魔術と魔法の違い

 

 一晩明けて俺たちは今、街の外に出ていた。


「お兄、これからどうするの?」

「とりあえず別の町を目指して移動して、その後この国からでたいな」

「追ってが来るかもだから?」

「そう」


 咲希の想像している通りすぐに俺達を探す組織なりが来ると思うのだ。あの場から抜け出すのは簡単だけどクラスや学校の皆から忘れられているわけではない。俺たちがいないことに気づけばそれが教師やら召喚者に伝わって捜索が始まるだろう。


 見つかってもそいつらを始末してしまえば簡単だ。けど俺のように人殺しに二人が慣れているはずもない。……昨日のを見る限り咲希は普通にしそうだけどな。仮に咲希ができたとして明日香に人が死ぬところ、もしかしたらクラスメイトが死ぬところを見せるかもしれないのだ。それだけは避けなければならない。


 ──それに全員正気である可能性も低いしな。


「だから今こうやって隣の街を目指してるってこと」

「それってすぐ着くの?」

「途中で一晩キャンプしなきゃだな」

「キャンプできるの!?」

「お、おう。するけど……どうした?」

「咲希お姉ちゃんがかつて見たことない顔してる」


 俺の胸倉をつかんで目をキラキラさせて興奮に息を荒げている咲希をどうにか落ち着けさせる。


「私キャンプとかすっっっごくしてみたかったの!!」

「そういうことか」

「うん!知識だけはあるから任せてね!」

「……いや、基本俺がするぞ?」

「ん?何か言った?」

「イエ、ナンデモナイデス」


 僅かに殺気を孕みながら俺に笑顔を向ける咲希。それに気押されて俺はなにも言えなくなってしまう。うん、全部用意しようとしてたけどやめよう。最低限にしよう。


「それで道中明日香には魔術や戦い方とかを覚えてもらう」

「私だけ?」

「だって咲希に教えれることないし」


 そう言うと咲希は胸に手を当てて「女神ですから」とドヤ顔でいう。デコピンでもしてやろうかと思ったけど話が逸れそうなのでやめておく。


「お兄に一つ質問があるんだけど」

「なんだ?」

「魔術と魔法の違いってなに?」

「いい質問だな」

「いい質問だね」

「なんで咲希も言うんだよ」

「私も気になってたから」

「なるほど」


 魔術と魔法の違い。それについて詳しく説明しなきゃならないけどそれには時間が足りないで簡潔に話す。


「魔術がよく見る魔法だと思ってくれていい。例えば火の玉を作る魔術とかな」

「小説とかアニメでよくみるやつがこの世界では魔術ってこと?」

「そう」

「じゃあ魔法は?」

「魔法は読んで字のごとく魔で法を塗り替える行為なんだ」

「うん」

「つまりこの世界の理を書き換えることができる。わかりやすい例は転生だな」

「転生?」

「転生は本来記憶等を引き継げない、別の世界には生まれ変わないという理を塗り替えているんだ。世界間をまたぐ転移も魔法に分類されるな」

「つまり世界のルールの中で行える行為が魔術ってことで、それの外で行うのが魔法ってこと?」

「流石咲希、大体正解だ」

「ふふーん」

「ただこのことは世界に認知されていない……はずだ」

「確定じゃないの?」

「俺が転生している間に変わっている可能性がある」

「なるほど」


 俺が転生する前はこのことを知っているのは俺を含む魔王軍の幹部や、魔術の極致に至ったものだけだった。世界に三つある魔術学校の校長とかがその極致に至ったものだったりする。ただ他のものがそれを知らないため、この世界では魔術を魔法と教えるし、学校名も魔法学校である。


 さらに掘り下げるとこの魔術、魔法の定義は世界によって変わる。いちいち言い換えるのは面倒だからこの世界の基準で話すが、この定義が地球だとそもそも魔術という概念が存在しないし、そもそも魔力が世界に満ちていない。魔術で行える行為のすべてが魔法と呼ばれるほどそういう現象がない。


 だからこそ地球には神秘という言葉があるのだろう。咲希のような存在、魔法、超常現象、そのすべてを地球では神秘として片付けている。そうして納得させることで人々の不安を煽らないとかの目的もあると思うけどな。


