魔術の授業
「今日は魔術を覚えてもらう!」
朝ごはんの片付けが終わった開口一番にそう言った。
「この前の身体強化とは別の?」
「そうだな、というか身体強化すらまともにやれてないだろ」
「確かに」
神獣とかいう奴のせいで身体強化すらまともに出来てないのだ。次の街に行くまでにせめて魔術の一つや二つぐらいは覚えておきたい。
というのは建前で本音は明日香に能力が付与されているかの確認だ。これは少し詳しく調べないとわからないので身体強化なりで教えるフリをして調べる。堂々とやってもいいが明日香に不安を与えたくないしな。
「ちなみに身体強化はどこまでできた?」
「なんかこうグッってできそうな感じ」
「……わからん」
「じゃあいっかいやってみるね」
「おう」
明日香が立ち上がって体勢を作る。そして目を閉じて全身に魔力を流していく。
「……こんな感じ?」
「それ維持してろよ」
「うん」
確認するフリをして俺は明日香に能力が付与されているか確かめる。一応身体強化も確認したけど特に問題なく使えていた。これぐらいはすぐ出来ないと困るが。
「うぅ……明日香ちゃん身体強化できたの?」
「多分?」
「すごいね……」
「咲希は動けるか?」
「むりです、変わらず全身筋肉痛です」
「だから日頃から動いとけって言ってたのに」
「そうだけど……」
咲希は昨日の戦いのせいか全身筋肉痛らしい。転んでおくので精一杯だとか。よく昨日の夜中踊れたなと関心している。
咲希がこういうこともあり魔術の勉強はずっと小屋の中でする予定だ。その方が結界なりで隠蔽とかもしやすいし。
「ん、問題ないよ」
「ありがと」
「じゃあ今日一日は身体強化発動したまま過ごしてくれ」
「ええっ!?」
「慣れてもらわないと困るからな。がんばれ」
「力加減失敗したらどうするの?」
「俺も咲希もお前の身体強化程度じゃかすり傷もつかないし、ここにある道具は俺が作ったのだから壊れても大丈夫だ」
「……変な安心のさせかたするね」
「そうか?」
「そうだよ」
ジトーと睨まれながら俺は料理を作り始める。俺と明日香は食べたけど咲希はまだ食べてないからそのためのご飯だ。どうせ魔術を教えている間は暇になるし。
「さて、水と風どっちの魔術を使いたい?」
「水で!」
「おっけ、んじゃ水魔術の初級からいこうか」
「なにするの?」
「水を生み出す」
「初級って感じ」
「今日は水を生み出してそれの形、温度、状態を変えるとこまでやってもらう」
「……難易度高くない?」
「高くないぞ、水で武器とか作ったり、冷水と熱湯にしたり、気体と固体にするだけだ。簡単だろ?」
「なんか言われたらできる気がしてきた!」
「じゃあまずは水を生み出すところからだな」
そうして俺はどこからともなくホワイトボードを出して明日香に解説をしていく。
「まず魔術を使う時の基本的な法則の話だ」
「はい」
完全に生徒と教師の構図だが……まぁいいだろう。
「魔術は魔力を消費して使う、これが基本だ」
「うん」
「そして魔力の消費量には使用者の知識と技量が関わってくる」
「例えば?」
「水の魔術は魔力だけでも水を作れるが、大気中に含まれる水分や、池の水を使うことでその使用量を減らせるってことだな。今日はそこまでしなくてもいいけど」
「ふむふむ」
「それで魔力で水なんかを作る時は生み出す物を強く想像する。これだけだ」
「イメージが大切なんだね」
「そうだ。だからそれさえ出来れば……」
そこまで言って俺は部屋中にソフトボールぐらいの大きさの水球を浮かべる。
「こうやって適正がなくても魔術は使えるわけだ」
「おぉー……じゃあ適正ってなんなの?」
「それはまた今度だな。まだだいぶ先の話になるからややこしくなる」
「じゃあ成長すれば教えてくれるんだね」
「そゆこと」
「よーし、頑張るぞー!」
明日香が意気込んでいるのを見ながら俺は出来上がった料理を皿によそっていく。
「咲希、座れるか?」
「……がんばる」
「今日だけは甘やかしてやろう」
そう言って布団を改造して病院のベットのように起き上がらせる。
「便利だね」
「無限に甘やかしはしないからな」
「……だめなの?」
