第2話 ナンパ

 あれから数時間経ち現在俺は、バイトに行く途中で、少し駆け足で向かっている。

 つい先ほど荷物をたくさん持ったお婆さんがいたので手を貸すことにした。


 小さい頃、俺の祖母に『困っている人が居たら、迷わず助けてあげなさい』と約束したことがあるのだ。

 それから、俺は約束を守るために何かしら困っている人を見つけては助けに行っているのだが…、今までの八割ほどの人は怯えており、そのほかの二割ほどな人(主に小さな子供)は泣いてしまう始末…。

 前そのせいもあって、警察に俺が容疑者だと勘違いされたこともあった。

 あれはほんとに焦った。一瞬警察が嫌いになってしまったよ。


 まぁそれはともあれ、結果このままではバイトに遅れそうになっているのである。


(しかたない…、近道するか)


 バイトに行く途中にはいくつか近道が出来そうな道がある。

 のだが、基本路地裏で狭いし、汚れが付きそうなのでいつもは避けてちゃんとした道で向かうのだが、今回はバイトに遅れそうなのでそうも言ってられない。


(たしか、ここら辺の…、あそこか)


 記憶の片隅に置いておいた近道を掘り起こして、目の前にあった路地裏を曲がったのだが…。


「ねぇいいから遊ぼうぜ?」

「別に怖くないし、大丈夫だよ」


 路地裏に入って少し先の場所に二人の男性と一人の女の子がそこにはいた。

 どうやらナンパのようだ。

 友人?という可能性も考えはしたが女の子を見てそれではないことが明確だった。

 女の子を見ると路地裏で薄暗いこともあり顔ははっきりとは見えないが多分ナンパの経験が始めてなのか、少し体が震えており、何も喋れていないようだった。


 さて、どうしたものか。

 現在目の前の三人の状況を知っているのは多分俺だけで、一応周りに人はいるのだがイヤホンを付けて音楽を聴いていたり、友達と会話をしてるなどで夢中になっていた。

 

 とりあえずどうやってこの状況を解決するかを考えよう。

 俺は頭を使って考える。…がそんな余裕すらなかったようだ。


「はぁ、何も喋んねぇし。もうオーケーってことで良いよな?」

「良いんじゃね?そんじゃそろそろ行こうか」


 ナンパをしていた男たちは痺れを切らしたようで女の子の腕を掴もうと手を伸ばそうとする。


(やばい!)


 俺は路地裏の中に勢いよく入り、そのまま女の子に伸ばしていた手を掴んだ。

 この間俺はほとんど無意識の状態で行動しており、気づいた頃には男の腕を掴んでいたので内心驚きはしたが、徐々に驚きよりもそうなるという感じになっていた。


 まぁ、遅かれ早かれこうすることに変わりはなかったと思う。確かにここを通ろうとしたついでという理由もなくはないのだが一番の理由は祖母との約束があったからだ。

 多分あの約束がなかったらあのまま立ち尽くしていたかも知れないな。


「あ?なんだおま…え」


 俺に腕を掴まれた男は顔を上げ、俺を睨んできたがなにかビビっているようすであった。

 俺としては好都合だ。もう少し怖がらせれば相手も退いてくれるかもしれない。

 さて、なにか無いだろうか…、と考えていると一つ丁度良いのが思い浮かんだ。


(よし、やってみるだけやってみるか…)


 俺は男の目をジッと見ながらこう言った。


「『オレのシマで好き勝手してんじゃねぇ。潰すぞ…』」


 この言葉は俺が毎週観ている『うちのヤクザ』というドラマに出てくる若頭の決め台詞だ。

 これを聞いた時、背筋がゾッとしたことがあって覚えていたのだった。

 そんな言葉と自分で言うと虚しくなるが俺のこの顔が合わさることで絶大な効果が生み出されると感じ取ったのだが。


 さて、その結果は…


 効果は絶大だった。今のにビビった二人の男たちは『すんませんでしたー!』と言葉を置いて颯爽と反対の方向へと走っていった。

 

 ちなみに俺の心境は複雑であった。

 うん、逃げていってくれて嬉しいのは嬉しいんだけど…、何というかやっぱ自分の顔ってそんなに怖いのかなって感じてしまう。


「あ、あの…」


 この状況に安堵しようか悲しもうか考えていると隣から声をかけられる。

 そうだった、とりあえず女の子の安否を尋ねなければ、と思い自分の体を女の子の方へと向ける。


「あの大丈夫で……した…」


 言葉が止まってしまう。

 女の子はうちの制服を着ていた。

 確かにそこにも驚きなのだが、それ以上に驚きなのは彼女は俺のような人間関係がほぼ皆無な俺でも知っている人だった。なんならあの学校で知らない人はほとんどいないであろう。


――花守楓はなもりかえで

 うちの学校で一番の美少女と噂をされる子であった。

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