第2話 ガトー殿下の秘策
「私はイアリスが好きだ。大好きだ。誰よりも愛していると断言できる」
そんなの言わなくても見てりゃ分かりますよ。
「だが、イアリスが私と同じ気持ちとは限らない」
「つまり、殿下とイアリス様はまだ想いが通い合っていないと?」
「そうだ。イアリスはもしかしたら私を嫌っているかもしれない。ただ無関心なだけかもしれない」
「婚約を快諾しているんですから考え過ぎじゃないですかね?」
「いーや、伯爵家の彼女は王家の懇請を断りにくいはずだ。本当は渋々だったかもしれないだろ」
どっちでも良いじゃないですか。
殿下は好きな女性と結婚できるんですから。
「お互い好き合って夫婦になるもんだろ」
「政略結婚なんですから個人の感情は置いておきましょうよ」
「私はイアリスの嫌がる事はしたくない」
冷徹な政治判断する癖に意外とピュアなんですねぇ。
「まあでもイアリス様が嫌がっているかは分かりませんよね?」
「そうなんだ。何とか彼女の気持ちを知る手段はないものか」
あの表情筋が死んだイアリス様の顔色を察するのは至難の業です。
「いっそ本人にお尋ねになられたらどうです?」
「そんなの直接聞けるか!」
うるさいんでバンバン机を叩かないでください。
「だいたい本人を前にして『あなた嫌いです』なんてイアリスが言えると思うか?」
「難しいでしょうね」
しかも王族を相手なんですから、間違いなくイアリス様には「好きです」か「愛してます」の二択しかありません。
「ですが、婚約した以上はイアリス様には殿下と結婚する以外にないでしょう?」
「それは……」
「それとも殿下の方から婚約破棄でもしますか?」
「できるわけなかろうベニエ・フレスやブレスト・パーリじゃあるまいし」
ベニエ様とブレスト様は殿下の元側近です。
お二方とも婚約者がいる身でノエル・ブッシュという男爵令嬢浮気して、ついには濡れ衣を着せて婚約破棄にまで発展した愚か者です。
「
「二人とも能力はあったのに、どうしてあんな馬鹿な真似をしたのか」
浮気までなら救いようもあったのですが、さすがに冤罪で貴族令嬢の名誉を損ねたのはやり過ぎでした。
二人とも殿下の側近をクビになって実家で幽閉されております。
「最近はアレクまでがノエル・ブッシュに懸想しているみたいなんだ」
アレク・エコーチョ様も殿下の側近の一人です。
「アレク様の婚約者はキルシュ・テトル様でしたよね?」
「ああ、イアリスほどではないが『黒百合の君』と呼ばれる美女だ」
私には冷たいイアリス様より柔らかく微笑まれるキルシュ様の方が魅力的に思え……ちょっと睨まないでくださいよ殿下!
お願いですから心読むの止めてください!
「私はノエル・ブッシュ様を存じておりますが、キルシュ様を捨てて
以前、私はブッシュ男爵令嬢に言い寄られた経験があります。
まあ、ほんのちょっとは可愛いご令嬢でしたが、ご自分を『ヒロイン』だと言われ、またベニエ様とブレスト様の婚約者を『悪役令嬢』などと呼んで誹謗する頭のおかしな娘でした。
ちょっと関わりたくないですねぇ。
「ベニエ様とブレスト様の婚約者も中々の才色兼備でしたが……殿下の側近はみなさん目と頭は大丈夫ですか?」
「そんなのは私の方が聞きたいわ!」
「つまりそれほど異常な事態なわけですね」
私の指摘に殿下がハッとした顔をされました。
「二件の婚約破棄に関わっていたはずのブッシュ男爵令嬢は何のお咎めも無しだったな」
「ええ、ベニエ様とブレスト様は独断でやったので彼女は関係ないと主張されまして」
「そして今度はアレクか」
「他国のハニートラップの可能性もありますね」
「まったく、今はイアリスの事だけで頭がいっぱいなのに……」
国防にも関わるのでイアリス様よりも重要案件だと思うのですが。殿下の中の優先順位がおかしいです。
「そうだ、名案を思いついた!」
「名案ですか?」
「私がブッシュ男爵令嬢と浮気をするんだ」
「はあ?」
ついに殿下までおかしくなっちゃいましたか?
「もちろん偽りだ。ブッシュ男爵令嬢に近づき油断させるんだ」
「それで尻尾を捕まえるおつもりですか」
それは分かりますが……
「イアリス様のお気持ちはどうやって量るんです?」
「分からんのか。好きな相手が浮気したら嫉妬するだろ?」
「つまり、殿下がブッシュ男爵令嬢とイチャイチャしてイアリス様の反応を確かめるわけですか」
「これぞまさにブッシュ男爵令嬢を調査し、イアリスの気持ちも知る事ができる一石二鳥の妙手!」
はぁ……
私には絶対
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