「目を潤ませて上目遣いなんかしても嘘なのバレてるからな」
「ちぇっ」
「まぁそれはいいとしてご飯食べるか?」
「食べる……けど噛めないよ?」
「そのための雑炊だ、病人じゃないから味は普通だぞ」
「ありがと」
「ほれ、あーん」
「ふぇっ?」
「何してんだ、自分で食べれないだろ?ほら、口開けろ」
「あ、あーん……」
妙に恥ずかしがりながら咲希がスプーンを咥える。そしてゆっくりと咀嚼して飲み込む。
「おいしい……」
「そりゃよかった、飲み物は何がいい?」
「お茶」
「あいよ」
ガラスのコップとお茶を作って咲希に飲ませてあげる。零れないように飲ますのが難しかったから追加でストローも作った。自分のことだが能力って便利だな。
「ところで咲希」
「なに?」
「その服装変える気はない?」
「ないよ?なんで?」
「ものすごく目に毒」
「ふーん……」
そう言うといい事聞いた♪と言う感じに頬が緩む。
咲希が今着ているのはダボダボのシャツだ。正確に言うなら俺が着るサイズのシャツ。つまり彼シャツだな。お陰で胸の部分が非常によろしくない感じになっている。
咲希の胸はめちゃくちゃ大きい!って訳ではないけど身体が細い分すごく強調されているのだ。サイズも確かEとか言っていた。詳しい数字はしらんけど多分FよりのEだと勝手に思ってる。
そんな咲希の胸の谷間なりに目線がいかないように鋼の精神で俺はご飯を食べさせ続ける。
「なんか食感のあるものが欲しい」
「贅沢だな……まぁ聞くだけ聞こう」
「たくあんか梅干し」
「日本人か」
「日本人だよ?」
「まぁそれぐらいなら作るけど」
お茶と同様に皿に盛り付けた状態でその2つを用意する。
「やったー!……ついでに口移しとかしてくれていいんだよ?」
「初キスをこんなとこで使いたくない」
「……初キスは子供の時にしたじゃん」
「あれは世間一般ではノーカンなんだよ」
「一緒にお風呂に入ってちゅっちゅっしてたのに?」
「……ノーカンなんだよ」
「今思えばあの時の和くんって子供相応じゃなかったんだよね」
「……ソウダナ」
「和くんのえっち」
「咲希だって俺と変わらないだろ」
「ギクッ」
謎の沈黙が訪れる。そして少しの間無言で食事が続く。
「……なんか転生した同士でするの複雑だね」
「……だな、精神がすり減る」
「よし、あれは子供のやった事だし忘れよう!」
「そうしよう、それがいい」
「お互いの全身くまなく触ったことも忘れよう!」
「ソウダナ」
「その返事は忘れる気ないよね?」
「咲希のことを忘れるなんて無理です」
「じ、じゃあ私も忘れないよ?」
「俺は別に構わないけど」
「うっ……変な自信持ってる……」
一緒にお風呂に入ったことを誰が忘れてやるかの精神で俺は生きていく。当たり前だろう、好きな相手とそんな事ができるのなんて中々ないし、まして子供時代なんてもう帰って来ないからな。転生は別として。
「は、初めてする時とか可愛いね、とか言うんだからね!」
「うぉい!なに口走ってる!?」
なぜか思考が空回りしていて目をグルグルさせて頬を赤らめながら完全にアウトのことを口に出す。
「子供の時とくらべ───」
「ていっ」
「むぐっ………………すっぱい」
「目は覚めたか」
「……覚めました」
「よろしい」
梅干しを口に突っ込んでどうにか黙らせる。全く手間をかけさせるんじゃない。
「お兄」
「どした明日香?」
「そろそろ話しかけてもいいかなって」
「?別にいつでもいいのに」
「いや、バカップルの間に入る勇気は私にはないよ」
「バカップルってなんだ」
「さっきの会話はどうみてもバカップルです」
「俺たちは普通のカップルだろ。なぁ咲希」
「そうだよ、決してバカじゃないよ」
「え?2人って付き合ってるの?」
「付き合ってないが?」
「付き合ってないよ?」
「は?」
「ん?」
「ほんとこの2人わかんない!!」
「うわっぷ!?」
明日香の叫びとともに俺はキンキンに冷やされた冷水を顔に叩きつけられた。
妹よ、魔術の成果は普通に見せて欲しかったな……。
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