第2層 星樹と私と
ふたりなら。①
メルティエさんがちょっとだけご機嫌ななめ、かも?
そんな風に感じたのは、二人で探索を始めてから2週間が過ぎた頃だった。
いつものように、黒き根の道を並んで歩いていると、メルティエさんの横顔がちょっとばかり、むすっ、としているように見える。
何かあったのかな。もしそうなのだとしたら、きちんと話して欲しい。二人でよく話し合って一緒に探索を続けるって、そう決めたんだから。
聞くのは少し怖い。私に何か非があることかもしれないから。でも、それならば教えてもらって直したい。
一度、小さく
「あの、メルティエさん。」
私が立ち止まると、少し遅れてメルティエさんも立ち止まり、振り返って。
「うん?なあに?」
あまりいつもとは変わらない返事。でも、ほんの少し元気がない。
「もしかして、私に話したいことがあったりしますか?」
「えっ?」
「あ、いえ。私の気のせいだったらいいのですが、何か言いたげにしているように見えたので。ひょっとしたら、私の言動でメルティエさんが不快に思うようなことがあったのかなぁ、と思って……。もしもそういうことがあったら話して欲しいと思って。ふたりできちんと話し合って探索をするって決めましたから。言ってもらえれば、私も気を付けるようにします。」
落ち着いて、目を
メルティエさんは少し慌てて。
「そ、そんなことないよ!?……う~、でも~。」
「でも?」
「ちょっとだけ、相談したいことが、あるかもしれないなぁ~、なんて?」
「聞かせてもらえますか?」
「大したことじゃないんだけどね……?最近、魔力を分けてあげる回数がめっきり減っちゃったなぁって。」
「そうですね。メルティエさんにいろいろと教えてもらったおかげで、問題なく戦えるようになりました。メルティエさんに負担も掛けずに済むようになって、とてもいいことだと思います。」
「よくないよっ!!」
「えっ!?」
「フィルカちゃんを合意の上でぎゅっとする機会が減っちゃったんだから!」
「は、はぁ……。」
あまりに意外な主張がメルティエさんから飛び出してきて、驚き
「フィルカちゃん!」
「は、はいっ。」
「やっぱり戦闘が終わったら毎回、魔力補給しよっ?魔力はいつでも満タンにしておいた方が、緊急時にも安心だから!」
「でも、それでは効率が……。」
「大丈夫!安全地帯に戻らなくても、少しの補給なら立ったままで出来るから!それなら続けて探索もできるでしょっ?とってもいい案だと思うのっ!」
ぐいっ、ぐいっ、ぐいっ、と私に迫ってくるメルティエさん。
「お、落ち着ていください。その、私は今のペースでも大丈夫なんですが……。」
「あたしが大丈夫じゃないのっ!」
「そ、それはちょっと意味が分からないというか……。」
「むぅ~……。やっぱり、だめ……?」
急に引かれると、その場に置いてきぼりにされたみたいで寂しくなってしまう。
ま、まぁ、1戦で消耗する魔力はたかが知れているし、ほんの少しで終わるだろうから、戦闘直後なら襲われる心配もない、と思う。
……なら、いいのかな?それくらいは。
「すぐに終わるんですよね?」
「うん。魔力を分けてあげる時間は、その量に比例するから。こまめにすれば1回の時間はかなり短いよっ。」
そういうことなら、メルティエさんも望んでいることだし、その願いに寄り添ってあげたい。
ぎゅっとしたいとかなんとかという部分は若干引っかかるけど。
「分かりました。今日はそれで試しにやってみましょう。」
「えへっ。ありがとっ!それじゃあ早速~。」
手をワキワキさせてじりじりと近寄ってくるメルティエさん。
「ちょ、ちょっと待ってください。今からなんですか!?」
「そうだよっ!もう2回も戦ってるんだしっ!早めの補給は大事だもんねっ。」
するりと私の背中に回ったメルティエさん。膝の上に座らせてもらっている時と同じように腕を前に回してきて私を引き寄せてくる。
「め、メルティエさん、本当に、……んんっ!?」
わずかながらの抵抗の隙も与えてくれず、容赦なく温かい潤いを私の中へと注ぎ込んでくる。
立ったままだと、いつもより無防備な感じが増している気がする。
落ち着かない。だけど、ぎゅうっ、とされると目の前がチカチカして力だけは抜けていく。
「め、メルティエさん、あまり強くされると……っ。」
「あ、ごめん。苦しいよね?」
むしろ気持ちよすぎておかしくなりそうだったけど、そんなことは恥ずかしくて言えないから胸の内にそっとしまっておく。
「ちょっと緩めたけど~。こんな感じでいい?」
「ありがとうございます。……なかなか見つかりませんね。星の光枝。」
「うん~。まぁでも、仕方が無いかなぁって。のんびり探すしかないよ。」
あまり気にしてはいなさそうなメルティエさん。
「でも、お師匠様が待っているんじゃないんですか?」
「そうなんだけどね~。…………お師匠様は優しいから、待っててくれると思う。」
「そう、ですか。」
妙に長かった間が私には引っかかって。
本当は、期限が決められていたりするんじゃないのかな……。
でも、メルティエさんがそう言っている以上、無理やり聞き出すのも変な気がして。
「急ぐようでしたら遠慮なく言ってくださいね。私もできる限り、頑張りますから。」
「うんっ。いつもありがと。」
感謝の言葉は誰からもらっても嬉しい。
だけど、メルティエさんからもらうそれは、耳をくすぐり、心もくすぐる。くすぐったくなって少しだけ距離を置きたくなってしまうくらいに。
「っと、そろそろ大丈夫そう?それとも、もう少し欲しい?」
「えっと……。もう少しだけ。」
「フィルカちゃんは欲張りさんだなぁ〜。でもでも、正直なのはいいことだよっ。」
そういう風に言われると、ちょっと悔しくて、くすぐったくて……。離れたいはずなのに、メルティエさんのくれる心地よさは手放したくなくて。自分でも良く分からなくなってきて、ひとまずはこのまま、身体を預けて考えるのはやめておくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます