第11話 少女と勧誘
あれからひと月。
アベルはダークナイトたちがやってきた方角を頼りに足を進めいき、その途中で、今、世界がどうなっているかを知った。
壊魔王ルタロス。突如として現れたその存在によって、多くの村や街が壊滅していっている。
連中の目的は、とにかく人間を殺すこと。それによって、ステータスなるものを上げる、というのが目的らしい。
レベル、ステータス、スキル……それらの意味は分からないが、しかし人や魔族を殺すことによってそれらが向上し、だからこそルタロス達は人々を殺戮していっているのだろう。
そして。
その被害にあった数は、一つや二つではない。
「これで、十箇所目か……」
壊滅した村を見ながら、アベルは呟く。
ここは既にダークナイト達によって占領されていた場所だった。
何故過去形なのかというと、既にアベルが一人残らず倒したため。いいや、正確には消し炭にしたというべきか。
恐らくそこそこ大きな村だったのだろうが、人影は一つもない。あるのは、無惨にも転がっている多数の人骨のみ。そこにあったであろう家々もほとんどが破壊されており、人が生活していた痕跡は破壊されつくしていた。
問題なのは、これがこの村だけではない、ということ。アベルがここに至るため、既に十の村や街が同じような悲惨な姿になっていた。その全てに駐留していたダークナイトやそれに類する怪物達は全てアベルが倒したが、しかしそれでも予想できる死んだ人間の数は相当なものだと言える。
どれだけ倒しても、どれだけ消し炭にしても。
亡くなった人々は、帰ってくることはない。
その事実を理解しながら、アベルはぎゅっと握り拳を作る。
その後、簡易的ではあるが、村人の墓を作ることにした。この村に何人の人間や魔族が住んでいたかは定かではないため、おおよそでしかないが、それでもそれくらいのことをしか今のアベルにはできない。
そして、墓の前で祈りつつ、一人ポツリと呟いた。
「それで……何か、私に用ですか?」
言い終わると同時に、アベルは振り向く。
すると、廃墟と化した家の影から、一人の少女が姿を現した。年齢は、十四くらいだろうか? 背丈は小さく、短い金髪をリボンで後ろにくくっているのが特徴的だった。格好はかなり開放的であり、肩や太もも、へそが見えている状態だった。
「おいおい、マジかよ……こっちは完全に気配殺してたはずなんだけど」
「生憎ですね。昔そういう類の連中に、色々と狙われてましてね。その程度の気配遮断では、察知できますよ」
魔王の影武者だった頃。魔王を暗殺しようとした連中は五万といた。それを迎撃してきたせいか、アベルの気配察知能力は、いつの間にか仲間の中でも一番の代物となっていた。
「その程度って……言ってくれるじゃねぇか。これでも、仲間内じゃあ気配を消すのが一番巧いって言われてたんだぞ」
「ええ、確かに巧いのは事実です。が、それ以上に私の察知能力が高い。それだけですよ」
「うわー。さらっとそういうこと言うのかよ。アンタって見た目よりもしかして自信過剰なのか?」
「事実を口にしてるまでです。それより、何か用があるから、ずっと見てたんじゃないですか?」
ダークナイト達との戦闘中から、ずっとこちらを見ている視線は感じていた。
敵意や殺意といったものは一切感じられず、どちらかというと観察している感じであったので、戦闘中は放置していたが、流石にそのまま知らぬ振り、というわけにもいかないだろう。
少女は、アベルの問いにどこか困ったような顔をしながら、頭をかく。
「用っていうか……実際のところは、タイミング逃したっていうか……何か、あの真っ黒野郎共と戦ってる奴がいると思って様子を見てたんだよ。助太刀でもしてやるかなぁって考えてたのに、アンタ一体残らず全部倒しちまってよ……」
「なる程。それで、出てくる機会を失った、というわけですか」
真っ黒野郎、というのは言うまでもなく、ダークナイトのことだろう。そして、普通に考えればあれに一人の人間が囲まれていれば、危機だと考えるのが当然。故に、助太刀をしようと思う者がいてもおかしくはないだろう。
「アタシは、ちょっとワケあって、あの真っ黒野郎共と戦っててな。色んな場所で、あいつらを倒して回ってるんだ。アンタに関しちゃ、助っ人はいらなかったみただけど」
「いえ。その心遣いは、感謝します……ええと」
と、そこでアベルは少女の名前を聞いていないことに気がついた。そして、少女もまた同様に自分が名乗っていないことを理解し、笑みを浮かべて口を開く。
「悪ぃ悪ぃ。自己紹介がまだだったな。アタシはフィーネ。よろしくな」
「これはこれは。私はアベル。こちらこそ、どうぞよろしく、フィーネさん」
刹那、アベルの言葉を聞いたフィーネは怪訝な顔をしながら、言葉を返す。
「さん付けはやめてくれよ。慣れてないんだ」
「そうですか。分かりました。それにしても、貴女も大変ですね。その歳で、あのような連中と戦っているとは……」
「アンタに言われても、あんまし説得力ないけどな。っつか、その歳って言われる筋合いはないぞ。アタシこれでも十七なんだけど」
「……………………………………はい?」
フィーネの言葉に、アベルはきょとんとした顔になる。
「十七……? いえいえ、何を仰っるか。見栄を張りたいのは分かりますが、歳を偽るのはいけませんよ」
「いや、まぁその反応は分かるけどよ……事実なんだからしょうがないだろ。アタシだって困ってるんだよ。十七でこんな見た目だなんて、未来が無さすぎるにも程があるってな」
どこか諦めたかのようなフィーネの顔。
彼女の言葉からは嘘を感じられない。
となると、だ。
「…………本当なのですか?」
「だからそうだって言ってんだろ。っつか、女に年齢を確認するとか、男としてどーなんだよ、そこんとこ」
「いえ……確かにそれは仰る通りです。申し訳ありません」
などと言いつつも、未だに信じられなかった。
そして、どうやらそれはフィーネにも感じ取られたようで、やれやれと言わんばかりな表情を浮かべながら、言葉を紡ぐ。
「ったく、これだから男ってやつは……って、まぁそれはもういいや。アタシの中では一応整理はしてることだし。それよりも、アベルとか言ったか? アンタもあの真っ黒野郎共とは、何か因縁があるようだな」
「ええ。色々と経緯がありまして」
「それはつまり、敵対してるってことか?」
「まぁそうですね。連中を滅ぼそうと考えているくらいですから」
その言葉を聞いた途端、フィーネは思わず目を丸くさせた。
そして、数拍の間の後、これでもかと言わんばかりに、大きな笑い声を上げた。
「―――かはははははっ!! 滅ぼすって、こりゃまた大きく出たもんだな。王国やら帝国がもうほとんど諦めてるっつーのに、アンタはそんな相手を滅ぼすって言うのか?」
「そのつもりですよ」
「即答かよ。こりゃあ余程の馬鹿か、自惚れ野郎だな。けどま、アンタの場合、あの真っ黒野郎共を一蹴してやがる。実力は本物だ」
うんうんと頷いたあと、「よし」と言いつつ、フィーネはアベルに向かって右手を差し出す。
そして。
「アベル。アンタ―――アタシの仲間にならないか?」
そんな唐突な勧誘を、言い出したのだった。
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