再会と手合わせ
森の中の小屋を出発して数時間。俺たちはギルドの食事スペースでお昼ご飯を食べていた。
ここは自由都市パネラ。身分さえ保証されていれば誰でも入れる都市で自由、という名にふさわしい場所だ。
「ここの街のご飯は美味しいね、えっと、前の……」
「変わってなければ公国アンドルだな」
「そこよりも美味しいね」
「そりゃよかった」
「にしても国の名前って何かから取ってるの?」
「実際そんな感じで決まってるはずだぞ。神獣の名前がアンドルだし」
「神獣の名前が国の名前なの?」
「ほぼそうだな。敬意を示すとかでやってる。神獣がいない国は別だが」
「異世界って感じだね」
お昼ご飯を食べ終え、ちょっとしたカフェに移動する。金欠問題は山の中で採取した薬草や、ゴブリンなんかの素材を買い取って貰うことで今日の分はなんとかなった。宿代がないからなにかしなきゃいけないけど。
「ん?なんか外騒がしいね」
「ほんとだ、なにかイベントかな?」
「私は事件とかだと思うよ、咲希姉」
「咲希は異世界をイベントまみれだと思ってないか?」
「そうだよ?」
「悪いことは言わない。早めにその幻想は捨てとけ」
「えー……」
しょぼんと机の上に沈み込む。しかし本当に外が騒がしいな。なにがあったのか気になる。
「すみません、なにかあったんですか?」
「あぁ、召喚された勇者が数百人死んだらしい」
「……なるほど」
「それも殺されたそうだ。誰がそんなことしたんだか……」
そう言ってその人は店を出ていく。俺も席に戻って二人にその話をする。
「死んだって……」
「勇者って脆いんだね」
「……心当たりがなくも無い」
「どういうこと?」
魔王として君臨し、この世界を安定させてから俺は悪では無くなった。よって色んな国と普通に交易もしたし条約なども結んだ。しかし怨みは無くならない、それで過去に何度も勇者が召喚されたり、勇者が生まれたりし俺を殺そうとしてきた。
けど勇者の実力と俺の実力はかけ離れていて絶対に勝てないようになっていたのだ。だから俺は勇者が来るのをイベントとしてちょっとした娯楽にしていた。その時のマニュアルだってある。今回もそれに則ってイベントを始めたのだろう。それならば勇者達はまだ完全には死んでいないはずだ。
ということを事を2人に話す。
「なんというか……」
「お兄って相当だね」
「俺は悪くないぞ?血気盛んな奴らが考えたことでな」
「でも許可だしたのはお兄だよね」
「うぐっ」
「和くんも楽しんでるよね」
「うぐぐっ」
「まぁそれはいいとして私たちは安全なの?」
「た……ぶん」
「怪しいね」
「ここの都市は一応魔王の庇護下だから大丈夫なはずだ。多分そろそろ魔王軍の誰かが説明にくるだろうし」
「ほんとにイベントだね」
「まぁな。その代わり魔王の庇護下じゃない街や国はこれから大荒れする。そこにはいけないかもな」
そうしているとピーンポーンパーンポーンとチャイムがなる。
『この後十四時から魔王軍幹部アルス様よりお知らせがございます。場所は中央公園です。繰り返します──』
「……そういえばここの担当はアルスだったな」
「見に行ってみる?」
「流石に俺バレるぞ?」
「私は見てみたいかも、お兄の部下」
「そういうなら行くか」
「……シスコンだねぇ」
「お兄ありがと」
こうして俺はかつての部下、アルスを見に行くことになった。
***
『皆様お久しぶりですね』
スピーカーからアルスの声が響き公園内に伝わる。それを俺は最後列の席に座って見ていた。
アルスが演説をしているのは公園内のステージだ。このステージは逆ピラミッド状になっていて後ろの方からでもしっかりとステージを見ることができる。既にアルスからチラチラと視線が飛んできているため俺はバレているのだろう。考え事をしているとアルスの演説が終わって、この後はちょっとした教室をするらしい。子供達が最前列まで走っている。中には冒険者も沢山いる。
「教室って……ほんとに魔王軍は嫌われてないんだね」
「まぁな。それだけの努力したし」
「アルスさんイケメンだね」
「あいつ性別ないからな」
「え゛っ?」
「あいつ夢魔だから」
「お兄、私の夢返してよ」
「知らんがな」
なんの夢を抱いてたんだと聞きたくなるが堪えて始まった教室を見る。子供や冒険者を対象にした魔術教室でこうして不定期に開催されている。話半分程度にそれを聞いていると突然俺に声が掛かる。
「ふむ……では最後列にいるお兄さんにお手本を見せて貰いましょうか」
おい。
「そこの美女二人に挟まれてるお兄さん、こちらへ」
「悪意ありすぎないか?」
