一緒に考えて、一緒に決めて。④

 それから少しずつ日を重ねて、力の使い方を自分のものにしていった。

 私の魔力補給の回数も大幅に減って、最初の1週間が嘘みたいなほど探索が進むようになって。ただ、そうなっても気は抜かず、メルティエさんから必要なことを色々と教えてもらいながら。

 メルティエさんも、すっかり攻撃魔法が板についた。

 私が前で敵を引き付けて、メルティエさんが消し炭にする。それを見て怯んだほかの敵は私がぎ払って終わり、というのが私たちの基本的な戦い方として定着していった。ブラックヴァイン達にはその作戦が上手くいくおかげで、1日で集まる素材もこれまでとは比較にならない程になって。メルティエさんの大きめのウェストポーチもパンパンになるほどで。

 ようやく、落ち着いて探索ができるようになった。一緒に探索を初めて10日ほど経って初めてスタートライン立てた気がする。

 ようやく、私の、私たちの探索生活が始まる。

 不安はある。まだまだ私はその日暮らしのような生活で、今後のことなんて予定も何も立てられていない。それに、星樹を探索して行った先に何があるかが分からない。今は問題なく進めているけれど、もっと狂暴なモンスターや罠が待ち受けているかもしれない。

 でも、メルティエさんとなら乗り越えていける。二人で力を合わせればきっとうまく行く。

 きっと。


「フィルカちゃんっ!」


 自分のベッドに腰を掛けて、窓の外の夕焼けの空と、それを綺麗に反射する湖を眺めていると、メルティエさんに声を掛けられた。にっこにこな笑顔で私の前までやってくる。


「どうかしましたか?」

「へへんっ!はい、これ、ど〜ぞっ!」


 メルティエさんが差し出したのは、赤いが付いた薄茶色の布袋。


「これは?」

「いいから受け取って。」


 私が両手でお皿を作ると、メルティエさんがその上にそっと袋を置いた。じゃらっ、と金属が擦れる音に冷たい感触が布袋とグローブをすり抜けて、私の手に伝わってくる。


「開けてもいいですか?」

「うんっ。」


 中を覗くと、赤褐色に輝く金属がかなり入っていた。


「これって……。」

「今日のフィルカちゃんの取り分。宿代と探索に必要なお薬や道具の代金を引いたのを半分ずつにしたのっ!ほら、あたしも、じゃじゃ〜ん!」


 メルティエさんは、嬉さを弾けさせながらもう一つの袋を取り出して中身を見せてくれる。


「だ、ダメです。受け取れません。」

「え〜。どうして?」

「昨日までの足りない生活費は全部、メルティエさんが出してくれたわけですし、まずはそれの穴埋めをしないと……。」

「それは大丈夫っ!半分ずつにしても銅貨40枚!1人銀貨1枚分の大台はまだまだだけど、この調子だとそのうち乗っちゃうからね。そうすれば、穴埋めもあっという間にできちゃうよっ。」

「ですが……。」

「それに、フィルカちゃんの生活に必要なもの、全然買い集められてないでしょ?ほら、服も出歩く時はそうやって変身しないとだし。」

「これは……。私は不便では無いですが……。」


 不便ではない。ないのだけど、ピンクに白の衣装と言うのは、なかなか珍しいみたいで人の目を集めてしまうのが気になってはいる。戦うときは気にならないのだけど……。

 それに、メルティエさんみたいにいろいろな服が欲しい、というのはちょっとだけあったり、なかったり……。

 

「服だけじゃないからね。イチからそろえるとなると、それなりにかかっちゃうから。フィルカちゃんも貯めておかないと。」

「そうですが……。」

「もう。そんなに気になるの?」


 私が黙ってうなずくと、メルティエさんは、う〜ん、とうなりながら考える。少ししてから。


「じゃあ一つ、私のお願いを聞いてもらうの!それで借金は晴れて帳消しになります!それでいい?」

「そ、そんなことでいいんですか?」

「あたしはおっけーだよっ。」

「私にできることですか……?」

「うんっ!フィルカちゃんにしかできないこと!」


 私にしかできないと事。

 戦うことしか能が無い私にできることって何も無い気がする。だけど、これを受け入れないと、私はメルティエさんにお返しができずに終わってしまうことが一つ残ってしまう。お金を返そうとしても受け取ってはくれないだろうし。

 それならば……。


「分かりました。メルティエさんがそれでいいのでしたら。」

「えへっ。やったぁ〜!それでね、実はもう決まってるの。お願い。」

「その、了承した後で申し訳ないのですけど、変なことはやめてくださいね?」

「変な事じゃないよっ!もう。あたしを何だと思ってるのっ!?」

「す、すみません……。」

「それに、簡単なことだから!」

「な、なら、いいのですが……。」

「それでは発表しますっ!」


 もったいぶって作られた間の後で。


「フィルカちゃんには、今日から一緒に、私とお風呂に入ってもらいますっ!!」

「お、おふろ……?」


 なんだかお風呂が分からない人みたいになってしまった。

 お風呂に入る。メルティエさんと二人で。えっ……?


「お~い、フィルカちゃ~ん?聞こえてる~?」

「き、聞こえています。お風呂、入るんですか?私と?」

「うんっ!だめ~?」


 だめ……。ダメではないけど……。

 いや、ダメに決まっている!

 だって、は、恥ずかしい。他人に裸を見られるなんて。きっと頭が沸騰してお風呂どころじゃなくなりそう。

 でも、それがメルティエさんの望むことなら……。

 そもそも、私の裸姿は一番最初、助けてもらった時に見られちゃっているし、今更な気もする。

 ……よくよく考えてみると、それはそれで恥ずかしく思えてきた。


「フィルカちゃん、いいでしょ~?」


 期待で丸く大きくなったメルティエさんの瞳。

 そんな目で見られたら、反論なんて出来るはずも無くて……。


「わ、分かりました……。た、ただ、湯船に入るのは一人ずつで!その、あんまり近いのは、恥ずかしいので……。」

「フィルカちゃんって、ほんと、恥ずかしがり屋さんなんだから。でも、そんなところもかわいいよねっ!」


 メルティエさん握った手を引かれ、前につんのめりながら立ち上がった。


「えへっ。フィルカちゃんとお風呂、楽しみだなぁ。」

「少し手狭になるだけだと思いますけど。」

「一人だとちょっと広いからねっ。そのくらいがちょうどいいよ!」


 そんなものなのかな……。

 でも、メルティエさんが喜んでくれるなら少しくらい恥ずかしいことでも耐えられる。

 ……と思う。たぶん。減るものじゃないから。たぶん。

 それに、恥ずかしいばかりじゃなくて、少し、ほんの少しだけ、楽しみだったり……。

 いやいや、でも恥ずかしい。絶対に無理、とまではいかないけど。


 その日から、お風呂に入ると少し逆上のぼせてしまうようになってしまった。

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