ふたりで進んだ先には何があるの?④
お昼は、アルバリア湖とは町を挟んで逆側、『星の降る草原』が目の前に広がる、『スタナチア』というカフェで摂った。
草原が良く見渡せるテラス席に通された私達。机を挟み向かい合うように座る。お昼の時間は少し過ぎたせいか、こじんまりとした店内には私達以外のお客さんは見当たらなかった。
店員さんが丁寧に二人分のメニュー表を渡してくれる。けれど、いつもソミアさんに作ってくれたものを頂くだけなので、書いてあるものがどんな料理なのか想像がつかなくて。
メルティエさんは、この町で採れた野菜とピゴットの肉を使ったミルク煮込みとパンに星粒草のお茶を頼んだ。
……私も同じものにしようかな。お揃い、なのはちょっといいかもって思うし……。でも、違うものを頼んだ方がお互いのものをそれぞれ味見もできるかもしれない。って、そもそもなんでお互いに頼んだものを味見し合う前提で話しているんだ、私……。
「フィルカちゃんが頼んだの、どんな感じなんだろ〜。」
「メニューをみた感じ、さっぱりしてそうでしたけど。」
「だねっ!いいなぁ〜。あたしもそれにしておけば良かった。」
「……少し分けましょうか?」
「えっ!?いいのっ?」
「はい。」
「ありがとっ!じゃあ、私のも分けてあげるねっ!」
「ありがとうございます。じゃあ、少しだけ。」
こうもトントン拍子に私が思い描いていたようになるとは思っていなかった。おかげで心は浮かれてしまい、それを押さえつけるのに苦労するありさまで。
でも、仕方ないよね。私にとっては小さくて、暖かくて、大事な幸せなんだから……。
少しして、店員さんが料理をお盆に乗せて運んでくる。
メルティエさんの前には大きめの木の器に並々と入ったミルク煮にそれと同じくらいの大きさの柔らかそうな丸いパン。そして、白いカップに入った、薄緑に透き通ったお茶が置かれる。
私の前には、四角いバスケットに、飛び出してしまいそうな程に大きなお肉と野菜が白いパンにサンドされたものが3つ。お肉はそれぞれ、違う味付けがされているみたい。
だから三味一体。なるほど。
その脇には、透明な背の高いコップに注がれた黄色い飲み物。
「ご注文は以上でお間違い無いですか?」
「はいっ!大丈夫ですっ。」
「では、ごゆっくり。」
そう言って店員さんは下がっていく。
「なんか、思ったよりも量が多い、かも?」
「そうですね。意外です。」
なんとなくお店みたいに、もっとこじんまりとしたものが出てくるものかと勝手に想像していた。
「食べきれるかなぁ〜。」
「……二人で頑張りましょう。」
「そうだねっ!頑張ろう〜!いただきまぁすっ!」
「いただきます。」
メルティエに少し遅れて唱えてから、一番左のサンドをバスケットから引き抜く。
やっぱり大きい。両手でじゃないと上手に持てない。それに厚みもなかなかで、私が目一杯、口を開けても収まらないほどだった。
なんとか
柔らかいお肉と、ふわふわのパンと、シャキシャキした葉野菜。3つの食感が一度に味わえて、ここにも三味一体を見つける。そこに、酸味の効いたフルーティーなソースが広がって、ヤミつきになりそうだった。
いけない。メルティエさんにも分けてあげないとなんだった。
メルティエさんは、ミルク煮込みをスプーンで
温かいミルクの香りが漂ってきて、美味しそう……。
「うんっ?あ、交換こ、する?」
「あ、はい。良ければ……。」
すると、メルティエさんは予想外の行動を取る。
「……えっと、これは?」
メルティエさんは、スプーンでミルク煮込みを
「これはミルク煮込みだよっ?」
「いえ、そうではなくて……。」
「やっぱりいらない?」
「そうでもないです。ですが……。」
「それなら、はいっ!あ〜んっ!」
ちらっとお店の中を見ると、店員さんが二人で私達の様子を
恥ずかしい。
「自分で食べられますから!」っと、訴えてやめてもらってもいいのだけど……。
でも、メルティエさんの厚意を無駄にはしたくない。そう、それだけ。それだけならやましくもなんとも無い、よね?メルティエさんからし始めたことだし。それに、こんなところで臆していては、明日からの新しい迷宮探索なんてできっこない。
……それは関係ない、かも?
いずれにしても!今、私のやるべきことは、目の前のミルク煮込みをありがたくいただくこと。そう、これは私の責務であって、決して望んでとか、そういうわけでは……。
「フィルカちゃん、あ〜んっ。」
目を
美味しい。温かい。そこまでは分かるんだけど、それ以外はふわふわになってしまっている頭では上手く理解ができなくて。
料理がおいしいのか、メルティエさんが食べさせてくれたから美味しいのか判断が付かなかった。
「どう?」
「あ、えっと……、美味しい、です。」
「だよねっ。ミルクが濃い目で、あたし、結構好きかも。ねね、フィルカちゃんのももらっていい?」
「はい。」
「フィルカちゃんに食べさせてほしいかも。」
「えっ。」
「あ〜ん、させてくれないと食べられないなぁ。」
そんなことあるはずわけないんだけど……。
こ、これもメルティエさんのため……!
