ムキムキフムキ
さて、現在の文字変態・鳥尾巻はどのように作られたのか。
この世に生まれ出て、最初の記憶に残っているのは父の書斎。出入り口以外の四方を本棚に囲まれた空間は、幼い鳥尾巻のかっこうの遊び場でした。
テレビを見る習慣のなかった家庭なので、音が出るものはレコードプレーヤーとラジオ、あとなぜか無線機。
多趣味な父が淹れるサイフォン式コーヒーと、紙の香り漂う静かな空間。
と、思いきや、生き物を拾うのも趣味だった父は、犬猫人間なんでも拾ってきたので、不特定多数の人間と動物が出入りする、騒がしい家庭でした。
(自作「つる草」に登場する家庭は実家がモデルです。と、ちゃっかり宣伝する)
幼い頃、かなりの人見知りであった鳥尾巻は、父の書斎を避難場所にしていたのです。図鑑や童話、時々こっそり辞書を駆使して大人の小説を読みながら、文字と戯れる日々でした。
言葉を記号化した文字の作り出す世界のなんと素晴らしいことか。特に、日本語はカタカナ、ひらがな、漢字を組合せ、その造形も美しい。
鳥尾巻は絵を描くのも好きなので、文字を絵のように捉えて覚えていきました。小学校に上がる頃には、ほとんどの本を読めていたと思います。
父が読書好きなのは書斎にぎっしり詰まった本からでも窺えますが、3人いる兄弟のうちで、それだけ文字にハマったのは鳥尾巻だけです。
同じ血を分けていても、向き不向きというものはあるのです。姉は活発でコミュニケーション能力の塊みたいな人なので、外で友達と遊ぶ方が好きだったようです。
数年後に生まれた弟は、非常に要領の良い甘え上手で、ゲーム禁止だったにもかかわらず、友達の家に上がり込んで人気のゲームはほとんどクリアしていました。(人んちでなんてことを)
そしてなぜか、我が家では、夕飯前に「論語」を暗唱する習慣がありました。
子どもには難しかろう、なんて配慮は一切なしです。旧仮名遣いだし、漢文のレ点や返り点等の訓点はまるで暗号解読。姉は嫌がっていましたが、鳥尾巻はその時間が好きでした。
ええもう、変態の片鱗はありました。オモチャよりも本や辞書をねだり、自ら文字の成り立ちを調べ、象形文字の形にうっとりする変な子どもだったのです。
文章の気に入った部分を書き写し、絵を描き漢字や仮名を飾る。今もそれは続けています。
そんなに文字好きなら、書家にでもなれば良かったのでは?と思われるでしょうが、それには少々問題があったのです―――。
つづく
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