大切な人のために……。②
考えるよりも先に身体が動いていた。
まるで、生まれながらに“そうすること”が私の使命であり役目であるかのように。
身体を前に屈めてメルティエさんの目の前を掠めてから。
「
左手を伸ばすと、私の呼びかけに呼応するかのように、薄いピンク色の光を放つ星型の紋様が現れた。私が力を開放させた時のミニチュア版のようなそれからピンク色の
勢いのままに振り抜く。繊維質な感触が
それと同時に、伸びてきた黒い影は勢いを失って、私達の横をすり抜けながら地面へと落ちていった。
根っこ?いや、ツタ、かな。
地面に転がった黒い影の正体は、周りに張り巡らされた星樹の根に似てはいるものの、よく見ると表面の質感や太ささは全く異なり、斬り落とされた断面は、植物と言うよりも肉のようなピンクとも肌色ともつかない鮮やかな色をしている。
「フィルカちゃん、大丈夫!?」
「はい。問題ないですが――。」
杖を手に持って駆け寄ってきてくれたメルティエさんと話をする暇も与えず、また黒いツタが風を切って迫ってきた。
柄を握った左手から武器に力を込める。すると、白い光の刃が更に光を増した。
今度は、ツタが到達するやりも早く、左腕を横へと振り抜く。すると、刃の先から生まれた弧を描く衝撃波がツタたちを撫で斬りにして地面へと転がしていく。
「おお〜……。フィルカちゃんの魔法は……、身体強化と武器の具現化、かな?」
「なの、でしょうか。」
私にも良く分からない。ただ、身体が変身する前よりもずっと動きやすいという感覚はある。
って、今は私の力について考えている場合じゃない。このまま迎え撃つだけではキリがない。
次はこちらから行かないと。
湿り気の帯びた地面を思いっきり蹴って、通路の奥へと駆け出す。
到底、人のものとは思えない程の速さで間合いを詰める。が、相手もタダでは私を通す気はないみたいで、黒いツタで私を迎え撃ってきた。
正面から打ち付けようとしてくるものは、身体を翻しながら避け、両刃で斬り落とす。
地面を這って捕らえようとしてくるものは、ピンクのパンプスで踏みつけ、先へ進むための踏み台にして。
上から伸びてくるものは、素早く斬り上げて打ち落とす。
ツタを斬り拓いて進んだ先には、赤い光を灯す何かを守るようにツタが絡まったモンスターが、無数のツタを従えて通路を塞ぐように鎮座していた。
赤い何かは、私を
……大きい。だけど、この感じなら私一人でも!
一気に
指一本、ツタ一本も私に触れることができないモンスターが、悔しそうにツタたちを波打たせている。
ここまでは順調。だけど、少し身体が重い。
目が覚めて初めての戦闘だからなのかな……。
だからと言ってここで退くわけにもいかない。こんなのを放っておいたら私達の探索にも、他の人達にも危険だから。
なら、さっさと倒しきるだけ……!
再び地面を蹴ってモンスターの懐に飛び込む。真正面から打ち落とそうと伸ばしてきたツタは、これまでと同じように躱しながら斬り捨てて。
このままモンスターに肉薄できる。そう思った。けれど、相手は私の動きをきちんと読んでいて、身体を翻した先にもツタを用意していた。
避けようにも今の体勢でこの至近距離だと……。
だからと言って、武器で斬り落とすのも間に合わない……!
正面から弾き飛ばされる。そう覚悟した時。
「パラライズボルトッ!」
メルティエさんの声と共に、私の後ろから地を這う雷撃が追い越して、モンスターに直撃した。
途端、ぶるんっ、と大きな身体が震えてツタたちが力なく地面に落ちた。
何にも邪魔されることなく、跳びかかった勢いを使って、両刃剣をモンスターに深く突き刺す。刃先に、ガリッ、と硬い感触。すると、モンスターは耳障りな金切り声をあげる。
これが弱点?
なら、一気に!
武器に力を注ぎ込みながら、力づくで武器を奥へ奥へとねじ込む。メルティエさんの雷撃が効いているようで、のたうち回って抵抗しようにも身体は動かない様子。代わりに、ふるふるとツタを震わせるだけ。
更に一突き。
パリンッ、とガラスが割れたような音がした。
モンスターが断末魔の叫びのような
やがてそれも止み、ツタや大きな本体が力なく地面に崩れ落ちた。
……終わった?
行けるとは思ったけど、大きさの割には案外呆気なかった。
両刃剣をモンスターから引き抜くと、モンスターは青い光の粒となって消えて行った。モンスターが鎮座していた跡には、赤みを帯びた石の欠片と萎びて紐のようになった黒いツタがいくらか転がっている。
まずは1戦、危なげなくやり切れた。
だけど、疲れてしまった。身体も重い。
まだ身体が慣れていないのかな。
それにしても、こんなにすぐ、へばってしまいそうになるなんて……。
「フィルカちゃん!大丈夫!?」
メルティエさんは、目の前に展開させていた紫色に光る円状の模様を、サッ、と消し去って、私のもとへと駆け寄ってくる。
「はい。大丈夫です。」
「すっごぉ~い……。一人であんなに大きなブラックヴァインを倒しちゃうなんて。」
「ぶらっく?」
「うんっ。ブラックヴァイン。この迷宮でよく見かけるモンスターだよっ。普通は膝くらいの大きさなんだけどね。たまに今みたいに大きなのが姿を見せることがあるらしいの。あたしも、あんなに大きいのを実際に見るのは初めてだったんだけどねっ。」
膝のあたりに手をかざして、いつもの大きさというのを示してくれるメルティエさん。
どうやら、初めから当たり、いや、ハズレって言ったほうがいいのかな。見事に引き当ててしまったらしい。
「そうなんですね。……その、さっきはありがとうございました。メルティエさんのおかげで助かりました。」
「えへっ。フィルカちゃんのお役に立ったなら。それよりもっ!フィルカちゃんの魔法?すごいねっ!こ~んな武器を作り出しちゃうなんて!」
「そう、なんでしょうか。」
メルティエさんは
「うんっ。いいなぁ~。あたしもフィルカちゃんみたいなカッコイイ魔法、使えるといいんだけど。」
「メルティエさんの魔法も格好いいと思います。雷撃の魔法、ですよね。」
「うんっ!あたしの得意魔法なのっ!そうだ!今度、フィルカちゃんの魔法と組み合わせてみるのはどうかなっ。」
「そんなことできるんですか?」
「たぶん?でもでも、やってみるのも面白そうかなって。」
にひっ、と無邪気に笑ったメルティエさん。
探索に役立ちそうな気もするから心に留めておいてもいいかな。
「そうですね。」
「えへっ。楽しみっ。っと!一度、分岐に戻りたいんだけど……。少し休んでからにする?」
「いえ。私はまだ大丈夫です。」
分岐へ戻ろうと一歩、踏み出した時だった。
急に世界がぐらつく。
頭の中がぐわんぐわんと鳴って、肩に積もっていた疲労感が一気に身体を押しつぶそうとしてきた。
なんとか地面に立てた両刃剣にしがみついて膝立になり、倒れ込まずには済んだけど、それ以上は身体を動かせなくなってしまって……。
「フィルカちゃん!?やっぱり、どこか怪我が!?」
「す、すみません……。そういうわけでは、ない、ですが……。急に力が……。」
身に覚えのある感覚だった。
それは、私が目覚めた直後、初めて力を解放させた時に倒れてしまった時の、酷い渇きや激しい脱力感。それとそっくりだった。
「わわっ!?え、えっと……。うん、ここに居るとまたモンスターが来ちゃうかもしれないよね。支えてあげるから、頑張って歩いてもらってもいい?」
「は、はい……。」
メルティエさんが肩を貸してくれて、ゆっくりと立ち上がる。
不甲斐なくて、申し訳なくて。
そんな気持ちも一緒に、メルティエさんが持ち上げてくれて、なんとか来た道を戻ることができた。
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