きっと役に立てない。①
それは、メルティエさんと一緒に探索を始めて1週間が過ぎた頃だった。
今日もそろそろ引き返す時間。そういうのも感覚で分かるようにはなって来ていて、おそらく、メルティエさんから切り出してくるのではないかなって思っていると。
「フィルカちゃん。」
「なんですか?」
「えっとね、今日はもうちょっと探索していかない?」
「えっ。もう少し、ですか……?」
思いもよらない話。だけど、少し冷静になってこの数日間のことを考えてみれば当然、かもしれなかった。
探索が思うようなペースで進んでいない。それはメルティエさんも分かっているはず。
だから、だよね……。
罪悪感の
「私は大丈夫ですが……。」
「あたしも大丈夫。今日はなんか調子がいいから、もうちょっと歩いて回りたいなって。」
私を傷つけないように言葉を選んでくれているのかな……。
でも、屈託のない笑顔に裏側は無いようにも見えて。
「そう、ですか。では、もう少し続けましょう。」
「ありがとっ!それじゃあ、一つ分岐を戻ってから、今度は北側の通路を進んでみよっか!今日はその行き止まりまで進んだら引き返す感じで!」
「はい。」
メルティエさんに並んで、特に変わり映えの無い黒い根の通路を進み、これも変わり映えのしないブラックヴァインの群れを苦も無く撫で切りにしていく。それが終わると、メルティエさんが魔力を分けてくれる。ただ、なんとなくだけど、魔力を分けてくれる時、メルティエさんが少し疲れているようにも見えた。
いつもより長い時間、探索をしているせいかな……。
少し急いだほうがいいかもしれない。
私にできることと言えば、敵を倒す時間を少しでも短縮すること。そうして早く探索を終えられるようにするしかない。他にもいろいろと気になってしまうことはあるけれど、ひとまずそれだけを考えて私のやるべきことをこなしていく。
先へ進みながら、更にいくらかブラックヴァインの群れを倒しきった後。
少し無理をして、ごり押し気味に敵を素早く倒しているせいか、いつもより消耗が激しく感じる。そんな私にそっと肩を貸してくれて、通路の脇でいつものように膝の上に座らせてくれるメルティエさん。
ただ、少し息が荒くも見えた。
「メルティエさん、大丈夫ですか?」
「うん?あたし?」
「はい。少し疲れているみたいなので……。今日はもう引き返しますか?続きはまた明日でも……。」
「大丈夫大丈夫!あたし、これでも魔法使いらしくないって言われるくらいには鍛えてるんだからっ。」
ドヤッ、と自信ありげなメルティエさん。
……本当に大丈夫なのかな。でも、メルティエさんがそう言うのであれば……。
「そうですか……。ただ、あまり無理しないでくださいね?」
「うんっ。心配してくれてありがとっ!」
メルティエさんは私の前に腕を回して、魔力を私へと注ぎ始める。
柔らかさと暖かさと潤いに満たされて蕩けてしまいそうな時間。それを全身に受ける。ひたすら受け取り続けて……。
ややして、物足りなさを感じ始める。段々と、いつも感じるはずの身体が溶けるような心地よさも薄らいでいっているような気がして。暖かさと柔らかさはそのまま。いや、ぐぅっと背中へといつもより重くのしかかってくる。
「メルティエさん?」
答えが無い。いつもならすぐに返ってくるのに。
振り返ると、苦しそうな表情のメルティエさんがそこに居た。
「メルティエさん!!?」
ようやく、う~ん、と小さく
やっぱり、無理をしていたんだ。それでも、メルティエさんは、少しでも探索を先に進めようと思って……。
私を拾ってしまったせいで……。私がついてきてしまったせいで……。
大きく首を横に振って余計な思考を振り落とす。
今はそんなことよりも、早くメルティエさんを安全な所に運ばないと。メルティエさんのポーチから地図を拝借して現在位置と来た道を確認する。そして、私よりもひと回り大きなメルティエさんを背負って。
メルティエさんの分けてくれた魔力のおかげで、私の方は問題なく力も出て、動くことも出来る。
そのまま、来た道を出口の方へと駆けだした。
湿った土に滑りそうになりながら、張り出した根に足を取られそうになりながら、無我夢中で走った。途中で横やりを入れてきたモンスターなんて気にも留めず、ひたすら全力で走って。
途中で魔力が切れたって、絶対に走り切ってやるって。
分岐を曲がり、目の前に現れたモンスターも飛び越えて、ひたすら走り続けてようやく目の前に現れた出口の光。魔力切れよりも、今の方がずっと辛いかもしれない。全力で走るのと、自分の不甲斐なさのせいで息が出来なくて。でも、きっとそれよりも、今のメルティエさんの方に比べたらずっとマシなんだから。
勢いよく迷宮を飛び出す。紺色に染まり始めた空の下に出た。
いきなり飛び出して来た私達に驚く兵士さんたちや、普通の人では到底追いつけない速さで走る私とすれ違って腰を抜かしてしまう町の人。そんな人達に目もくれず、ただひたすら走り続けた。
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