勇者たちの悲劇
学校が突如謎の光に包まれて生徒、教師全員が巨大なホールに転移した。その事実をほぼ誰もが受け入れれてない中いかにも王様という人物が話を始める。
君たちは勇者で~とか魔王を倒すべく~とかのまるでフィクションのような話を聞かされるがなにも入ってこない。
しかし冷静な生徒、教員もいたようでその中から出てきた質問で皆が徐々に状況を理解していく。なぜか
当然彼らは3人の有名人がいなくなったことにも気づけていなかった。
能力だのなんだのの説明を受けて自分たちの状況を理解したのち歓迎パーティーが盛大に行われて勇者達は眠りについた。700人以上の生徒、教員がいたが全員に個室があるほどでこの国がいかに発展しているかを実感させられた。
実際はそれように緊急で建てられたものなのだがそれを勇者達が知ることはない。
翌日勇者達の訓練が始まった。6人で1パーティーとなって国の地下にあるダンジョンの低階層や、兵士の訓練場で特訓をしていた。
「大変です!」
しかしその平和な空気は1人の兵士が持ち込んだ報告によって一変した。
「この国の神獣が何者かと交戦し、そののちに神獣が殺害されました!!」
「なに!?」
「また戦闘が行われた地域は焦土と化しており復旧にかなり時間がかかる模様。調査も難航すると思われます」
緊急時故にその報告が勇者達に隠されることなく行われる。
しかし神獣と言われても勇者達にはその知識がない。それもあって混乱に陥ることはなかった。またその日の晩に召喚者の少女、この国の王女から説明を受けて全員が納得してこの話は完結した。
———はずだった。
深夜突如轟音とともに勇者達の寝床が襲撃される。
身長は2mを超えていて武器はその身長程ある大きな鎌。全身を黒いボロボロのローブで覆っていて顔は一切見えない。
「何者だ!!」
リーダー格の一人である生徒会長が即座に武器を取り出し戦闘の構えを見せる。勇者になって日が浅いとはいえその実力は異常とまでいえるペースで成長している生徒会長が相手をしたことで他の生徒にも余裕が生まれて次々に戦闘を始めようとする。
「我が名はグリザル。神獣を殺し、貴様ら勇者の選別を行うものだ」
「グリザル……?」
「まだ伝えられていないか勇者共」
「どこかで見た気が……」
会長の隣に立つ人物がグリザルという名に違和感を覚えるがその正体に自力でたどり着くことはなかった。
「我は魔王軍幹部の一席を預かるものである。……全く今の勇者は危機感に欠けているな」
「ふん、幹部だろうが知らないが貴様こそ危機感に欠けているのではないか?」
「ほう?」
「ここは我ら勇者の独壇場だ。自身と我々の実力差もわからぬまま来たことを後悔するといい!!」
その言葉を区切りに生徒会長を始めとした前線を張る勇者にいくつものバフが付与される。当然これは能力由来のもので魔術ではない。
「死ね!魔王の手先め!」
生徒たちは一切の抵抗なく襲撃者に向かって様々な技を放つ。
「魔王の手先を名乗る愚か者にはこれがお似合いだ」
攻撃が止み徐々に煙が晴れていく。そしてそこにいたのは———
「やはり勇者といえどこの程度」
「なっ……」
「所詮貴様らの生まれたての能力では我が外套に傷をつけることすら出来ん」
「ちっ……やっかいな装備だな」
この時点で勇者達は逃げるべきだったのだ。だがグリザルの言動からその強さを勘違いさせられていたし、自分達の力に過信してまともに解析を行わない勇者達にはその判断は取れなかった。
「ではこちらの番だ」
グリザルがそう言って鎌を掲げ地面に突き立てる。そして彼を中心として禍々しい魔力が放出され魔法陣が広がっていく。それは勇者達全てを範囲に収めて停止し結界となり完全に勇者達を閉じ込める。
「これは……」
勇者は為す術なくそれを受け入れる事しかできない。防御の術を知らないからだ。
「弱き者には死を強き者には生を《
暗闇が結界内を満たす。
「うわっ!」
「なんだこれ!?」
「くそ!晴らせねぇぞ!」
勇者達の声が聞こえるがその数は明らかに少ない。
「くっ!総員!近くの者とお互いを守りあえ!生き延びろ!」
「その必要はない。既に選別は終了した」
「なにを言って……」
生徒会長のその言葉は最後まで続かなかった。
闇が晴れたそこには数百の勇者の死体があったからだ。
「……は?」
彼の隣に先程まで立っていた生徒が倒れる。
「っ、おい!」
咄嗟に身体を掴むがその身体は重力に身を任せているのみで起き上がろうとしない。
「……死んでいるのか」
「その通りだ。我等の魔王に挑む資格のあるものだけを選別した。95人も残ったのだ光栄に思うがいい。貴様らは優秀だぞ」
「ふざけるな!!」
再び剣を取りグリザルに攻撃を仕掛ける。しかし外套に弾かれてダメージが入らない。
「くっ……その装備さえなければ……!!」
「ほう?これがなければ我を倒せるとでも?」
「ああ!」
「ならばこれでいいか?」
「なっ!?」
外套を脱ぎ男は黒のタイツのようなもので覆われている全身を見せる。
「さぁ、やってみるといい」
「あまり俺を舐めるなよ!!《
剣が雷を纏ってグリザルの身に迫る。
「……ふん」
しかしグリザルはそれを一瞥しただけで視界から外す、その行動は当然のものだ。
パキィンと軽い音を立て剣が折れた。
「……は?」
「全く、実力差も分からぬとは。度し難い」
「なにを……した」
「もう答える気にすらならん」
そうして彼を拘束する。
「さて、今死んだ者の魂がここにはある。貴様らが我等が王を倒した時この魂は解放されるだろう」
ここでようやく生き残った勇者達が仲間が死んだことを理解する。
「ふざけないで!私の彼を返してよ!」
「俺の親友を返せ!」
勇者の叫びを聞き流してグリザルは話を続ける。
「それと……ふむ、貴様だ」
「えっ、なに?やめて!」
「なっ!!貴様、美羽になにを!?」
「貴様がイリヤ嬢の言っていた者だな」
「ちょっと!はなしてよ!!」
「ではな勇者共、その力必ず我等に届かせて見せろ。期待しているぞ」
「逃げるな!グリザル!俺達の仲間を返せ!」
その叫びは王国の夜に木霊しただけで誰かに届くことはなかった。
ーーグリザルーー
「イリヤ嬢、アルス様ただいま帰還しました」
「お仕事お疲れ様グリザル。その子を渡してちょうだい」
「はっ」
グリザルからイリヤへと美羽と呼ばれた少女が渡される。
「やっぱり、視た通りね」
「グリザルはやはりいい仕事をする」
「これが取り柄ですからな」
「さて、イリヤは魔王様の帰還までに仕事をしておけ」
「わかったわ」
「グリザルは勇者の監視を現地で行え。要所ではイベントは必要だからな」
「承知」
「さて……此度の勇者は我等をどれだけ楽しませてくれるだろうな?」
勇者召喚の儀式。本来は魔王を始めとする悪を祓うために行われる行為。しかしこの世界では魔王は悪ではない。勇者を召喚した王国こそ悪なのだ。故に魔王領の住人、魔王軍は新しい遊びが出来た程度にしか考えない。
勇者というおもちゃを手に入れた彼等には一刻も早い魔王の帰還が望みであった。
そしてイリヤは連れてきた少女に眼を向ける。
「……私の二の舞になんてさせないからね」
どこか悲しげな表情をしながら。
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