第2話 復讐

私が復讐をすれば、私が悪者になってしまう。

できれば、私の手を汚すことなく、そのママ友に復讐ができればいいのだが……


そして、私はとんでもないものに手を出す。



復讐代行業



森の中に住むカッコウがやっている、闇のお仕事だ。

子供を殺された無念を晴らすために、私はカッコウに復讐を依頼することにした。



私は森に行き、カッコウを探した。


いた!


木には看板がかけてある。


「あなたの恨み、晴らします。カッコウ復讐代行センター」


私は、おそるおそる、カッコウに話しかけた。


「あの……復讐を依頼したいんですけど……」


すると、カッコウは愛想よく答えた。


「あ、いらっしゃいませ! 復讐代行のご依頼ですね。どうぞこちらへ」


私は奥に通された。

カッコウは、私に詳細を聞いてきた。


「復讐したい相手の種類と、巣の場所をおっしゃってください」


「種類はオオヨシキリです。巣の場所は……」


私は、憎きママ友の巣の場所をカッコウに教えた。


「はい、うけたまわりました。数カ月後に、そのオオヨシキリさんのところで不幸が起きますので、楽しみに待っていてください」


「は、はい……どうかよろしくお願いします……」



ついに、私は鳥の道を踏み外してしまった……

しかし、復讐が成功すれば、私の気は晴れるかもしれない。


そして、死んだ我が子も成仏できるかもしれない。


* * *


私は日常に戻った。

このまま何もしないで待っているだけで、いつかオオヨシキリさんのところで不幸が起きるはず。

そう考えると、何気ない日常も、なんだか楽しく感じられるようになった。


そんなある日……


オオヨシキリさんが産んだ卵の中から、一匹、雛が生まれてきたという。


さっそく、大勢のママ友たちが、お祝いをしに行っていた。

私は、体調不良を理由にお祝いに行くのは断った。

憎きママ友の雛なんて、見たくもない。



更に数日が過ぎた。


あのママ友のマウンティングは、出産後も相変わらずだった。

うちの子は成長が速い。

運んできた餌を、パクパク元気よく食べてくれる。

そして、どんどん大きくなっていく。

そんな自慢ばかりしているらしい。


親バカという言葉があるが、まさにその通りだ。

自分の子の些細なところも全部、周りのママ友に自慢して語りまくっているとのこと。


そういう話を聞くだけでも嫌な気持ちになってくるが、私はカッコウさんに復讐を依頼しているので、いつか何かが起こるはず、と自分に言い聞かせて毎日を過ごしていた。



そして、ある日、オオヨシキリさんのところで本当に不幸が起きた。

カッコウさんが代行してくれた復讐とは……


* * *


ママ友たちは大騒ぎである。

オオヨシキリさんのところの、まだ生まれていない卵がすべて、巣の外に落ちて割れてしまったとのこと。

先に生まれていた雛一匹だけが生き残ったそうだ。


私は青くなった。


復讐を依頼したのは私だ。

しかし、いざ、復讐が実行されてしまうと、私はなんだか怖くなってきてしまった。



私は、森の中のカッコウのところを再び訪れた。


「あ、あの……復讐をしてくださったんですか?」


「はいはい、そうですよ! 結果が出ましたか! それはよかったです」


「雛一匹だけを残して、ほかの卵は全滅したと聞きました」


「お~! 大成功です! 私の腕もなかなかのものでしょ?」


「あ、はい……」


「あとね、一匹だけは助かったとオオヨシキリさんは思っているようですけど、それも違いますから」


「それはどういうことですか?」


「ふふふ……まぁ、見ていればわかりますよ」


「あの……成功報酬って、払わないといけないですよね?」


「え? お代なんていりませんよ。私も、この復讐で得をしているので、ウィンウィンなんです。なので、お気遣いなく!」


復讐を代行してくれた上に、お礼はいらないとのこと。

その真相は、月日の流れと共に明らかになるのであった。



あのオオヨシキリさんは、唯一残った子供を溺愛し、毎日せっせと餌を運んでは育児をしていた。

その雛は、異常な速さで大きくなっていった。


我が子の成長は速い、なんて、自慢話を毎日していたが、ある日、他のママ友たちはオオヨシキリさんの陰口を言うようになった。


「オオヨシキリさんって、浮気したんじゃない?」


「絶対そうよ! あの子、親に全然似てないよね」


はじめは、たくさんの卵を失ったことでみんなから同情されていたオオヨシキリさんは、今や、浮気をした不貞な親として、ママ友たちから避けられるようになった。


こうして、オオヨシキリさんは孤立した。



しかし、オオヨシキリさんは、不貞などしていなかった。

周りからは不倫を疑われていたが、本人はまったくそんなことはしていなかったので、嫉妬している連中の誹謗中傷だと思って聞き流していた。

そして、似ていなくても、その雛は我が子だと思って毎日育ててきたのだった。


巣立ちの日、オオヨシキリは自分の子の鳴き声を聞いて驚愕した。


「カッコーーーーー」



それきり、オオヨシキリさんはママ友の集まりに顔を出さなくなった。


* * *


私は、森に住むカッコウのところを訪れた。


「これってどういうことなんですか?」


「あ~、私の子、元気に巣立っていきましたか。それはよかったです」


「よかったです、って……カッコウさんは何をしたんですか?」


「オオヨシキリさんが餌を集めに行っている間に、私がその巣に行って、んですよ。私の子とも知らずに、せっせと育ててくれてご苦労さん」


「カッコウさんは、自分で子育てをしないんですか?」


「あぁ、自分ではしないですね。我々カッコウの仲間はみんな、そうしているんです」


「じゃあ、他の卵が全部、落ちてしまったのもカッコウさんのしわざ?」


「あぁ、うちの子がやったんですよ。我々カッコウの卵はね、他の鳥より早く生まれてくるんです。そして、体も生まれつき大きい。で、生まれたらすぐに、巣の中の卵を全部、お尻で押して巣から落としてしまう。そういう習性が生まれつき備わっているんですよ」


「……」


私は言葉を失ってしまった……


「復讐代行のお礼はいらないってのは、こういうこと。つまり、あなたは復讐を果たすことができて、私は子孫を残すことができて、それでウィンウィンというわけ」


「カッコウさんって、そんなことをしてきたんですね……」


「こういうのを托卵っていうんですけどね、まぁ、我々カッコウは托卵たくらんたくらんでいるというわけです。わっはっは!」


「……」


「あれ、カッコウジョーク、おもしろくなかったですか?」


私は話題を切り替えることにした。


「え~っと……カッコウさんって、今まで、いろんなところに自分の卵を産んできたということですか?」


「そうですよ。一番大きな仕事は、人間のところに産んできたことですね」


「え? 人間は卵を産みませんよ」


「あぁ、それは分かっていますよ。私が産んできたのは、人間が作ったです」


「時計の中に卵を産んできたんですか?」


「そう。人間が『はと時計』なるからくり時計を作っていたからね。毎時00分になると、鳩が出てくる仕掛けの時計なんですけどね」


「で、成功したんですか?」


「あぁ、成功しましたよ。人間たちはみんな『鳩時計』って呼んでいますけど、あれはです。鳴き声を聞いてごらん。『カッコー』って鳴いていますから」



< 了 >


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