ふたりなら。④
「ないっ!光枝が無いよっ!」
メルティエさんはその場に
金色の光る星の小樹からは、確かに“枝”のようなものは伸びているのだけど、折ろうとしてもびくともしない。メルティエさんはお師匠様から、光枝は力を加えなくても採取可能なもの、と聞いているらしいのだけど……。
試しに、私が
星樹といい、目の前の小樹といい、この辺りの“樹”と呼ばれるものは、私たちが想像するものとはだいぶ、“もの”が違うみたい。
「ううぅ〜。お師匠様になんて報告すれば〜。」
「メルティエさん……。」
おいおいと泣き崩れたメルティエさん。
その姿を見ていると、さっきまで見つからなければいいのに、なんてほんの少しでも考えてしまっていた自分を斬り捨ててやりたくなる。
私が大切だと思うメルティエさんのために役に立ちたい、と思うのと同じくらいの、いや、それ以上にメルティエさんだって、大切なお師匠様のためになりたいと考えているはずなのに、そのことをきちんと理解してあげられてなかったのだから……。
せめてもの罪滅ぼしとして、メルティエさんに手を差し伸べようとすると、それよりも早く、パッ、と泣き止んだメルティエさんが立ち上がった。
「でもでも!フィルカちゃんとまだまだ冒険できるってことだよねっ!それならいいかなっ!」
「えっ……。それは良くはない、と思いますが……。」
「いいのっ。それとも、フィルカちゃんは嬉しくない?」
「い、いえ。メルティエさんと一緒に居られるのは……、その、嬉しいことなんですけど……。」
嬉しくないけど嬉しい。
そんな訳のわからない
「えへっ。ごめんね。そういう言い方は良くないよね。フィルカちゃんはあたしのために手伝ってくれてるんだから。今回は見つからなかったけど、星の小樹がどこにあるかが分かったってだけでも十分な成果だよっ!それもフィルカちゃんのおかげ!あたしだけだったら見つけられなかったと思うしっ。」
「そんなことは……。」
「あるよっ!あたしだけだったら、きっと隠し通路があるなんて気が付かなかっただろうしっ。うんうん。そんなフィルカちゃんにはご褒美、あげないとねっ!」
「ご褒美?」
そんな大層なものを貰えるほどの功績はなかったように思えるんだけど……。
すると、メルティエさんは地面にぺたんと座って小樹により掛かると、
「えっと、これは……。」
「も〜。フィルカちゃん、わかってるくせに〜。」
もちろん分かっている。
「わ、私はまだ大丈夫なので。」
「だ〜めっ。後ろから見てたから分かるんだからねっ。フィルカちゃん、何回も武器の出力を上げながら戦ってたでしょ?次、戦う時に倒れちゃったら困るでしょ?だから、今のうちに。ねっ?」
メルティエさんの言うことは最もで、今は大丈夫だけど、次、また同じような相手と一戦交える事になったら持つかどうかは分からない。
だからこれは必要なこと。必要なこと……。
そう自分に言い聞かせても、最近は、恥ずかしいと感じてしまうのが強くなってきていて。
だからといって、今更、他の方法で分けてもらうなんていうのも提案しづらい。
なにより、あの暖かさと柔らかさと心地よさを覚えさせられてしまったあとでは、逆らいようもなくて。
「は〜い。それじゃあいくよ〜。」
ゆっくりと前に手を回して……、とはならなかった。代わりに私の両手を、指を絡めるように握る。私のグローブの感触を楽しむかのような、繊細な指使いが伝わってくる。
ちょっとくすぐったい。手も、心も。
そのうち、満足したのか指の動きが止むと、きゅっと握り込んできた。
流れ込んでくる温かい潤い。今日は包み込むような感じではなくて、特に握った手からじんわりと染み込んで来るような感じ。いつもとは違う感覚で、思わず身震いしてしまう。
「えへっ。フィルカちゃん、くすぐったい?」
「いえ。大丈夫です。」
強がってみた。
「そう?……フィルカちゃんはどっちがいい?手を繋ぐのと、ぎゅってされるの。」
答えるのが恥ずかしい二択を迫ってくるメルティエさん。
正直に答えてしまうと、どちらも好き、なんだけど、それをはっきりと伝えてしまうのはちょっと……。
「メルティエさんの好きなやり方で大丈夫です。」
「そう?じゃあ次も好きにさせてもらっちゃおうかな。」
そう言いながら、ふふっ、と笑みをこぼしたメルティエさん。
「どうかしましたか?」
「えっとね、光枝が見つからなかったのに何故か安心しちゃって。あたし、なんだかおかしいなぁって思ったの。ごめんね?フィルカちゃんはあたしのために頑張ってくれてるのに。」
メルティエさんも私と同じ気持ち。
そう思うと、肩にのしかかった罪悪感がいくらか軽くなった気がした。
「いえ。メルティエさんが気にされていないのであれば。その、引き続きよろしくお願いします。」
「うん。お願いしますっ。でもでも、どうやってあの壁がすり抜けられるって分かったの?」
「はっきりしたものは無かったのですけど、なんとなく、変な壁だなぁっていう違和感があって。」
「そっかぁ〜。これから行き止まりの怪しい壁はフィルカちゃんに確認してもらうかなっ!」
「分かりました。それと、メルティエさんが一人で探索していた場所ももう一度確認してみますか?ひょっとしたらあるかもしれませんので。」
「そうだねっ!楽しみだなぁ。」
「メルティエさんはいつも前向きですね。」
「そう?」
「はい。その、私も見習わないと、って思っています。」
「あたしはフィルカちゃんのお師匠様だからねっ。いっぱい、見習ってくれていいからねっ。っとぉ、そんなお師匠様から一つ提案がありますっ!」
へへんっ、と得意げなメルティエさん。
「なんですか?」
「さっきの戦闘で思ったことなんだけどね。戦ってる最中に、もっとお互いに声を出し合った方がいいのかなって。フィルカちゃんは大変かもしれないけど……。でも、援護が欲しい時に教えてもらえば、もっと連携して戦えるかもって。あたしも、後ろから全体が見渡せるから、気がついたことを報告できたらフィルカちゃんも戦いやすいかなって思うの。どうかな。」
「……そうですね。そのほうがいい……、かもしれません。私としても、援護が欲しい時に貰えれば助かりますから。それに、メルティエさんが今どういう状況なのか教えてもらえれば、次にどういう行動をとればいいかの参考になりますし。ただ、目の前のことで精一杯になってしまう時もあるので、上手くできるかは分かりませんが……。」
「少しずつでいいと思うの。あたしも、フィルカちゃんもきっと初めてでしょ?だから二人で一緒にやっていけばいいのかなって。」
ふたりで。
不思議な力を持った言葉。メルティエさんの使う最強の魔法の一つ。それだけでなんでもできるようになってしまう気がするから。
「そうですね。頑張ってみましょう。ふたりで。」
「うんっ!」
そう、ふたりならきっとできる。
ふたりなら……。
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