第40話 友人から見た俺

 え?なんだ?今の花守さんなのか?

 俺はまたもや困惑してしまう。

 

 いつも優しく、誰とも仲が良く、笑っているのがイメージ的な花守さんから、今まで一緒にいて初めて冷たい声を聞いた。

 しかも、それに困惑してるのは俺だけではないようで。


「え、いや、誰って江崎のこと…」

「はい、江崎さんは私の大切な友人です」


 だが、そんな井上さんにも変わらない様子で花守さんは返事をする。


「でも、私の知ってる江崎さんは今あなたが言った江崎さんとは全然違いました」

「は?何言って…」

「あなたが知らないなら江崎さんには悪いですが私が教えてあげますよ」


 ん?これもしかして……。


「江崎さんが悪いことをしてそう?いえ、なんなら真逆です」


 怒ってる?


「江崎さんは困っている人を助ける心優しい人です。私もその助けてもらった一人です。それがきっかけで江崎さんとも仲良くなれました」


 多分だけど怒ってるなこれ。

 そうか、花守さんもちゃんと怒るのか、毎回笑ってるところしか見ないから知らなかった。

 しかも、怒ってる内容が俺について。


 ………。

 俺は静かに花守さんの話に耳を傾ける。


「そうですね、一番最初は二人でデザートを食べに行きましたね。その時の江崎さんとても美味しそうに食べていまして、話を聞くと昔よく週に一回はスイーツを買ってたそうで、少し驚きました。そういえば、江崎さん猫がお好きでしたね、今度猫カフェにでも一緒に行きましょうかね?」


 猫カフェかー…、確かに良いな。

 顔をやられないか心配だけど。

 てか、なんかすごい詳細的だな……。


「夏休み前のテストの時江崎さんが自分と榊原さんに勉強を教えてと来まして、その時江崎さんと距離が近くてですね。私も恥ずかしさと緊張もありましたが、それ以上に江崎さん顔を真っ赤にして、少し可愛いと思ってしまいました」


 え、まじで?

 は、恥ずかしー…。

 

「あ、あと私実は雷とかが苦手でして、雷雨の時、江崎さんのとこでお世話になりまして。その時江崎さん、怖がっている私の頭を優しく撫でてくれまして、私とても安心して嬉しかったのを今でもよく覚えてます」


 あの時、花守さんすごい震えていたからな…。

 安心してくれたんだったら良かった。


「夏休みではですね……」

「は、花守さんさっきからなんなの?江崎の話ばっかして…」

「あれ、もしかして飽きちゃいましたか?まだ全然半分も話してないのですが…仕方ないですね」


 花守さんが続いて夏休み編に突入しようとするところで井上さんがしびれを切らしたようで途中で話を遮った。

 てか、あれでまだ半分以下なの?


「要するにですね……江崎さんは普通の男子高校生ということです。いつも優しく友人思いな人です。そして…いつも悲しそうにしてます」


 花守さんは俺のことについてまとめを話しているようだが最後に不思議なことを言った。

 俺が寂しがっている?


「あなたたちは彼を見た目だけで判断して、避けるならともかく変な嘘の情報をばら撒きます。江崎さんはうまく隠しているようですが私には悲しそうにしか見えません。…だから…」


 ……そうか、自分でも気づかなかったが俺はそんな風に見えていたんだな


「もし江崎さんが壊れるまで傷つけるようならば私はそれを絶対に許しませんので」


 井上さんにとってはこの時間はよく分からない時間だったかもしれない。

 でも俺にとってはそれが俺の何かを軽くしてくれる最高の言葉だと感じられた。


「…ふぅ」


 緊迫している中庭で先ほどまで猛攻的だった花守さんから今度は腑抜けた声が聞こえた。


「申し訳ありませんでした、最近江崎さんに対するものが多くなっていて自分でも気づかないぐらい苛ついていたのだと思います。私からはもう何もありませんが井上さんからはまだ何か?」

「………」

「…それでは私はこれで。さようなら」


 言いたいことを全て言い終えたのか言い切りの言葉を並べると、足音がし出した。

 多分花守さんが帰って行ったのだろう。

 足音は次第に小さくなり最後には聞こえなくなった。


 花守さんの説教が終わった静かな中庭には俺と井上さん。

 今井上さんがどんな顔をしているのか、今何時か、分からないことずくめなのだが、唯一わかることとすれば…。


 俺の心の中がなんだかスッキリしたことだ。

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