第28話 幕間 決戦前
その力を駆使し、今では城中、否、都中のいたるところに、彼女の『眼』が散りばめられている。それによって、状況を瞬時に把握することは無論、相手を妨害、または殺害することも可能だ。
彼女の眼は相手を石に変えてしまう能力がある。元々は、両眼の二つだけだったのが、レベルを上げたことによって、散りばめた『眼』で相手を視れば、同じ効果を発動することができるのだ。
つまり、彼女に発見された侵入者は、即座に石に変えられてしまう。
無論、それだけではない。相手を石に変えてしまうのは、彼女の能力の一部に過ぎない。確かに最初はそれだけの能力だったが、今では『視たものを燃やす』『視た対象の情報を得る』『視た相手に幻覚を見せる』などと、多種多様な力が備わっていた。
たとえ、相手が石にならないような体質だったとしても、それ意外の能力で仕留めることができる。
加えて、城にはレベルの高い者達で固められている。そして、一度嵌れば絶対に生きてはいない罠も数多く設置されていた。
準備は万全。正にアリ一匹ですら、潜入することすら不可能な状態となっている。
だというのに。
「どういう……ことなの?」
城のとある一室。そこでルキナは目を大きく見開きながら、驚いていた。
現在、彼女は己が散りばめた『眼』を使って、城、ひいては都全体の状況を確認している。そして、自分の仲間である四天王を倒したとされる敵を視認していた。
本来なら、その時点で『眼』の能力を使い、殺すべきだったのだろう。無論、ルキナはそうしようとした。が、彼女の『眼』の能力は一切通用しなかったのだ。
しかし、その時点では驚きは少ない。何せ、あの三人を倒したのだ。自分の『眼』がいくつか通用しないとしても、おかしな話ではない。
故に、彼女が驚いたのは、別の点。
「正面突破って……一体全体、何が起こっているの……?」
敵の行動は至って単純なもの。
侵入でも、潜入でもなく、相手が取った行動は突入。即ち、正面突破だ。
通常なら、いや、どんな事態であったとしても、この状況は有り得ない。敵地に殴り込みをかけるにしても、真正面から堂々と向かってくるなど愚の骨頂であり、無策の極みでしかない。そして、そんなものの末路は無惨な死と相場が決まっている。
だというのに、何だこれは。
次々と倒されていく部下達。レベルは高く、その数も百を超えているはずだ。加えて、周りには主であるルタロスが張り巡らせた茨の壁がある。あれのおかげで、敵は全員生気や魔力を吸い取られてしまうはずだのだ。
けれど、まるでそんなものなどおかまいなしと言わんばかりに、敵は蹂躙を繰り返していく。
「こんな、こんなのって、有り得ない……常識無さすぎ……」
人外である彼女が言うべきでことではないが、それ程のことが起こっていたのだ。
拳が、牙が、爪が、殺意が、何もかもが敵の命を刈り取ろうとしているというのに、それを全て跳ね返ししていく姿は、ルキナが見たことのない代物だった。
強い。強すぎる。四天王を倒したという点を考慮し、その上で多くの策を用意していたというのに、それらがまるで役に立っていない。必殺の魔眼も、配置していた部下も、絶対相手を殺す罠も、皆全て、完膚無きまでに粉々にされていく。
「こんな奴、どうやって倒せば……」
頭を悩ませるルキナ。倒すどころの話ではない。恐らく、足止めすら意味をなさないだろう。いや、既にそんな余力はこちらにはない。今、敵にはこちらの全てをぶつけているのだ。
その上での、この状況なのである。
(どうすれば、どうすれば、どうすれば―――)
必死に策を考えていたその刹那。
「ルキナ」
ふと、自分を呼ぶ聞き知った声に、ルキナは思わず、振り返った。
「る、ルタロス様っ!? どうしてここに……」
「戦況を知りたくてな。しかし、その様子だと、やはり相手はこちらの戦力を上回っているらしい」
予測はしていたことだ。多くの部下、そして三人の四天王。それらを全て返り討ちにした男だ。ならば、この城に攻め入ってくること、そしてそれを難なく撃破していくことは、当然と言えば当然の結果と言えるだろう。
自分の城、即ち家を壊されながら、怒りを覚えつつも、しかしルタロスは自分の現状について、しっかりと理解していた。
「ご、ご安心くださいっ!! 心配ならさずとも、私があの男を必ず止めてみせますっ!! いざとなれば、この身を犠牲にしてでも……っ!!」
「それはならん」
途端、ルタロスは静かに、しかし強くルキナの言葉を否定した。
「いいかよく聞けルキナ……最早四天王はお前一人となった。俺はもう、これ以上大切な仲間を失いたくないと思っているんだよ」
四天王は、ルタロスにとって心入れが強いキャラだった。全員をレベル90以上にまでし、そして最強の部下にしたのも、愛あってのもの。
その四天王の内、アイガイオンがやられ、カミラがやられ、バルドラもやられた。次々とやられていく大切な家族を、これ以上見たくないし、失いたくない。
故に。
「全ての迎撃態勢を中止しろ。そして、連中を奥の玉座まで来るように誘い込め」
「それは……まさかっ!!」
「ああ。俺が連中の相手となる」
「ダメですっ!!」
主の言葉を、しかしルキナは大きな声で否定した。
今までルキナはルタロスの言葉を遮ったことなど一度もない。どんな命令にでも従ってきた。
そんな彼女であるが、しかし、今の言葉だけは了承することができなかった。
「あれは、あの男は、他の四天王の皆を殺した奴です。そして、今もあれほどの数を相手に圧倒している。それだけの力を有しているのです。あれは歩く災害そのものなんです」
ルキナ達四天王も、人間にとっては最悪の存在として認識されていた。だが、今の彼女たちにとって、アベルこそが、どうしようもなく手がつけられない災害なのだ。
「ルタロス様の力を信じていないわけではありません。けれど……けれど、もしも。万が一の可能性として、ルタロス様が死ぬようなことがあれば、私は……」
本来なら、ルタロスが敗ける、などという予測は存在しないはずだった。ルキナは無論、他の三人も同意見のはず。
だが、今回は違う。
あの男には、その可能性を感じさせる強さが存在しているのだ。
「……ルキナ。心配してくれる気持ちはありがたい。主として、素直に嬉しいと思う。だが、だ。現状を鑑みろ。あの男を倒せる者は、他にはいない。そうだろう?」
「それは……」
確かにその通りだ。既に四天王もルキナ一人であり、そのルキナでさえ、唯一の取り柄である防衛戦で圧倒されてしまっている。他の者達が相手になったところで、今のように瞬殺されてしまうのがオチだ。
この状況下において、今一番の戦力はまごうことなく、ルタロス本人である。故に、ここは彼が出るしか道は存在しないのだ。
「安心しろ。俺は敗けん。決して、だ。それがお前達の主としての責務でもあるからな」
「ルタロス様……」
主の言葉、そして覚悟を聞いたルキナはそれ以上は何も言えなかった。
同時に思う。
そうだ。きっとこの方ならば、大丈夫なはずだ。何故なら、自分達の主は最恐かつ最強なのだから。どんな敵にだって敗けはしない。必ず圧倒的な力をもってして、勝利してくれる。
……そんな、どこからきたかも分からない感情を持ちながら、彼女はルタロスの勝利を信じることにしたのだった。
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