第4話 協力したいけど、どうやって?
フィア・ゼスタークの話によると、誰かが故意に転生者を創っているらしく、フィアはその人物を突き止めようとしているらしい。
転生者は元来、まれに輪廻転生システムに起きることなのだという。工場の機械が何十万に一個不良品を出してしまうように、記憶と身体を継承する形で転生者が生まれるのだという。
転生者は転生先の世界に適応できずに死ぬことが多く、適応できてもモンスターなどに襲われたり狂って死ぬらしい。
それは、どんなに怖いことだろう。転生者の記憶や身体がそのままならば、今まで生きてきた常識や人生を全て塗りつぶされてしまうことも、それが、意識のある状態で行われることも、僕だったら耐えられない。
だって、麻酔なしで、自分の手術箇所を見ながら手術されるみたいな話だから。それならば、僕は一つの世界でちゃんと生きたいと思う。
「あの、フィア・ゼスタークさん。僕にも手伝えることはありませんか?」
僕は、思わずその言葉を口に出していた。僕もある意味関係者なのだ。力はなくとも、少しでも協力したいと思った。
フィア・ゼスタークは一瞬目を大きく見開いたが、すぐにジト目に戻って、クククと悪役のような笑い方をした。
「いいぞ、その心意気は悪くない。私の連絡先、そして転生者に関するデータを追加しておいた。画面に表示されるはずだ」
フィアがそう言うと同時に、画面にピコン、と通知が来た。仕事が早い。
◆
ひとり暮らしの部屋のベッドの上にあぐらをかいて、画面の資料を読む。
データの内容としては、日本の人間、特に若者が転生者となる割合が八割ほどだった。転生者の全数もこの十年で倍以上に増えている。今は少し落ち着いているようだが。
「異世界転生モノのフィクションって、アニメとかにもなってて人気ですよね。なんかこのデータに似てる気がします。こんくらいの時期に流行っていた気がするし」
「……そうなのか? 私は人間世界の現代文化には疎くてな。同僚にアニメーションが好きな奴がいるのだが、たしかに異世界転生がどうたらとか言っていた気がする」
フィアが首を傾げながら答えた。フィアって同僚と話、するんだ……。
「それにしても、僕にこんな情報見せてしまって良いんですか?」
「それなら、君の記憶を消すから大丈夫だ」
当然のことのようにフィアが言った。
そっか。記憶も消えてしまうんだ。ちょっと寂しい気もする。最近こんなに自分から何かやろうと思うことなかったし。
それに、目の前の画面に映ったフィア・ゼスタークという存在が気になっているのかもしれない、なんて。馬鹿げたことを思ってしまう。
「……どうかしたか、
画面越しのフィアが、考えこんでいた僕をのぞき込むようにして見つめた。
「いえ、何でもないです。続けましょう。輪廻転生局で転生者を意図的に創れるような部署ってどれくらいあるんですか?」
「それが……監視局のみなのだ」
転生者を創ることができるのは、フィアの所属部署のみ。
どれだけ部署があるのかは知らないが、かなり数が絞られるはずだ。何人部署に居るのかを聞いて、それぞれの情報を聞いてみるか。
そうやって僕が考えこんでいると、フィアが言葉をぽつりと呟いた。
「……私は同僚を疑いたくないのかもな」
フィアの言葉を聞いて、僕は我に返った。
そっか、僕にとってはどこか遠い世界の話だけど、フィアにとっては身近な同僚なんだよなあ。
探偵ごっこに夢中になっていて、フィアの気持ちなんて、考えもしなかった。僕は他人の領域にずかずかと入り込んでしまっていたのだ。
「……君に、犯人を突き止めたいとは言った。だが、誰が犯人なのかは、本当は分かっている」
フィアは何かを諦めてしまったような、そんな表情をしている。
僕は、深く息を吸って吐いた。他人の領域にずかずかと踏み込む覚悟をする。
「そうなんですね。……誰なのか聞いてもいいですか?」
僕は意を決して聞いた。
「ああ。先程言ったアニメーション好きの同僚だ。私が自分の頭で何度も何度も考えても、その同僚がやっているとしか思えないのだ」
輪廻転生システムを自由に書き換えられるのは、フィアともう一人、その同僚なのだという。
フィアが書き換えを行っていないのなら、おのずと犯人は絞られる。そいつだ。
でも、僕はどうやってフィアに声をかければいいのだろう。
同僚が人間をたくさん異世界に転生させて、異世界でその人間たちが死ぬのをずっと観察していた、なんてことは、普通に生きていて起きることではないからだ。
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