第3話 輪廻転生局なんて所があるらしい。
電話のコール音が途切れたと思うと、リモート授業みたいに相手の顔が大きく表示される。小さく僕の顔も表示されていて、急に僕が起き上がってしまったためか、きったねえ僕の部屋も丸見えになっている。部屋を映すときは予告してくれよ。
通話の相手は、青白い顔にショートカットの白い髪の毛、おまけにジト目だ。
「こちら輪廻転生局監視課日本担当、フィア・ゼスターク。ご用件は?」
少女とも少年ともとれない声。聞き慣れない文字列にビビりつつも、僕は答える。
「えっと、田んぼに落ちたあとから、視界に画面? みたいなものが表示されてて……。どうすればいいですかね? 画面に問い合わせ先があったから問い合わせてみたのですが……」
ダメ元で聞いてみると、フィア・ゼスタークが頷いた。
「ああ、f-12からの転生者がいたとの連絡があった。君か。……ここ数日の間に、別の世界に一瞬行った記憶が君にもあるはずだ」
「もしかして、暫定エルフ美女の夢ですか?」
僕がそう答えると、フィア・ゼスタークが、ふ、と息を漏らした。
「それは夢ではない。君は、r-75の世界に一時的に接続してしまったのだ。ミランが転生局の職員だったおかげで、無事に元の世界に戻れたようだな」
ミランというのは暫定エルフ美女のことらしい。
え、ということは、あのミランさんは実在する、ということでしょうか? それを聞いて、僕は妙にワクワクしてきた。
いや、あの子は僕に電流を流したんだぞ、と思い直す。痛かったんだぞ、あれ。
「電流……」
僕は気づかぬうちに呟いていたらしい。
その言葉を聞いて、フィア・ゼスタークが唇をつり上げている。どうやら笑っているようだ。笑顔を作るのが下手すぎるだろ。
「電流、ああ。ミランに電気系の魔法を流されたか。転生してしまった人間を元の世界に戻すには、身体に衝撃を与えて気絶させなければならなくてな。五体満足で元の世界に帰って来られて良かったじゃないか。あのままだと、転生先の世界に適応するために君の身体が変質していただろう」
「身体が……変質?」
僕の言葉に、フィア・ゼスタークが頷いた。
「転生してしばらく経つと、魂だけでなく身体も世界に適応しようとする。例えば身体がものすごく大きくなったり、だな。多分だが、君に見えている画面も適応の一つだったのだろう。大抵は完全な世界への適応に失敗するのでな」
世界への適応……なんか難しいことを言っている気がする。
「それ、失敗するとどうなるんですか」
「死ぬ。まれに成功する者もいるが、結局モンスターに襲われたり、身体の変化に魂がついていかなくて狂って死んだりする。どっちにしろ死ぬ」
「ひぃ…………」
思わず口から声が出る。どうせ転生しても死ぬのなら、戻ってこられて良かったのかもしれない。
「君の視界に画面が現れるようになったのは、ミランの世界がゲームを元にした場所だからだ。世界を創ったやつがゲーム好きでな。君の見ている画面は一生消えない可能性が高いが、見えていて不便ではないだろうから心配するな。良かったな、耳が伸びたりとかじゃなくて」
「えぇ…………」
不便じゃないけど、ずっとこれなのかと思うと微妙な気持ちだ。
「それよりも重要なのは、転生者についてだ。君はなりかけて戻ってこれたので転生者とは言えないが」
フィア・ゼスタークが真面目な顔をして言ったので、僕もつられて真面目な顔をした。
「じゃあ僕は転生者未満というわけですね」
「そうだな。……本来の転生は、人生に蓄積されてきた記憶と身体をリセットされて行われる。だが、私たちが転生者と呼んでいる存在はそのどちらかがリセットされていないか、どちらもそのままで転生する」
フィア・ゼスタークは今までよりも更に神妙な面持ちとなった。
フィアは声が大きいほうではなさそうだが、今までより声を潜めて話を続ける。
「転生者は、ここ十年ほどで数が増えている。
――――誰かが故意に転生者を創っているのではないか、と私は疑っているのだ」
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