第3話 初夏
初夏の授業中の窓際の席はとにかく女子に人気が無い。片腕だけが日焼けをするし、ガラス越しの暑さ故に出る汗で前髪のセットが崩れてしまう。
運悪く席替えのくじに外れたいちかは、最後尾窓際の席でうちわ代わりに下敷きでパタパタと生温い風を扇いでいた。天井に備え付けられた扇風機も加勢していくれるが、あまり意味を感じられなかった。クーラーは一定の気温を超えないと作動することが許されず、もう少し、の温度差が一番つらい。英語のリスニングを聞き流しつつ、いちかは黒板に向かう教員の目を盗んで窓の外を眺めた。
眼下にはプールの底の人工的な青が広がっている。男女で分かれた体育の時間、先週行われたプール開きにより隣のクラスの女子が水着に着替えていた。
…涼しそうだなあ。
いちかは羨望の眼差しで、プールに飛び込んでスプラッシュを上げる生徒たちを見ていた。
一際高い歓声が上がる。その先を視線で追うと、一人の少女が飛ぶように見事なバタフライで泳いでいた。スピードは落ちず、そのままゴールのタッチをした。肩で息をしながらゴーグルとキャップを外す。その少女はしずくだった。「泳ぐの、得意なんだ。」
ぽとん、と呟くと同時に教科書を丸めた筒で頭を軽く叩かれた。
「!」
「堂々としたよそ見だな、尾上。」
英語教師が苦笑しながらいつの間にかいちかの隣に立っていた。周囲の様子を伺うと、クラスメイトたちも笑っていた。どうやら随分と熱中して、しずくの泳ぎを観戦してしまったようだ。
「す、すみませんでした…。」
周りから集中された興味が恥ずかしくて、いちかの頬が熱くなった。
「気をつけなさいね。じゃあ、続きだが―…、」
教師が発音のよい英語を紡ぎながら、離れていく。いちかは今度こそ授業に集中しようとシャープペンを持ち、ノートに向かうのだった。
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