一緒に考えて、一緒に決めて。③
“魔力効率を無視している”と評された魔法陣の式の組み直しを終え、モンスターを倒していく。
新しい式を身体に馴染ませるために何度も使うことが大事、ということなので見つけたら手当たり次第に斬り払っていく。
……ちょっとだけ、前よりも身体が軽くなった気がする、けど……。
「フィルカちゃん!?」
戦い終えると同時に身体がからすっと力が抜けて膝をついてしまった。
そんな私の元へとパタパタと駆けてくるメルティエさん。
「すみません。また……。」
「大丈夫だよ。もうちょっとやり方、変えてみよっか。」
メルティエさんに運ばれていく。
確かに、改善している。小さい群れなら2戦は持つようになった。でも、それだけでは探索のペースはまだまだ最低ラインにも達していない。
最寄りの安全地帯で、メルティエさんの膝の上に座らされると、いつものように、ぎゅっと抱きしめられた。
「フィルカちゃん。もうちょっとだね。」
「そうでしょうか……?」
「うんっ。確実に魔力の持ちは良くなってるから。もう少し。」
メルティエさんは、う〜ん、と少し考えてから。
「フィルカちゃん、もうちょっと肩の力を抜いてみたらどうかな?」
「肩の力を、ですか?」
「うん。魔法はね、式の組み立ても大事なんだけど、使い手の気持ちにも影響されやすいんだよ。力みすぎていたり、怒ったりすると出力は上がるけど魔力が暴発したり、消耗しやすいの。逆に、落ち着いていると制御が上手くできるから。……って、それが一番難しいんだけどね。」
「落ち着いて、ですね。頑張ってみます。」
「頑張ったら力が入っちゃうよっ。ゆる〜っとで大丈夫だからね。」
「はい。」
魔力を分けてもらい終え、探索を再開すると、すぐにブラックヴァインの群れと遭遇した。
数は……5体。大きさは私と同じくらいの背丈。それほどでもない群れで、消耗も比較的少なく倒せそうな相手。
左手を伸ばして魔法陣を展開させる。
武器を握ると、どうしても力が入ってしまう。この刃は、私ではない他の誰か、大切な人を守るためのものだと思うと……。
それでもなんとか意識はして、襲いかかる黒いツタを薙ぎ払っていく。死角から飛びかかってくるブラックヴァインも、メルティエさんが放つ雷撃で足が止まる。おかけで、難なく倒せてはいる。
だけど……。
感じ始める身体の重さ。
この程度の群れの相手なら一度で魔力を使い切らずに済むようになっていたのに。
力を抜くように意識しすぎて、逆に力んでいるのかな……。
だめだ。それだとまた同じ結果に。
焦りが余計な消耗を生み出す。
1体、2体と身体をくるりと回しながら両刃で立て続けに真っ二つにして地面に崩れ落とす。3体目は、真正面から斬り込んでいって、
動き自体は問題ないはずなのに。
どうして……。もっと上手く戦えるようにしないといけないのに……!
次第に思考が戦いから離れ始めてしまっていた。
切り返して次の相手を、と地面を蹴ると既に無数のツタたちが私を待ち受けていた。
まずいっ……!
そう思った時にはすでに多く遅く、ツタの中に飛び込んでしまう。それでも斬り払って力づくで進もうとするけれど、数の暴力になすすべなく、手に、足に、身体にとツタが絡みついてきて。
「くっ……!」
ツタが身体を這い回って、冷たさと不快感に背筋が震える。
このままじゃ……!
「サンダーボルトッ!」
不規則な軌道を描く紫色の雷撃が、ツタの合間から見えた。ブラックヴァインの一体に直撃すると、一瞬で消し炭になってしまった。
手や足を拘束していたツタの半分も灰となって消えてしまったけど、身体に
これならっ!
弱まった拘束を振り切る。
それまで重かった身体が不思議と軽くなった気がした。
足が柔らかくステップを刻める。
力を込めなくても刀身に力が伝わっていく。
身体を翻すのも、羽が生えたように軽快で。
くるりと舞いながら両刃で何度も斬りつけると、黒いツタは細切れになって地面に落ちて行った。
静かに地面に降り立つ。ふぅ、と一息ついてから振り返ってモンスターだったもの見ながら今の感触を確かめるように左手で武器をきゅっと握る。
……もしかして、今の感覚が。
「フィルカちゃん!」
散乱した黒いツタたちが、白い光になって消える中をメルティエさんが駆け寄ってくる。
「フィルカちゃん、大丈夫だった?」
「はい。ありがとうございます。さっきの魔法は……。」
「えへっ。
「おかげで助かりました。それに……。」
「それに?」
「メルティエさんに助けてもらった時に、それまで重かった身体が軽くなったんです。」
「ほんと!?えへっ。あたしが力になれたなら良かったぁ~。でも、どうしてだろ。」
「……きっと、それまでは私が前に出て敵を抑えて、全部倒しきらなきゃって思っていたんです。私一人で、って。でも、メルティエさんに助けてもらって、ようやく、二人で協力して戦っているんだって、心から理解できたみたいで。そうしたら、肩の荷が降りたというか、途端に身体が軽くなって必要のない力が全部抜けたというか。」
私が説明していると、メルティエさんが優しく頭を撫でてくれる。
「め、メルティエさん?」
「あたしもフィルカちゃんのおかげで、攻撃魔法をきちんと使えそうな自信が少しだけついたから。まだまだ、だけどね。でも、ありがとっ。」
「わ、私の方がお礼を言わないといけません。魔法についても教えてもらいましたし、大切なことを気づかせてくれましたから。」
「それなら、お互いがお互いのおかげ。だよねっ?」
にぱっ、と笑ったメルティエさん。
その笑顔を浴びて、心も、すぅっ、と軽くなった気がした。
「お互い様……。そう、ですね。二人で頑張ったおかげ、ですね。」
「うんっ!あ、でもでも、まだまだこれからだからね。しっかりと理解したコツ、自分のものにしていかないと。っと、そのまえに~。」
「前に?」
「魔力補給、しないとだよねっ!」
「えっ。あ、あの、私、まだいけますので……。」
「だめだめっ。上手く行った後が一番危ないんだから、一度、落ち着くためにも。ねっ?」
期待でメルティエさんの黒い瞳に輝きが増す。
「ただ魔力を分けたいだけなんじゃ……?」
「そ、そんなことないよっ!?これは必要な事なんだから!」
「怪しいですね。」
「怪しくないよっ!もうっ!ほら、フィルカちゃんも、素材を拾うの手伝ってねっ!」
私に背を向けて一番遠くに転がった素材を拾いに行くメルティエさん。
その姿に肩を小さくすくめてから、私も地面にしゃがみ込んだ。
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