第42話 動物園②
草食動物のエリアは子供が持ってそうな絵本に出てきそうな動物が多くいた。
キリンやしまうま、チンパンジー、さらにはオカピなんかもいた。
そんな気分の上がる動物園に信弥くんの気分が上がらないはずがなく、入る前のテンションが消えたかのように喜んでいる。
花守さんのすぐ近くで。
あれから結構経っている気がするのだが一向に俺に慣れてくれる様子はなかった。
まぁ多分その理由は俺にもあるのだろう。
だってこんな小さい子供とどう接しろと?
今までこんな子にすら相手にできなかったことがこんな形で後悔するとは…。
『はーい、みなさま今から象のパフォーマンスが始まりまーす』
俺はどうすれば少しだけでも信弥くんに信頼されるか考えていると少し離れた先で女性の声のアナウンスが聞こえてきた。
アナウンスは象のいるエリアからのようだ。
アナウンスが終わると周囲にいた人たちが揃って象のエリアに集まっていった。
象のパフォーマンスかぁ、確かにそういったパフォーマンスは動物園とかでしか見れないし、水族館とは少し違うものがあるので面白みもある。
「……ぞうさん…」
俺が象のエリアを見ていると下の方からそんな声がした。
声の方を辿ると信弥くんが象のエリアを興味津々に見ていた。
「ねぇ、次ぞうさんとこ行く!」
「はいはい、危ないからゆっくり行こうね」
「うん!」
……慣れてるな。
俺は花守さんを見て感心する。
今まで信弥くんの面倒を見ていたためでもあるであろうがそれにしても子供の接し方が本当に上手だ。
今度色々コツとか聞いてみようかな。
象のエリアに向かうともうすでに多くの人で囲まれていた。
『それではみなさまにご挨拶しようか、エルくん』
そう言うと女性は象に何やら手で指示を出すようなことをしているように見えた。
「お姉ちゃん見えない…」
しかし、象が何かするその前に何やら泣きそうな信弥くんの声が聞こえた。
隣を見ると頑張ってジャンプをして見ようとする信弥くんの姿があった。
俺は肝心なことを忘れていた。
このパフォーマンスは席などで座ってみるものではなく、ただ柵越しに立って象のパフォーマンスを見るものであった。
それが故に背が高い人が前にいると後ろの方にいる背の小さい子は見えずらいのだ。
「あ、し、信弥泣かないで」
これには花守さんも困った様子で辺りを見渡していた。
俺も何かないか辺りを見渡す。
周りにはそのまま立って見られる人や子供を肩車して見ている子供連れの家族が多かった。
肩車か…。
俺は背を低くして信弥くんに向かって言う。
「信弥くん、ちょっと肩車しても大丈夫?」
それに対して信弥くんはこっちを見て固まってしまう。
「大丈夫だよ、怖くないし、象さんも見れるようになるから」
信弥くんは少し考えたのか静かになったが、その後コクッと頷いてくれた。
まぁ、理由は怖いよりも象の方が大きそうだけど…。
それを見た俺は信弥くんの裏に周り、脇の部分から持ち上げて俺の首元に乗っけた。
「……ぞうさんだ!」
少し『うぅ』と声を上げていたものの象が見えたことにすぐさま気づき、そちらに一気に興味を向けた。
「ぞうさん見えた!」
「そっか、良かったね」
「江崎さん、ありがとうございます…」
「これぐらいなんてことないよ」
上で喜んでいる信弥くんに俺も嬉しさを覚えつつ象のパフォーマンスを堪能した。
―― ―― ――
象のパフォーマンスは意外にというか普通に凄かった。
象の自己紹介のポーズはもちろんボールを使ったものやさらには人と共同してやるものまであった。
信弥くんもパフォーマンスに終始喜びを露わにしていた。
「それじゃあ、一回下ろすね」
「……」
パフォーマンスも終わったことなのでそろそろ信弥くんを下に下ろそうと背を低くする。
「…あの」
「ん?」
信弥くんを下ろそうとすると信弥くんが俺に何か言おうとしていた。
「あのね、もう少し上にいても良い?」
それは先ほどのパフォーマンスの前では多分絶対聞くことはなかった可愛らしいお願いであった。
「それじゃ江崎さんが大変だよ」
「あ、花守さん大丈夫だよ」
「でも…」
「…それに俺もこれを気に信弥くんと仲良くしたいから」
確かに信弥くんの要望に応えたい気持ちもあるのだがどちらかと言うと俺のこの気持ちの方がやろうとする理由が大きかった。
そう言うと花守さんは納得した表情になってから微笑んで。
「そういうことなら、よろしくお願いします」
そう言ってくれた。
「よし、信弥くん次のとこに行こうか」
「うん」
お姉さんの了承も受け取った俺は肩車を継続して次の動物のエリアへと向かった。
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