「とりあえず私は魔術を覚えるってことだよね?」

「そうだな。今はそう思ってくれていいよ」

「わかった」

「それと一つ注意点」

「さっき言ったように魔法と魔術の違いを知っているものがいない可能性が高い。だから人に説明するときは魔法や、魔術ってことはぼかして説明すること。また相手が魔法と言って魔術を起動しても驚かないこと」

「確かにその違いを知ってたら魔法って言われるとびっくりするよね」

「ああ、だからこの二点は気を付けてくれ」


 これだけ話たところで森の中の広場に出てくる。近くには川も流れているし休憩にはぴったしだろう。


「ここでお昼を取って、それから明日香に魔術とかを教えようか」

「はーい」


 それから薪集めをしたり、俺が食材を作ってお昼ご飯にする。一応キャンプイメージということで飯盒でご飯を炊いて魚を焚火で焼くことにした。


 終始咲希は目を輝かせていた。




「ふー、沢山食べたね~」

「お兄ってほんとになんでもできるね」

「まぁ魔王様だからな」

「それで片付けていいの?」


 お腹一杯になった二人を休憩させている間に俺は道具に片付けをする。と言っても水魔術で洗って、風魔術で乾かして収納魔術でしまうだけだ。日本にいた時もこれができたらなー、と懐かしみつつものの数分で終わらせる。


「さて、まずは恒例の魔術適正を確認しようか」

「おおー!」

「というわけでこちらに適正を確認するプレートを用意しました」


 正式名称は【魔法盤】安直だがわかればなんでもいいし気にしなくていいだろう。


「これでわかるのはどれに適正があるかだな」

「適正かぁ」

「火、水、風、地の四大元素。光、闇の二属性。このどれに属するかがわかる」


 四大元素がまずどれが使いやすいかの適正を確認し、二属性は使いやすい魔術を確認する。光であれば主に防御や支援、などが闇であれば攻撃や妨害系が使いやすいとされている。まぁそう言われているだけだからそんなに気にすることもないんだけど。


 ただ二属性は特に詠唱に違いがでる。いずれ詠唱は簡略化もしくは省略できるが必要なうちは光なら「太陽の神よ」で始まり、闇であれば「月の神よ」で始まる。


 戦闘中相手が詠唱を必要としている場合これでどんな魔術を使うか判断して行動するのだ、だから詠唱が弱いって言われるんだよな。


「ちなみ俺が触れるとこうなる」


 魔法盤に触れて軽く魔力を流す。ここで「さっすが魔王様!全部の石が光るんですね!」とかできたらかっこいいが生憎どれも全く発光しない。


「え?お兄もしかして……」

「そう、俺はよくいる適正なし。魔術は向いていないんだ」

「とことん主人公だね、和くん」

「そりゃどうも。さ、明日香も触れてみてくれ」

「うん」


 明日香が魔法盤に手を付けるその瞬間―――木陰から弓矢が放たれ明日香の頭を目掛けて飛んでくる。


「えっ」


 突然のことに明日香は固まるが俺はその弓矢を掴み明日香に当たる直前で止める。そしてそれをそのまま投げ返して弓を射った何者かの頭を貫く。


 反撃されると思っていなかったのだろう。その近くから一つ足音が遠ざかっていく。俺は追う必要はないと判断するが隣から小声でなにかが聞こえた。


「《貫け》」


 咲希が右手を前に突き出した先に光が集まって一つの矢になる。そして完成の直後それは消えた。


「——あ?」


 思わず素っ頓狂な声を上げる。そしてそれをかき消すように轟音が辺りに響く。


 それが咲希の放った矢がもたらしたものだと気づくことに数秒要して俺は明日香をかばうように立ち上がる。


「咲希……お前……」


 ここで俺はようやく咲希の力の一端を見たのだ。放たれた矢は文字通り光速で発射されて敵もろとも地形を破壊したのだ。


「空気の読めない敵だこと」

「一番空気を壊したのはお前だ、咲希」


 俺は咲希の肩をポンッと叩いてそう言った。

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