「おや?違う言い方がよかったですか?」
「そうだな、恋人と妹に言い直してくれ」
「では恥ずかしいところは見せられませんね」
恋人、といったことで咲希がほんのすこし頬を染めている。そして話は一応聞いていただけに模擬戦をさせられるらしい。
「和くん頑張れ〜」
「お兄ファイトー!」
「呑気な……」
「話は聞いていましたね?」
「ああ、身体強化のみでアルスと模擬戦だろ?」
「ええ、武器はなにを使ってもいいですよ」
そういうとステージ上にゴロゴロと木製の剣やら槍やらの武器が落ちてくる。
俺がアルスを呼び捨てにしてことが気に入らないのか、態度が気に入らないのか子供や冒険者からの視線が痛い。
「これを使うよ」
「では私も」
お互い両刃の長剣を取り構える。
「では念の為結界を張りますね」
魔道具を使いステージに結界が張られる。これでもし武器が飛んでも観客には当たらないし、怪我もしない便利な模擬戦用の結界だ。
ちなみに魔王軍制作、ギルドにて販売中。この世界の通貨で銀貨一枚。日本円にして千円で買えるお手頃価格となっています。
(本気でいくぞ、アルス)
(もちろんです魔王様)
思念のみで会話をする。これなら観客にバレることもないだろう。
「ではいきますよ」
「ああ」
お互い身体強化を発動する。身体強化は初めてでもパワードスーツぐらいの強化をできるが熟練者になればパンチ一つで家を壊すなんかも余裕で出来る。防御力も物理攻撃なら大砲の直撃なんかで死なないようになるなど成長の幅が大きい。
では俺たちがそれを使用するとどうなるか。
答えは簡単だ。
「ふっ!」
「はあっ!」
俺とアルスは同時に踏み込んで斬り掛かる。ちょうど対になるような軌道を描き二人の中心地点でぶつかる。
そしてバキッと音を立ててお互いの剣が半ばから折れた。しかしそれは予想されていた出来事。木剣如きが俺たちの振りに耐えれるはずがないのだ。
瞬時に距離を取り新たに武器をとる。俺は能力で武器を作り出し、アルスも同様に二本の剣を取り構える。
「いきますよ」
アルスが残像を残し消える。俺の背後に現れて斬り掛かる。
「その程度で殺れるとでも?」
「まさか」
振り押されたアルスの剣を弾き、アルスの顎を目掛けて蹴りを放つ。それはもう一方の剣で防がれ、再び距離が開く。
それも一瞬のことでステージの床に穴が空くほどの勢いで俺たちは距離を詰め鍔迫り合いの状態に持ち込む。
「流石、魔王軍幹部」
「貴方もやりますね」
今更ながらお互い知らない体で軽く言葉を交わす。
その直後、今度は俺から仕掛ける。剣の触れ合っている部分を起点に衝撃を飛ばす。
それだけでアルスの体が浮き足が地面から離れる。しかし思っていたよりも効果は小さい。ある程度相殺されたのだろう。
「浮いたなら十分」
「させませんよ……!」
俺は腰から武器を抜くような構えをとり、アルスは二本の剣を大上段に構える。
「《
「《
アルスの振り下ろした剣を俺の切り上げた一太刀目が弾く。そしてそのまま振り上げた剣を振り下ろす二太刀目を放つ。これが二段階の抜刀術、氷華だ。
虎狼も通常ならば相手の武器を破壊し、敵ごと地面を割るぐらいの威力があるが弾いてしまえば関係ない。
「ふっ……!」
咄嗟に剣の軌道を変えて俺の二太刀目を防ぐアルス。
「ちっ……間に合うか……」
「当然でしょう……!」
そのまま火花を散らしながら暫く硬直する。
が、それも長くは続かなかった。俺が剣からを手を離したのだ。
重い音を立てて剣がステージに落ち俺も膝を着く。
「はぁ……はぁ……」
「……ふぅ。今のは危なかったですね」
先程までとは違い俺たち以外にも聞こえる声量でわざとらしく呟く。
それからお互いを知らない体に戻って感想を言う。
「もう少し体が成長して出来上がればもっといい勝負が出来るかも知れませんね」
「……だな」
息も絶え絶えな俺はそう返すのが精一杯だ。
神獣を倒した時のように俺の体は本来の力を出せない。今は無理やり身体強化で誤魔化していたのだ、こうなるのも仕方ないだろう。
「結界を解きますね」
そう言って結界が解ける。すると観客から盛大に拍手が巻き起こる。
一分程度の僅かな時間の模擬戦だったが彼らには十分だったのだろう。俺はどうにか自力で立ち上がり拍手を受け止め、二人の所に戻る。
「もうむり」
それだけ呟いて咲希に向かって倒れ込む。
「ん、お疲れ様。かっこよかったよ」
「そりゃよかった」
それから暫く落ち着くまで咲希に膝枕をされて俺は寝ていた。
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