龍の襲来と咲希の戦い


 咲希の攻撃のせいで確実にめんどくさいことが起こる予感がしたので俺は明日香を抱えて森の中を高速で進んでいた。


 予定は一度完全に変えることにして次の街にもいかないことにした。恐らく明日にはさっきの場所のことが話題に上がっていると考えた為だ。


 余談だが襲ってきた敵はゴブリンだったようで俺が殺したゴブリンと綾香が破壊したゴブリンの二匹だった。綾香が破壊した方は遺品すら残ってなかったが。


「和くん、どこまで行くの?」

「もう少しいくと洞窟があるからそこを目指す。そこならさっきの場所から山一つぐらい離れているしな」

「りょーかい……一つ疑問なんだけどいい?」

「なんだ?」

「……それにも気づくのかよ」

「この世界に来てからだけどね。比較できたから君の魔力量がどれぐらいかわかったし」

「詳しくは省くが今は力の大半が使えないんだ」

「そうなの?」

「そうじゃないと肉体が壊れる」

「……ああ」

「わかってくれたか」

「うん、切実な悩みだよね」


 多分咲希も同じ経験はしているのだろう。しかし咲希は肉体はすでに人間ではない、種族でいうなら聖人とかの部類だ。対して俺は普通の人間、その状態で魔王の力を使おうものなら身体が耐えられず破裂して死んでしまう。一応最低限のトレーニングはしているからさっき程度の戦いなら問題ない。


「あ、洞窟だ」

「じゃああそこで休憩だな」


 洞窟について安全を確認したのちに簡易的にキャンプの用意をする。魔術で水を出したりして一息ついてから現状を整理する。


「さて、これからどうするかだけど……」

「街にはいけないんだよね」

「そうだな、どっかの現人神がやらかしたからな」

「ナンノコトカナー」


 口笛を吹いてごまかしている咲希を放って俺は明日香に最優先でやることを話す。


「まず適性の確認。それと自衛の魔術の習得が明日香の目標だな」

「うん」

「てことで今度こそこれに触れてくれ」

「ん」


 明日香が魔法盤に手をつけて適性を確認する。


 光ったのはまず四大元素のうちの水と火、二属性は両方光っている。これまでは普通にありうることなのだが……


「属性の方は……バグレベルで高いな」

「お兄これって……?」

「確認できないから予測に過ぎないが、攻撃魔術なら国を滅ぼす程度、支援系なら聖女クラスだな」

「つまり?」

「水と風の魔術に限れば世界最強を目指せるぞ」

「私すごい」

「まぁ最初に覚えるのは適性関係ない魔術だけどな」

「え?」

「最初に覚えるのは身体強化だぞ」

「……よくあるやつだね」

「これで身体に魔力を流す感覚と、魔力を使うことを覚えるんだ」

「なるほど」

「まず俺が明日香の魔力を使って身体強化を使うからその感覚を覚えてくれ」

「わかった」


 この方法はかなり強引なものだけど時間の短縮になるし、説明の難しい魔力の感覚を無理やり掴ませれるので今回はこの方法だ。俺は明日香の手をとり魔力を確認する。これも予想通りかなりの量の魔力がある。こいつフィクションなら余裕で主人公になれるぞ。そんなことを考えながら身体強化を起動する。


「ん……」

「どうだ、わかるか?」

「なんとなく……あとはやってみるよ」

「おう」


 そこまでして俺は明日香のもとを離れて咲希のところに向かう。


「なぁ、さ———」


 呼びかけようとした時だった。突然大きな揺れが起こり洞窟付近を大きな影が覆う。


「なに!?」


 咲希が警戒態勢をとる。俺も最大限の警戒をする。


「咲希」

「なに?和くん」

「これはやばい」

「え?」

「いや忘れた俺が悪いんだけどさ」

「うん」

「この世界ってそれぞれ神獣の領域があるんだ」

「……うん」

「それでそれに守られるように国をつくるんだけど」

「うん」

「それの中にも色々いてだな……」

「はい」

「今上空にいるのは戦闘狂で有名な龍の神獣です」

「はい?」

「多分さっきの咲希の技で寄ってきたんだろうな、狙いは俺達全員だろうけど」

「つまりどうなるの?」

「今からは殺し合いの時間だな」

「……おっけー」


 俺は意識のスイッチを切り変える。空には雷が轟き暴風が吹き荒れる。影が徐々に濃くなっていることから龍は間もなく降下してくるだろう。


「俺達の勝利条件はあの龍の神獣を殺すこと」

「ほかには?」

「この領域から逃げることだな」

「そっちはどうなの?」

「多分無理、明日香を連れて龍の飛行速度から逃げれる自信ある?」

「……ない」

「んじゃあれを殺すしかないな」

「和くんはまともに戦えないんだよね?」

「だな。だから無理やり身体を作ることにする」

「というと?」


 軽く説明ぐらいしようかなと思っていたがもう龍の降りてくる音が聞こえる。相当な魔力量だしもう戦闘が始まってしまうだろう。


「一分稼いでくれ、そしたら俺も戦える」

「わかった、その間明日香ちゃんは?」

「俺が守るよ、これは任せてくれ」

「ん、じゃあまた一分後」

「おう」


 咲希に龍の相手を任せて俺は明日香のいる場所まで走り出した。



ーー咲希ーー


 

