の練習をして欲しいが……
「武器はまだ先だな。ただ近接用の魔術と簡単な体術ぐらいは教えるよ」
「やったー!」
「その前に今日は休憩だな。明日はきっと筋肉痛が待ってるぞ」
「うっ……嫌なことを言うね……」
「なれない山歩きだし、走ったりしたからな。大変だぞ」
「咲希お姉ちゃんなんかいい方法ない?」
「筋肉痛は自然治癒が一番いいから我慢だよ」
「うわーん!」
咲希にも諭されて明日香は咲希の胸に泣き付く。おい羨ましいぞそれ。俺もそんなことしたい。
「和くんは後でよしよししてあげようか?」
「なんでわかった?」
「私ぐらいになると目線でわかるのです」
「エスパーかよ」
「和くん相手ならエスパーだよ。なんせ四六時中見てたからね」
「……透視使って俺の事みる変態さんだもんなー」
「そ、それは関係ないでしょ!」
戦闘の緊張があったからかいつもよりもほのぼのした空気が流れる。
その空気に癒されながら俺たちは宿へと向かっていった。
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