咲希と和樹の正体
ご飯を済ませて宿屋にチェックインをする。ここまでのお金は全てさっき盗んだ財布から出てきている。意外と中身があったので助かった。もし足りなかったら特急でギルドの依頼をこなさないといけなかっただろう。
外を見るともう日が暮れてきていて転移をしたのがかなり遅い時間だったことを知る。さっきのご飯は早めの晩御飯ぐらいになりそうだ。
「さて……どうせ長くなるしさっさと俺のことを話すよ」
「わくわくっ」
「お兄、早く」
そう言うと咲希が目をキラキラさせて早く早く、と急かしてくる。明日香もペシペシと叩いて急かしてくる。
「……そんなに面白い話でもないぞ?」
「気になるじゃん」
「そうだよ、気になるの」
「そっか、じゃあ完結に言うわ」
一呼吸置いて俺はまず答えから言う。
「俺は元魔王でこの世界に君臨してたんだ」
……あれ、無反応?
「えっ……と、それほんと?」
「そうだよ、明日香が寝れない時に話した物語は大体魔王時代の話だぞ」
「お兄それまじ?」
「大マジだ」
「和くん魔王様だったの?」
「そうだよ」
流石の咲希も驚きを隠せないようでまだ困惑が顔から抜けていない。明日香はぶつぶつと呟いてなにかを確認している。多分寝る前にしてた話だろうな。
「んじゃ簡単にだけど経緯を説明するよ」
妻を探す目的というのは本人の前なので流石に伏せたが、転生して日本に行ったこと。実は魔術をちょいちょい使ってたことなどを話す。
実際はもっと質問に答えながらだったから結構時間を取られてしまった。
部屋にある時計を見ると針は午後七時を示している。約二時間程話した計算になる、喉も乾くわけだ。
「俺の話はこんなものかな」
「どうにか理解できたよ」
「私はもうお腹いっぱい……」
「まだ咲希の話があるぞ」
「……そうだった」
もう入らないよ、と言わんばかりにベットに明日香が倒れ込む。そんなことを言っていても多分理解は出来るだろうし俺は咲希に話していいよと言う。
「私はね……お寺の人からよく現人神って言われてることは知ってるよね?」
「おう」
「私は実際に女神の生まれ変わりなの」
「は?」
「だからそもそも人間じゃないし、魔力もあるし……
「神核だぁ!?」
思わず素っ頓狂な声をあげる。そして全ての合点がいった。女神の生まれ変わりなら当然俺の妻候補の中でもトップに立つだろう。なんせ俺は神すら殺せる魔王だ、そんなやつの結婚相手なんだから元女神がヒットするのは当然だろう。
「……なるほどな。それでさっきのことも見えてたのか」
「うん、ちなみに集中したら透視とか出来るよ」
「えっ」
「実は家にいる時に和くんのこと覗いたりしてました。……てへっ」
片目をつむり舌を出してごめんね?と言う。
「その可愛さに免じて今回は許す。けど今日の晩は一緒のベットで寝てもらうからな」
「それぐらいならお安い御用だよ」
「抱き枕として頑張ってくれよ」
俺たちが軽口を交わしあっているとさっきから反応がない明日香のことが気になってそちらを見る。
「……寝てね?」
するとすぅすぅ、と息を立てて寝ている明日香の姿があった。
「多分疲れたんだろうね」
「転移だったり山歩いたり、イベントあったりしたからな……」
「よくよく考えれば私たち大変な状況だね」
「俺がいるし大丈夫だよ。それに咲希も大丈夫だろ?」
「うん。この世界に来てから調子いいし任せてよ。でも和くんには守ってもらうよ?」
「任せろ」
二人で窓際に立って星空を見る。
「綺麗な空だね」
「だろ、日本より綺麗だぞ」
「和くんはずっとこんな世界にいたんだね」
「ああ、これから沢山この世界のことは見せるから期待してろよ?」
「じゃあ一つお願いしてもいい?」
「なんだ?」
「君の住んでたお城を見てみたいな」
「……ああ、立派な城だから見て驚くなよ?」
小指を交わし約束をする。そこで俺は気になっていたことを聞くことにした。
「そう言えばさ」
「うん」
「山下ってる時どうしてあんなことを聞いたんだ」
「あんなこと?」
「信じてるって言った直後に何者か聞いてきたじゃん」
「それのことね」
「そう、気になってたんだ」
「あれは油断させるためだよ。もし君が私の知ってる君じゃないならあの時点で殺してたし」
「……こっわ」
「でも信じてるってのは本音だよ」
「それはよかった。嘘って言われたら明日まで泣いてたかもしれない」
「それはそれで見てみたいなぁ」
明日香を起こさないように静かに二人で話し続ける。それから少しして俺のお腹が鳴ってしまう。
「……む」
「お腹減ったの?」
「流石に成長期の俺には足りなかったらしい」
「食堂空いてるかな?」
「なくても大丈夫だよ、見てな」
俺は部屋に併設されてる小さいキッチンに向かう。食材はおろか調味料すらないが俺には問題ない。
一時間程かかってしまったが完成したのは立派な和食だ。
「……」
「どうした?」
「私も食べていい?」
「もちろん」
同時に「いただきます」と言って食べ始める。まだ日本を離れて一日も経っていないがそのご飯達は無性に懐かしい味がした。
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