初めての魔物討伐


 模擬戦をした翌日俺たちはギルドに依頼を受けに来ていた。


「んー……あんまりいいのないな」

「薬草採取ばっかりだね」

「お兄たちがおかしいだけで普通は薬草採取でいいと思うんだけど」

「これなら討伐は適当に現地で探した方がいいな」

「りょーかい」


 一応薬草採取だけ受けておいて俺たちはギルドを出る。


「それで今日はどうするの?」

「薬草探しつつ適当に魔物討伐だな」

「じゃあ薬草採取は任せて!」

「いや、討伐するのは明日香だぞ?」

「ふぇ?」

「だって私と和くんは出来るし」

「明日香の特訓のためだからな」

「……そういうのはもっと早く言ってよー!!」

「ぶはっ!?」


 もはや恒例行事となりつつある明日香のキンキンに冷えた水球を顔面に喰らいながら街の外を目指した。




「さて、まずは攻撃魔術を覚えようか」

「どんな技なの?」

「簡単だぞ、水球飛ばすだけ」

「……それだけ?」

「そ、水元素の初級攻撃魔術ウォーターバレット。水球を速度を持たせて飛ばすだけの簡単魔術だ」

「形を銃弾みたいにするの?」

「そうだな。後は速度さえあれば敵を貫ける。少しだけ木を的にして練習してからやろうか」

「はーい」


 一応お手本だけ見せてから明日香にウォーターバレットの練習をさせる。その間俺と咲希はティータイムだ。


「はい、薬草」

「さんきゅ。はいお茶」

「ありがと」


 咲希が採ってきた薬草と引き換えにお茶を渡す。レジャーシートを引いて完全にピクニック気分だ。


「そう言えばアルスさんはどうしたの?」

「普通に帰らせたよ。俺は冒険がしたいし」

「そっか」

「一応俺たちの監視は頼んだけどな」

「監視?」

「もしもの時は守ってくれるようにな」

「それは有難いね」

「ついでに明日香用の魔道具も貰った」

「どんなの?」

「魔術の発動補助用のスティック。防御魔術が複数施された腕輪。一回死んでも生き返れる効果のペンダント」

「ラスボス行く前みたいな装備だね」

「明日香だけは人間だからな」

「用心に越したことはないからね」


 俺と咲希はともかく明日香は人間だ。俺たちと違って簡単に死んでしまう。こんな世界を旅するならこれだけの装備があってもいいだろう。


「お兄ー、こんなんでいいー?」

「どれどれ……」


 呼ばれて明日香の傍に近寄る。


「いくよ、《ウォーターバレット》」


 銃の様に形を作った明日香の指先から水の銃弾が発射されて的の木を撃ち抜く。そのまま貫通して後ろにある木に衝突してただの水に戻る。


「十分だ。じゃあ実践にいこうか」

「うん!」



 ***



「むりむりむり!!!死ぬ!死んじゃう!」

「そいつは当たっても痛くないから大丈夫だぞー」

「そう言われても絶対痛いじゃん!」

「大丈夫だって、だから落ち着いて攻撃して倒せ」

「あーうー!もー!」


 明日香が今戦っている……いや鬼ごっこをしている相手はミートリノというイノシシの魔物だ。異世界なのに地球の英語が使われている疑問は今は置いておいてこいつは比較的無害で初心者向けの魔物である。


 イノシシぐらいの速度で突進してくるものの角はないし頭の部分、額の辺りはクッションのように柔らかい。理由はそこに体毛が集中していてそれがクッションになるからだ。だからいくら突進しても突進自体のダメージは受けない。


