21 ザシキノボウ

 ずっと前のことだ。

 寒空をいくあてもなくさまよい歩いていた時に、屋内に明かりがみえた。

 こっそりと中をのぞくと、せかせかと動き回っている人たちがいた。

 暖かな光、温かいぬくもり、活気ある会話。

 どれもとても素敵なものだったから、ここで世話になることにした。


 ぼくはそれほど身を隠すのがうまくないみたいで、夜中に遊んでいると、たまに見つかってしまうことがあった。

 いつの日か、みんな、ぼくのことを話すようになった。

 でも、そのおはなしはとても優しい。

 お座敷で遊んでいるところを見られたから、ぼくは座敷の坊と呼ばれた。


 ザシキノボウが遊んでいる。

 驚かさないように、彼は恥ずかしがり屋だから。

 でも、かわいらしい童子に出会えると、願い事がかなう。幸せになれる。

 会いたい。

 あやかりたい。

 幸せを分けてもらいたい。


 中の人たちはとても親切だった。

 直接会うことはほとんどなかった。

 でも、いつでもぼくが手に取れるようにおいしいおかしを置いてくれた。

 ぼくが隠れていると、ぼくにお礼を言ってくれた。

 ぼくはここの人たちが好きだから、やってきただけなのに。

 とても嬉しい。

 そのころ、ぼくはかくれんぼがとても上手になっていた。

 その気になれば、誰にも見つからないで遊んでいられる。

 でも、みんながぼくに会いたがるから、たまにわざと姿をあらわすようにした。


 それなのに、最近は、ぼくがぼくでないように話す人たちが来るようになった。

 一様にドウガドウガと口にする。

 ドウガではこの部屋に出る。

 ドウガでは命を金に変える。

 ドウガでは宿はザシキノテに宿泊客を殺させている。

 ドウガでは宿の人間も何人も殺されている。

 ドウガではドウガデハドウガデハ。

 

 どうにももぞもぞする。

 なにか変だ。

 ちがうよ。

 そう伝えたくて、こっそり物陰から視線を送ったけど、誰もぼくのことを見てくれなくなった。


 ある日、とても嫌な人たちが来た。

 着物姿のおじいさんと、つきそいの若い男の子。

 彼らは僕の遊び場におかしな札をこっそり貼って回っていた。

 ここに泊まりに来る人は大好きだったけど、この人たちだけは好きになれない。

 ぼくはかくれんぼが上手だ。上手になったんだ。

 本気でかくれたら、だれにも見つからない。

 それなのに、彼らはぼくよりもかくれんぼが上手だった。


 「みぃーつけた」

 若い男の子がぼくをにやりと笑う。

 「すうそあつめし■■■■の……」

 男の子は歌をうたいはじめた。

 とても嫌な歌。

 からだのなかがぐるぐるする。

 大事な思い出がぐるぐるする。


 恐ろしい場所、恐ろしいもの。

 ボクハ、キョウモ、エモノヲサガス。

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