転生した世界と妻(予定)
ーーイリヤーー
突然魔王様の存在を感知できなくなって転生をしたんだな、ということを悟る。せめて一言ぐらい誰かに連絡を残してくれればいいものを、と嘆くが今に始まったことではないしすぐに立ち直る。
どうせ部屋にメッセージでも残っているだろうと推測して来てみれば案の定一枚の紙きれが残っていた。
「……魔術ぐらい使おうよ」
そんなことをぼやきながら無造作に置かれた紙を拾いあげる。
『行ってくる、後は頼んだ』
「ま、そうだよね」
元よりこの世界の運営に魔王様は既に関わっていないし、なんなら管理するためのシステムも作られている。だから不安なんてものはない。それよりも魔王様が転生した事実をアルスに伝えに行くべきだろう。
ということで私たち魔王軍幹部の仕事場へと足を運ぶ。
「アルス~いる~?」
「なんですか?」
「魔王様が転生したみたいだからその報告」
「なるほど」
書類整理をしていたらしいアルスが顔を上げてこちらを見る。相変わらずムカつくぐらいの美形で作業中ということもあり眼鏡をかけていて似合っているのが余計に腹立たしい。
「イリヤ、貴方の未来視ではどうなっていますか?」
「あんたに言うわけないでしょ?」
「ふむ、では少しだけ痛めつければ答えてくれますか?」
「……素直に答えるわ」
「よろしい」
過去にこいつにコテンパンにされた上に何度も辱しめを受けたことのある私はあっさりと折れる。
「
「……やはりそうなのですね」
「ええ、だからそれまで大人しくしときなさい」
「そうしましょう」
明らかにさっきまでよりも嬉しそうな声が返ってくる。本当に魔王様が好きなんだから……と内心ため息を吐いて私は部屋を後にした。
ーーヴァレリアーー
転生に成功してはや17年俺は前世とは比べ物にならないほど平和で便利な生活を送っていた。
転生前からわかっていたことだがこの世界に魔術はない、が使えないことはない。いつだった神を殺した時に奪った機能の1つに魔力の精製があるのでそれを使えばこの世界でも魔力が使えた。だからもしもの時はを使うつもりでいた。
しかしその心配は杞憂だった。この世界にある科学という技術によって俺の世界と同等、それ以上に便利な生活が送れているのだ。これは魔術で真似しようと思えば可能だが絶対的に魔術より優れている部分が存在する。それは誰でも使えるという事だ。魔術には適正がある、俺のように適正を無視出来る存在もいるがそんなものはまぁいない。その適正なしにこれだけ便利な生活を送れるのはこの世界の特権だろう。
「……そろそろ朝ご飯か」
腕時計を見て家に帰るように方向を変えて走り出す。日課の朝のランニングの途中だったのだ。家に帰れば恐らく妹の
「ただいま」
「おかえり、お兄」
「あぁ、ただいま明日香」
「これタオル。シャワー浴びたらご飯食べに来てね」
「わかった」
既にいい匂いがしているので母親がご飯を作っているのだろう。いつもの事だがこの幸せは前世に無かったな、と今更ながら噛み締めて俺はシャワーを浴びた。
「いただきます」
茶碗一杯のごはんに焼き魚、卵焼き、おひたし。ザ日本の朝食という感じのご飯を食べ進める。妹の明日香はパンしか食べてないが。
どうやらうちの家系、
俺が和食なのは母親譲りで明日香がパンなのは父親譲りだ。父親がパンなのは婿入りしたから、という単純なものだ。
「ごちそうさま」
朝食を食べ終えれば自分の部屋で着替えをして学校の準備をする。制服は見た目を気にする必要がなくて本当に楽だ。鏡で髪を軽く整えてリビングで妹を待つ。
「お待たせ」
「準備は出来たか?」
「うん」
そう言って深く頷く。するとアホ毛ぴょこぴょこと跳ねて思わず笑いそうになる。
「どしたの?」
「いや、なんでもない。行こうか」
「うん、咲希お姉ちゃんを待たせちゃうもんね」
行ってきます、と言って家を出る。まぁちょっと長めの石畳を歩かなきゃ敷地の外には出ないんだがな。
門を出ると既に幼なじみの咲希が待っていた。
「すまん、待たせたか?」
「ううん。今来たとこだよ」
待たせた時はいつもやるやり取りをして第一声を交わす。
「今日も咲希は可愛いな」
「そういう和くんもかっこいいよ」
「ありがと、じゃあ行こうか」
妹のことなどすっかり頭から抜けた俺は咲希と並んで歩き出す。
俺の中で世界一可愛い少女、
当然、勉強もできまさに文武両道の体現者である。そんな咲希は神社の娘で色々と期待をされているらしい。
実際魔術などが使えるわけでは無いだろうがそれでも見た目以上にプレッシャーなどを背負って生活をしている。
「今日も学校楽しみだね」
「だな、俺も咲希が赤面するのを見るのが楽しみだよ」
「むぅ、またそうやって揶揄う」
「仕方ないだろ?咲希がそういう弄りに弱くて面白いんだから」
「あんまり言ってるとお弁当作ってあげないよ?」
「それは困る」
「じゃあわかってるよね?」
「もちろん、今日も学校までエスコートしますよ。お嬢様」
仰々しく咲希の手を取る。
「よろしい。じゃあよろしくね?」
「おまかせを」
前世で培った技術をふんだんに活用して咲希を手を繋いで歩き出した。
「……なんでこの2人くっついてないんだろ」
完全に2人の世界に入ってる俺たちには明日香のぼやきは聞こえなかった。
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