第44話 動物園④
「花守さん落ち着いた?」
「はい、お騒がせしました…」
俺は買ってきた飲み物をベンチに腰をかけている花守さんに渡した。
あれから俺はライオンにやられた二人をふれあいコーナーへと連れてきた。
ここは名前の通り小さい小動物を触れるとか餌やりが出来る場所。
そして現在そのフロアに…
「もふもふー」
先ほどライオンにやられていた信弥くんがうさぎに餌をやりながらなでなでしている。
この子には怖いなど通じないようである…。
まぁ、そこは良いとして今は花守さんだよな。
「それにしてもなんであんなにライオンが苦手なの?」
俺はこういう場合どうすればいいか分からないのでとりあえず俺の中の疑問を聞いておく。
「え、なんで私がライオン苦手と分かったのですか?」
「え、いやー…そう感じたと言いますか…分かりやすかったと言いますか…」
俺のそんな質問に花守さんはキョトンとした様子でそう言うので逆に俺が戸惑ってしまった。
そりゃ、あんな様子で俺の後ろにいたりあんなに驚いてたらそう考えるしかないよな…。
それに行く前のあの時の様子からも色々合点がいくし…。
「そうでしたか…その実は私ライオンにちょっとしたトラウマがありまして…」
「トラウマ?」
「私が小さい頃ここではないのですが動物園に来まして、お父さんがライオンを見ようと言ってきたんですよ」
花守さんはそのままライオンが苦手な原因を話していく。
まぁここまで聞いたらなんとなく先はわかる気もするのだが…。
「それでライオンを見に行ったのですが…今日みたいに威嚇されて…」
「それでトラウマになってしまったと」
「いえ、それだけならまだ大丈夫だったのですよ…」
「え?」
明らかにこの時点でトラウマ確定したように感じていたが、なんとここではまだなってはいないようだった。
「私が驚きのあまり泣きそうになると…隣にいたお父さんが私よりも大きな声を上げて驚いているんですよ!」
「お父さん?!」
聞いているとまさかのまさかで俺の考えていた結末の百八十度違う方向の答えが返ってきた。
トラウマの原因花守さんのお父さんなの…?
「だって私よりも大きな大人が大声あげて叫んでるの見たら……」
「あ、あーそれで自分もつられてすごい怖いと思い始めて…」
「はい…あれ以来ライオンを見るとあの時のお父さんを思い出して…」
……失礼だと思うから口には出さないが…なんだそれ?
というかもうそれライオンじゃなくて花守さんのお父さんでトラウマになったような……。
俺の頭の中ではトラウマの中心が逸れていくような気がした。
「江崎さん大丈夫ですか?」
「え?あ、大丈夫だよ。…でも何で今日は一緒に来てくれたの?怖いなら無理しなくても良いのに」
頭の中が色々こんがらがっている中、花守さんが声をかけてくれたおかげで現実に戻ってきた。
俺はとりあえず今の話題を変えようと別の質問を花守さんにした。
「えっと、それはー……笑わないですか?」
「ん?分かった?」
何で花守さんが笑わないでと聞いてきたかはわからないけどとりあえず笑わないことにする。
「り、理由は…お、おねぇ……」
「おね?」
「お、お姉ちゃんだからです!」
花守さんはそう言い切ると持っていたカバンで顔を隠してしまった。
……今回で分かったことが二つある。
一つは花守さんはライオン、もしくは叫んだ時の花守さんのお父さんが苦手。
二つは…花守さんはたまぁにおバカになる。
以上が俺が今日知ったことである。
―― ―― ――
それからは早いものであった。
もう色々落ち着いたのか花守さんは信弥くんと小動物をふれあいに行った、俺も一緒に。
動物園を一周した頃には時刻十六時前、信弥くんも眠くなってきたようで帰ることにした。
そして現在、花守さん、信弥くん、俺の順番で電車の席に座って帰っていた。
俺は横に目をやる。
そこには並んで一緒に寝る花守姉弟の姿があった。
信弥くんは座った時から寝ており、花守さんが着くまで起きると言っていたのだが流石に疲れて眠ってしまった。
帰りは俺が降りる駅よりも先の駅で降りるらしいから俺が降りる前に起こしとけば良いと考えている。
…その後起きていてくれれば良いのだが…。
にしても、今日も今日でなんか充実した日だった。
信弥くんとも仲良くなれたし、花守さんの知らない一面も知ることができた。
なんだかんだいって俺が一番楽しく過ごしたかもしれない。
そんなことを考えながら電車が駅に止まるのを待っていた。
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