何とか気持ちを奮い立たせて。
「じゃ、じゃあ、どうぞ。」
立ち上がって、机を飛び越すように両手を伸ばす。それだけだと届かないのを察してくれたメルティエさんも立ち上がってくれて、「あ〜んっ」と口を開けて待っている。
食べさせてもらった時はもちろん恥ずかしかったけど、こっちはこっで……。
いや、メルティエさんが待っているんだから。意を決してメルティエさんの口元にサンドを近づけると、ぱくり、とかじりつく。私よりもひと回り大きなメルティエさんの口でも、食べるのは大変そうで。
「んもっ。んんっ。おいひ~。ほいおっき~へどっ。」
「メルティエさん、飲み込んでから話した方がいいです。」
「ふぁあいっ。」
ふたりで椅子に座りなおす。
口いっぱいに頬張ったサンドを幸せそうにもしゃもしゃとするメルティエさんの姿が尊いものに見えた。
メルティエさんは、ごっくん、と飲み下すと
。
「はぁ~。美味しい~。今、頼まなかったものも食べてみたいかも。」
「また今度ですね。今のこれも、食べきれるか怪しいですし。」
「えへっ。そうだねぇ。じゃあ、また今度。絶対に来ようねっ。」
「はい。」
メルティエさんは、再びミルク煮込みに
時折、飲むと口の中でぱちぱちする不思議なミックスジュースで心の落ちつかせつつ、そんなやりとりを何往復かした後で。
「そういえば、今日は行くところ決めたんだけど、時間が足りなかったら明日にしようかなって思うんだけど、どうかな?」
分かりました。
危うくそう答えそうになった私を何とか引き留めてから心を落ち着かせて。
「明日、ですか?」
「うん。ダメ、かな?」
おねだりモードのメルティエさんは強い。私の心を的確にくすぐって、こっちにおいで、と引っ張ってくる。
けど、今ここで負けるわけにはいかない。
気持ちを強く持つ。
そう。言わないといけないことはしっかり話し合うんだって決めたんだから。
「もう3日も探索、お休みしていますよね?そろそろ再開したほうがいいと思います。」
「それは~……、そうだけど~。」
「メルティエさんの探し物を見つけるのが私たちの目的なんですから。お休みも大事だとは思います。だけど、いつまでもこうしているのはダメだと思うんです。」
本当は私だって……。
そんな、甘えと
「1日、1日だけだからぁ~。」
「そう言って、また明日も延長しそうですよね。」
「う゛っ……。そ、そんなことは、無いと思うけどなぁ~?」
「ありますね。」
「むぅ~……。」
納得できないっ!と言葉にはしないけど表情ではっきり、しっかり伝えてくるメルティエさん。このままだと、力づくでも明日は探索に行かない!なんて言い出してしまう、かも。
……さすがにそこまではしない、とは思うけど、メルティエさんの気持ちも
何かいい案がないか、少し考えてから。
「それなら、定期的にお休みの日を作るのはどうですか?休んでばかりもいけませんけど、探索ばかりっていうのも疲れてしまうかもしれないので。」
「それ、いいかもっ!じゃあ、探索を1日したら、次の日はお休みで――。」
「待ってください。それだと探索が進まないんじゃないですか?それに、お金の問題もあります。1週間に1日とかに――。」
「それだとお休みが少なすぎるよぉ~。お願いっ!もうちょっと増やしてっ!」
「ですが……。」
「お願いっ!!」
あまり休みが増えるとメルティエさんの探し物の件で支障が出てしまうかもしれない。でも、確かに週に1日は少なすぎる、のかな?
……いろいろ、試してみよう。間違っていたら、また話し合って直せばいいんだから。
「分かりました。それなら、間を取って3日探索して、1日お休み。これでどうですか?」
「もうひと越え!」
「無理です。」
「うう~。フィルカちゃんのいけずぅ~……。」
「試しにこれでやってみて、変えた方が良さそうであればその度に検討しましょう。それに、状況に応じてお休みの日も探索の日も前後させたり、増減させたり、で。臨機応変、ってやつです。」
「むぅ~。……でも、そうだね。あたしたちにもやらないといけないことがあるから。じゃあ、お休みの日は1日中、フィルカちゃんに相手、してもらおうかなっ。」
「私でよければ。」
「えへっ。フィルカちゃんじゃなきゃ、や~だよっ♪」
くすぐったい。
メルティエさんのことを見ることができなくなってしまうくらいに心がくすぐられて、悪戯っぽいメルティエさんの声がいつまでも私の中で響く。
「……では、明日からは探索と言うことで。」
「はあいっ。う~んっ。やっぱりフィルカちゃんとずっとまったり過ごしたいなぁ……。でもでも!お休みのためって思えば、頑張れるかも?」
「メルティエさんは光枝を見つけるために頑張らないといけないんですよ。それを忘れないでください。」
「はあいっ。」
そうは言っても、嬉しかった。
メルティエさんも私を必要としてくれているのを感じられて。
私と同じなんだと実感できることだった。
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