第4話 お礼

 ついたのは学校の敷地内にある中庭であった。

 ここはあまり使われることはなく、内緒の話をする時には最高の場所だ。


「えっと、改めて。昨日は本当にありがとうございました」


 目的の場所はここだったようで、花守さんはこちらを振り返り、開口一番に俺にお礼をしてきた。


「いえ、こちらこそ昨日はすみませんでした。あの後は大丈夫でしたか?」

「はい。あの後は何事もなく家に帰れました」

「大丈夫なら良かったです。…それで話って?」

「あ、はい。その、昨日のお礼をさせてほしくて…」


 確かに昨日の帰り際にもそんなことを言っていたな。

 しかし、別にお礼をされるほどのことでもないし、俺自身なにか怪我をしたとかでもない。

 なのでここは丁重にお断りさせて貰おう。


「いや、別に当たり前のことしただけだし、お礼とかは大丈夫ですよ」

「いえ、させてください!あの時江崎さんが助けてくれたから私は今ここにいるんです!」


 大袈裟だな…。と感じたが花守さんは何がなんでもお礼をしたいらしい。

 でも、仮にお礼をしてくれると言ってもな…。


「別にしてほしいことなんてないしな…」

「今してほしいことでも、欲しいものでも私が出来る限りのことは何でもします!」


 そういうの軽々しく言わない方がいいのでは?

 俺だからいいとして、俺以外の男だったら変なこと言いかねないから。

 しかし、して欲しいこと、ものか…。

 別にして欲しいことでは特にはない。

 勉強でも今のところは大丈夫そうだし、運動も平均的だ。

 家事も先ほど言ったがある程度は出来る。

 やっぱりここは、欲しいもので簡単にお菓子とかでも言っとく…。

 

 あっ、あった。俺が


 いや、でもさすがにこれはやめとくか?

 俺がこんなこと言うのも変だし、花守さんが迷惑するかもだからな。

 うん、やっぱりここはお菓子にしとこう。

 俺はここは平和的に簡単に終わらせることにした。

 

 …俺は意外と顔に出やすいらしい。

 俺が思い出した時、顔に出てしまったのか花守さんはそれを見逃さなかった。


「っ!!何かあるんですね!」


 どうしよう。

 流石にここで『お菓子で』と言っても絶対それじゃないって言われるのは明確な気がする。

 …仕方ないここは正直に話すか。


 俺は一拍置いて、言った。


「と、友達になって欲しい、なと」


 言い終わると恥ずかしさのあまり目を閉じてしまう。

 あー、やっぱりおかしいかな…。

 俺からの変な告白を受けた花守さんを確認すべく恐るおそる目を開ける。

 花守さんははじめはポカーンという効果音が似合う顔をしていたが、徐々に顔つきは変わり、ふふっと小さく笑った。


「やっぱり変ですよね…」

「あ、いえすみません。ただ、噂はただの嘘のようだったみたいですね」

「噂?」

「ええ。何でも江崎さんが毎日喧嘩をしてるーとかどっかの不良を病院送りにしたーとかの感じのが」

「なーんだそれ?」

 

 なにその噂?

 確かにいつも避けられてる気がするけども、そこまで話デカくなってるの。

 俺は至って普通の男子生徒だよ?家でくつろいでるだけの人間だよ?


「でも、昨日も薄々感じてましたが江崎さんは全然不良でも何でもありませんでした。…ましてや、お礼で友達になってと言う人が不良なんて信じられませんよ」

「うぅ、やっぱり恥ずかしい」

「あ、それで友達になって欲しいでしたよね?」


 そういうと、花守さんは俺と同じように一拍置いてから、言った。


「はい。私でよければよろしくお願いします」


 え?


「え?…い、良いの?」

「はい。なんなら私からお願いします」

「本当に?俺こんな不良見ないな見た目だよ?」

「でも不良ではないじゃないですか」


 これは現実か?俺みたいなやつに友達が、ましてや花守さんと友達になれるとは思いもしなかった。

 とりあえず、俺からも何か言わなくては。

 俺はさっきのお願いよりも身体が緊張していた。


「えっと…、よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」


 こうして俺は花守さんと友達になった。

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