第2話 どうやら現実に戻ってきたらしい。
目を開けると、知らない部屋にいた。
クリーム色の天井に、淡いピンク色に仕切られたカーテン。
ああ、ここは病院だ。なんとなくだけど、随分と時間が経った気がする。
「なんだこれ」
ゲームのコマンドのような画面が宙に浮いている。拡張現実を取り入れた、最先端の病院なのだろうか。
僕の名前、羽根木叶也(はねぎかなや)の文字。いつ撮ったのか分からない顔写真。就活は来年なんだけど、それっぽいお堅い雰囲気の写真だ。
三角形のグラフ。全部で十段階になっている。体力は
「おはようございます、お体は痛いところなどありますか?」
拡張現実の画面を見ているうちに、看護師の方が部屋に入ってきた。この画面があれば、入院しても退屈しなさそうだな。
「あ、はい。大丈夫っぽいです」
僕は曖昧に答えた。でも、身体はめちゃくちゃ元気だ。
「それは良かったです。羽根木さんは田んぼに落ちてしまったらしいですね。トラックの運転手の方が、ぶつかってはいないものの警察や病院にも連絡してくださったそうですよ」
車と人間がぶつかってはいなくても、警察には通報をしたほうが良いらしい。そう看護師の方が親切に教えてくれた。これでまた一つ賢くなったな。ご丁寧にもトラックの運転手の方は保険適用できなかった入院費用その他諸々も出してくれたし、ドラマでしか見たことないフルーツのかごもくれたらしい。
「あとで検査をして、異常が見つからなければ早くて明日には退院できそうですよ」
看護師の方の話によると、田んぼに落ちたあと、僕は一日ほど眠りこけていたらしい。でも、なんか一瞬だけ僕の姿がベッドから消えてたから、脱走したのかと病院内が騒然としたこともあったらしい。寝ている間、目が覚めた記憶はないんだけどな。
「……本当ですか、ありがとうございます」
かろうじて、感謝の言葉を口にする。
そして、僕は何か話を続けなければという気持ちにかられて、拡張現実の画面についてを話題にした。
「あ、そういえば、この拡張現実? って言うんですか、浮いてるこの画面すごいですね」
一病院にもこんなにすごい技術力があるんだ、と関心しながら僕が言うと、
「はい?」
と、看護師の方が怪訝そうな顔をした。
「ほら、この青い四角に囲まれた、僕の能力のデータとか書いてあるじゃないですか。看護師さんのところに浮かんでいるデータも。趣味はスケートボードって書いてありますよ」
僕の言葉を聞いて、看護師の方の顔から血の気が引いたように感じた。
「せ、先生……!
そして、看護師の方は医者を呼ぶために部屋を飛び出していった。
――もしかして、これは病院の用意した拡張現実ではない?
◆
ぼんやりと考えていると、医者とさっきの看護師の方が息を切らしてやってきた。医者が僕に対して、諭すように言う。
「羽根木さん、視覚には問題がないとのことですが、先程田中にした話をもう一度してくれませんか?」
田中というのは看護師の方の名前のようだ。
「……いや、どうもさっきは寝ぼけていたみたいで。大丈夫です」
そうは言ったが、二人は心配そうな顔をしていた。僕も心配ではあるよ、これが何なのか。
◆
精密検査の結果、僕にはなんの異常も見つからなかった。もちろん目も。強いて言えば、生活習慣が少し乱れているとの指摘を受けただけだ。でも、大学生にしては僕はましなほうだと思うんだけどな。
退院となって、一人暮らしの部屋に帰る。帰るまでの間にも、バスに乗ればバスの中にいる人間の頭の上にパーソナルデータらしきものが浮かんでいる。バスについても目的地までの情報が見られるので、まあまあ便利だ。
きったねえ部屋に戻り、ベッドの上に寝転がって、自分のデータを改めて確認する。データは数ページにわたっている。地図やら検索欄やらもあって、使いこなせたら案外便利かもしれない。
あれ、最後のページにお問い合わせ先がご丁寧に書いてある。
ポチッとその問い合わせ先を押してみると、プルルルと電話のコール音が鳴り出した。
……一体、どこに電話がつながるんだ!?
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