大切な人のために……。③
メルティエさんは、私を奥まった行き止まりまで連れて行き、そっと壁に寄りかからせて座らせてくれた。私の目の前には、かなり前の、だけど何度も使ったような焚火の跡が残っている。
黒き根の道を探索する人の緊急避難場所、ってことなのかな。
その奥に方には、
人っぽい形をしていて、顔も身体もすっぽりと覆うローブを
くらくらする頭で目に映るものについてぼんやりと考えていると、背負っていた杖を降ろしたメルティエさんが私のもとまでやってきて。
「フィルカちゃん、どんな感じ?」
すっかり眉が下がってしまったメルティエさんが私の隣に座った。
「全然力が入らなくて……。ただ、一昨日みたいな感じ、なんですが……。」
「一昨日?」
「はい。その……、私が倒れた時の……。」
説明している途中で思い出しまい、急に恥ずかしくなって、そこで言葉が力尽きてしまった。
うん?っと首を傾げていたメルティエさんが、合点が行ったように目を見開いて。
「あ~っ!なるほどなるほどっ。それじゃ、ちょっと試してみるからっ!」
そう言うと、メルティエさんはあの時みたいに私を膝の上に、ちょこん、と座らせる。腕を前に回して、私を後ろへぎゅっと引き寄せると、ちょうどメルティエさんの柔らかくて大きいものが肩に押し付けられた。
「じゃあ、行くからね~。」
メルティエさんの優しい声と共に、メルティエさんに触れた部分から温かい潤いが身体の中に入ってくる。
満たされていく……。
渇き切った身体がメルティエさんで。少しずつ、酷い頭痛や耳鳴りのようなものは引いて行っているのに、思考力は全く戻ってこない。むしろ、メルティエさんのくれる心地よさに全て溶かされてしまうみたいで。
「フィルカちゃん、もうちょっとで終わるから。我慢してね?」
メルティエさんに耳元で
ちょっと怖い。あまりに心地よすぎて。私とメルティエさんの境界が無くなってしまいそうな気がして。
それとは対照的に、ずっとこうしていたいと思う自分もいて。
私の中で相反する気持ちが競い合って、収拾がつかなくなってしまい、やがてその二つの気持ちすらも全てメルティエさんに溶かされてしまって……。
……もういいや、このままで。
最後に残っていた気力も無くなってしまい、全力でメルティエさんに身体を預けてしまう。
「フィルカちゃん。」
「……なんですか?」
頭の中がとろとろで、自分の名前だと認識するのにも少し遅れてしまった。
「フィルカちゃんって、珍しい魔法陣、使ってるんだね。」
「魔法陣……、ですか?」
「うん。ほら、変身したり、武器を生み出した時に展開させてたやつ。」
あの、光る星型の紋様のことかな?
「あれ、魔法陣って言うんですね。」
「……そっか。それも覚えてないんだね。」
「すみません……。」
「ううん。気にしなくて大丈夫だよ。魔法陣って、普通は円形なんだけど、フィルカちゃんのは……。」
「星型、ですか?」
「星……。」
メルティエさんがぽつりと言った。
「メルティエさん……?」
「……フィルカちゃんの、かわいいなって。あたしもフィルカちゃんとお揃いがいいなぁ。」
「変えたりはできないんですか?」
「うん。魔法の型っていうのがあるらしくて、それにならって魔法陣の形も決まるらしいの。ちなみに、色も違いがあるんだよ。」
「メルティエさんのは紫に見えましたけど。」
「うんっ!雷属性との親和性が高いから紫!フィルカちゃんのはピンクっぽかったよね。」
「そう、ですね。」
「ピンクは……、何の属性なんだろ。見たことも無いし、お師匠様の家にある本にもそういう色のマナについて詳しく書いてある本も無かったし……。でもでも!可愛いから、それもいいなって。」
メルティエさんの顔は見えない。
だけど、にひっ、と無邪気さいっぱいで笑ったのは頭の上から伝わってきた。
「私のこと、分からないことだらけですね……。」
「女の子には秘密がいっぱいあった方が魅力的だって、お師匠様が言ってたから。フィルカちゃんはとっても魅力的な女の子ってことだねっ!」
「そんなことは……。それより、お師匠様って、メルティエさんの……?」
「うんっ。魔法のお師匠様だよっ。一昨日話した探しものって言うのも、お師匠様に頼まれたことなの。お師匠様、もうかなりの年であまり遠出はできないから。」
メルティエさんの声の抑揚が、少しばかり失われる。
「……そうだったんですね。ちなみに、その探し物っていうのは?」
「『星の光枝』っていうものなの。名前の通り光る枝で、星樹の迷宮で採れるって話なんだけど……。全然見当たらなくて。」
「なるほど……。」
「直接探しに行くのは大変だけど、こうしてフィルカちゃんとも冒険ができるんだから、それはそれで良かったのかな、って。」
私と一緒で……。本当に良かった、のかな……。
素直に肯定するには後ろめたさを感じてしまって。
「フィルカちゃん?」
「すみません。たった一戦で魔力切れを起こしてしまって。私、足を引っ張っているんじゃないかなって……。」
「そんなことないよっ!あたしだけだったら、あんな大きいのは相手にできないし。フィルカちゃんが倒してくれたからこうして無傷でいられるんだよ?」
「そう、ですかね?」
「そうですっ!それに、魔力なんて私が分けてあげれば済むんだから。こうやってっ。」
少し緩んでいたメルティエの腕が、また、きゅっと強く締められて、温かい潤いが一斉に押し寄せてくる。
視界がチカチカする。溶けるような気持ちよさに目が開けられなくなってきて、自然と身体がきゅっ、と
「め、める、てぃえさんっ……。しげき、強すぎっ……、なのでっ……。」
そう訴えると、ひゅんっ、と注ぎ込まれる魔力が程よい量まで落ちた。
「えへへ……。ごめんね、ちょっと意地悪しちゃった……。」
「う、うぐっ……。あ、あまり、いっぱいされると、おかしくなっちゃいそうなので……。」
「なるほど。フィルカちゃんを骨抜きにしたい時はこうすればいいんだねっ。」
「め、メルティエさん!!」
「ごめんねごめんね。冗談だからっ。」
軽く笑い飛ばしたメルティエさん。
……本当に冗談なのかな?半分は本気な気がする。
なんとかメルティエさんの魔力の受け渡しに対抗できるものが無いか探してみないと、私だけ弱点を抱えているみたいで不公平。
なんて思いつつも、また少しメルティエさんのくれる心地よさに浸りっぱなしになっていた。
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