 和くんが見えなくなったのをみて私は目の前まで降りてきた神獣に目を向ける。


『我が領域で暴れたのは貴様だな』

「そうだよ」

『ならば貴様に選択肢をやろう』

「選択肢?」

『そうだ、我が眷属となりて忠誠を誓うかこの場で殺されるか』

「眷属になったらどうなるの?」

『なに、永遠に我の下僕となって貰うだけだ』

「なるほど」


 確かに和くんの言っていたように戦うしかないみたいだ。私はゆっくりと神力を練っていく。相手は神獣、なら神としての力を今だせる全てで奮っても問題ないだろう。


「《穿て》」

「グォォ!?」


 先ほどの矢ではなく光線による先制攻撃で確実に一撃をいれる。今度は脳に響くような声ではなく神獣自体の声が聞こえた。その隙に洞窟から出て神獣の背後へと回り込む。驚いている今のうちに翼を破壊したい。飛ばれたら私が不利になるし。


「《付与エンチャント》」


 自分の肉体にそれぞれ能力を付与して一気に神獣の背中を駆け上がる。


「グォォォ!!!」


 半分程の駆けた所で神獣の身体から物凄い勢いで熱風が噴出されて私は吹き飛ばされる。


「きゃっ!」

『小賢しいぞ!人間風情が!!』

「残念!私は人間じゃありません!!」


 軽口を交わしながら私は受け身をとる。木の間を縫って着地、直ぐに駆け出して神獣の方へと向かう。しかし既に飛び上がられていて簡単に手が出せなくなってしまう。


『加減はせんぞ、小娘』

「女の子には優しくしてほしいな」

『そのようなことを聞くとでも?』


 そんなわけないだろう、と言わんばかりに広範囲にブレスを吐いてくる。背後で森が焼けていく音を聞きながら私はとにかく走る。同時に右手に神力を貯めつつ。


『消し飛べ』


 そういうと私を中心に巨大な火球が飛んでくる。


「やっばい」


 火球と言ったけどあれはほぼ小さい太陽だ、目視と体感温度でその危険性を理解する。


「《転移》!」


 私は転移を使って神獣の足元まで跳び気配を完全に消す。


 その直後、轟音と共に先程の火球が墜ちる。大きく地面が揺れ、木々が燃え盛る。はっきりとはわからないが地面も溶けているだろう。どれだけの威力をしていたかを物語っている。


「けど、これで決めるよ」


 右手に集めた神力を解放してを放つ。


「《神威かむい:破光はこう》」


 掲げた右腕から光が溢れ出す。それは一つの大きな光と無数の光の束となって神獣へと向かう。


 神威は神力を使った正真正銘神の一撃。これで倒せるだろうと確信する。


『《———我が寵愛をここに》』


 そんな声が響く。


 その瞬間だった。眼が焼け付く程の光が、鼓膜を破壊する程の轟音が、私の技をかき消す程の爆発が起きて私を含めた周囲の全てを呑み込む。


『……貴様の不運は同じ神力を使ったことだ。神力を使う者同士であればより神力を有している方が勝利する。残念だったな』


 神獣は今の爆発で全ていなくなったと思って立ち去ろうとする。


 放っておけばいいのかもしれない。そうすれば助かるだろうし、なにより和くんも戦わなくていい。力の覚醒はしてしまうかもだけど。


 けど、私の中の神核ココロが告げていた。


 あの程度のモノに負けて終わるのか、と。


「あは、終わるわけないじゃん」


 頭から垂れてきた血を拭い視界に神獣を捉える。完全に油断しているその背に照準を合わせる。


神核励起しんかくれいき


 眠っている力を起こす。それに気づいたのか龍が振り向く、けどもう遅い。もう相殺もなにもさせない。全力をもって撃ち抜く。その準備は出来ている。


『神力解放───』


 今度こそ全力の一撃を撃ちこもうとした時誰かが私の傍で立ち止まる。


「ソレは使わなくていいぞ」

「……え?」

「お前はもうその力を使わなくていい」


 そう私の横に立った人物は言う。


 立派な装束に身を包み、豪華なようで簡素な見た目の剣を握っている。自信に満ち溢れた表情かおをしているその人物───


「後はこの俺に任せろ、全て終わらせてやる」


 和くんがそこに立っていた。

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