 まぁ勢いがあるから吹き飛ばされはするが。


 そんな魔物相手に明日香は身体強化を使って鬼ごっこをしている。魔術撃てば一撃なんだがやはり精神的にキツいようだ。


「仕方ない、私がサポートしてくるよ」

「頼んだ」


 そう言うと咲希は立ち上がってその場から消える。そして明日香と魔物の間に現れる。


「よいしょー」


 一切力の入らない声で魔物を掴んでそのまま地面に沈める。


「よし、明日香ちゃーん。出番だよー」

「は、はい!《ウォーターバレット》!」


 地面に埋められたミートリノの眉間に明日香の魔術が直撃してその命を刈り取る。これにて初めての魔物討伐完了だ。


「ナイス!」

「私仕留めれたの……?」

「ぐだぐだだったけどな」

「うぅ……」

「ま、ゆっくり慣れていけばいい」

「うん……」


 ギルドで買った(金はアルスから幾らか貰った)収納魔術の付与されたバッグに魔物の素材とかをしまう。


「さて、ちょっと奥の方に向かうか」

「そだね、私も体動かしたい」

「私はもう疲れたよ……」

「じゃあ明日香は背負っていくか」

「お兄おねがーい」


 明日香を背負って俺たちは森の奥に進んで行く。それから三十分程歩いた所で広場を見つける。ちらほらと冒険者らしき人がいるし恐らく休憩地点なのだろう。


「お、昨日の少年じゃねぇか」

「見てたんですか」

「おう!凄かったな!……そうだこいつをやるよ!昼飯にでもしな」

「ありがとうございます」


 こんな感じの会話を数回繰り返して俺たちはようやく広場の端の方に座る。


「なんか色々貰ったね」

「ちょうどいいしお昼にするか」

「だね」

「私お腹ペコペコー」

「ちょっと待ってな」


 バッグから調理器具と先ほど明日香が狩ったミートリノの肉を取り出す。


 この魔物見た目はイノシシの癖に味は牛とかいう謎の生き物なのだ。イノシシは豚の仲間なんだけどな……とか疑問を生ませてくるが気にしないことにしている。


 そんな事を考えながら手早く解体を済ませて肉を焼いていく。一緒に道中で採取した食べれる薬草も調理する。


「ん、これで完成だな」

「和くんすごーい!」

「明日香が初めて仕留めた魔物の肉だし、最初に食べな」

「ありがと。いただきます」


 あむっ、と大きく一口食べて少しして飲み込む。


「どうだ?」

「めっちゃ牛肉」

「はは、そうだろ。こいつはそういう魔物だからな」

「見た目詐欺じゃん!」

「和くん!私も食べたい!」

「ちょっと待ってな」


 咲希の分も調理する。ほかの冒険者から貰った食材なんかも並べれば結構立派な昼飯だろう。ちなみにこんな感じに料理するのは割と普通にある。余裕がある時は大体みんなするので違和感などはない。


 強いてその違和感をあげるなら俺が解体をしたことぐらいだが、まぁ昨日の事があるし納得されるだろう。


「牛肉食べてると白米が欲しいねぇ」

「私もー、和くん白米ない?」

「流石にここじゃ出せん」

「だよねー……」


 能力を使えば出せないこともないが流石に人目がありすぎる。魔王時代ならどこでも使えたので子供たちに自慢がてら色んなものを生み出してプレゼントしたりしていたが……今は無理だ。


「さて、昼を食べたらもう少し探索しようか」

「ん、明日香ちゃんは大丈夫?」

「うん。もう動けるよ」

「じゃあ背負わなくてもいいな」

「後はちゃんと自分の足で歩くよ!」


 お昼ご飯を食べ終えてお腹を休ませていると森の奥へと続く道から1つの集団が帰ってくる。しかしその姿はボロボロでまるで何かに襲われたような感じだ。


「何があった!?」


 近くの冒険者が駆け寄って比較的傷がマシな戦士に話しかける。


「よく分からねぇ魔物に襲われた。全身を黒い霧みたいなのが覆っていて攻撃が通らず一方的にやられた。幸い誰も死んではないが……」

「わかった。直ぐに救助を呼ぶ。ここにいるやつで治癒が出来るやつはいるか!いるならこいつらの治療を!それと戦えるやつは警戒に当たれ!」


 広場にいた冒険者が一丸となって動き出す。俺も周辺の警戒に当たる。咲希には明日香を守るように頼んだ。


「おい!アイツじゃないか!?」


 少しして一人の冒険者が叫ぶ。その方向を見ると確かに先程上げられた特徴が当てはまる魔物がいた。


 大きさは狼程度。全身を黒い霧が覆っていて目と思われる部分は赤く光っている。


「……シャドウウルフか?なんでこんなとこに」

「和くん知ってるの?」

「ああ、あれは冥界の魔物のだな。本来は召喚魔術なんかで呼び出して使役するんだが……見たところ使役の形跡はないな」

「てことは冥界から流れてきたってこと?」

「もしくは誰かが使役しない前提で召喚したかだ。後は召喚者が死んだか」

「強さは?」

「中級魔術ぐらいまでの攻撃が通じない霧の衣を持ってるのと、あの爪は斬鉄っていう魔術が付いてる」

「斬鉄?」

「切れ味を大幅にあげる魔術だ、文字通り鉄ぐらいなら簡単に斬れる」

「……ここにいる魔物じゃなくない?」

「本来は強力な魔術師が召喚して使役する魔物だ。さっきのパーティが全滅してないのはかなりの幸運だな」

「すごいね、さっきの人たち」

「それももう一つ厄介な点がある」

「まだあるの!?」


 その直後シャドウウルフが雄叫びをあげる。すると広場の周囲の森がガサガサと音を立てて複数のシャドウウルフが確認できる。そう、これがその厄介な点だ。


「仲間を呼びやがった!!」

「結界は!?」

「もう張れる!」


 その言葉の通りに広場を結界が覆う、見たところそこそこ頑丈そうだ。普通なら安心だが……


「なっ!?」


 シャドウウルフがその爪を奮うとあっさりと結界が引き裂かれる。


「これが魔術の効果?」

「そ、倒し方はとにかく攻撃してまずはあの霧を晴らす。そしたら後は普通の狼と一緒だ」

「お兄、私は?」

「明日香はなるべく広場の中心にいてくれ。俺と咲希で殲滅する」

「わかった、気をつけてね」


 こうして俺と咲希はそれぞれ駆け出してシャドウウルフとの戦闘を始めた。

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