28 おばけがいくよ
持ってきていたノートパソコンが一台壊れた。
サーバーとしても使っていた結構金をつっこんだやつだ。
こいつの中で飼っていた大事な
おばけと連動させたノートは、おばけの気配が消えるとともに動かなくなった。
俺はクソジジイに報告する。
「そりゃ、大変だねぇ。どうせ祓い屋どもが出てきたみてぇなことだろうねぇ。ああ、面倒くさいねぇ」
クソジジイは暢気に茶をすすりながら言う。
祓い屋については、クソジジイが以前話してくれたことがあった。
せっかくもらったチートスキルを使わないバカの集団。
こいつを使えば、金なんか簡単に手に入るのに、やせ我慢する自分に正直になれないやつら。
「どうします?」
「どうするもこうするも、アタシらで始末するしかないねぇ。あいつらはアタシらのことを祓おうとしてくるからね。ありゃ、立派な人殺しどもだよ。おー怖い怖い」
俺たちの中身には、クソジジイがカミと呼び、俺がおばけと呼ぶ怪異が巣食っている。
祓い屋どもも一緒だ。
というか、祓い屋も俺たち拝み屋も元々は同じところから出ているらしく、基本的には同じようなものなのだそうだ。
こいつらにも俺たちみたいな師弟関係があるし、だから、複数で行動していることもある。
そして、こいつらはやたらと格式張ったやり方を重んじるらしい。
「アタシが以前に殺した二人組はねぇ、神主でもないのに狩衣なんか着ちゃってねぇ、あれってぇのは、なんだい? 最近流行りのこすぷれってやつかね。あんなことしてさ、クソの役にもたたねぇ無駄な努力で自分の力を抑えこんで、あげくにとり殺されちゃうってんだから、ざまぁないね」
格式張ったやり方は人間が対抗できない怪異に挑むときの茶番だ。
バカな祓い屋どもは、その茶番を真似て、自らの中に潜む怪異が暴れ出さないようにする。
人間を真似て、人間であろうとする。
そうやって、自らの力を抑え込もうとするから、祓い屋は弱いというのが、ジジイの説明だった。
「だからね、アタシたちみたいなのが居ると知ったら、あいつらは絶対一人では来ないよ。いくら祓い屋どもが弱いといっても、気をつけないといけないねぇ」
というのはクソジジイのことばだ。
もっと力にその身を委ねれば良いのに。
それにしても、もったいない。
人生の楽しみ方というのを知らない。
俺は会ったこともない祓い屋どもを可哀想に思ってしまう。
どうせ最期は全部おばけになるんだぜ、死ぬより惨めったらしい将来しか待っていないんだぜ。
だったら、人生太く長く生きようぜ。もっともっと楽しまなきゃ。もっともっと楽しんで、もっともっと道連れに人を壊していかないと。
それによぉ、クソジジイみたいに、中身が全部おばけとしか思えないようなクソ野郎だって、まだ人間面してのうのうと生きてやがんだぜ。
憎まれっ子世にはばかるってな。まぁ、クソジジイにはさっさとくたばってほしいけどな。
聖人君子で何が楽しいんだか。
それとも聖人君子で人生楽しめるほど、充実してるのか。そうだとしたら、それはそれでむかつくな。
「なんにせよ、もうしばらくは、ここで厄介になるしかないねぇ。家でのんびりとしたいものだよ」
クソジジイがいまいましそうにいう。
俺も同意見だ。
仕事が終われば、しばらくは、このクソジジイの脂ぎった面を見ないですむのだ。
やれ肉が食いたい、やれ旬の魚を食わせろ。
やれ、女の酌もなしで酒が飲めるか。
あれを買ってこい、これを買ってこい、これじゃねぇあれだ。おまえさんは使えないねぇ。
面倒くせぇことこの上ない。
もう少し枯れろよ、クソジジイ。
怖い目にあう三下のパシリの皆さんのことも考えろってんだよ。
まぁ、怖い目に合わせているのは俺だけどな。
俺は笑いをこらえきれずに吹き出す。
それにしても、はやく帰ってごろごろしながらゲームでもしてえな。
やっぱりさ、家に置いてあるデスクトップのほうがマシンパワーあるんだよ。
家に帰りたい理由はそれだけじゃない。
クソジジイの整髪料と香水があたりに漂ってガリバー痛がするんだよ。
ほんと、さっさと死んでくれねぇかな、このクソジジイ。
◆◆◆
ある日のことだ。
机の上に並べておいた呪符がすべて燃え尽きていった。
「なんだい、せっかく強い子にしてあげたのに、祓われてしまったのかい?」
焼け焦げて黒い塵となって宙に舞う呪符だったものを眺めながら、ジジイは暢気そうに笑う。
せっかくこさえたおばけが祓われてしまうのは、悲しい。
でも、祓い屋とかいう変な奴らに会えるのは楽しみだ。
そいつらのつまらなさそうなしけた面を拝んで笑ってやるとしよう。楽しく踊ったらあとはなぶり殺す。
俺のおばけの敵討ちだ。
「さぁ、おまえさん、季節外れの大掃除にでも行こうかね」
クソジジイが羽織に袖を通すと、立ち上がる。
「それにしても暑いねぇ」
暑いのに羽織なんて大変なもんだ。
扇子から送られてくる生ぬるい風にのって、クソジジイの臭いが流れてくる。
「おばけがいくよ」
俺はひひひと笑う。
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