少女の目覚め③
「――っていうことがあって、あたしが魔力を分けてあげてたのっ!だから、やましいことは何一つなかったんだよっ!」
私とメルティエさん、そして赤茶色の髪の女の子は同じベッドに座っている。
メルティエさんが、さっきの経緯について話してくれていた。
そう、何もやましいことは無かった。ちょっと夢心地で、ずっとしてもらいたいとかは思ったけど……。でも、やましくはない。うん。たぶん。おそらく。きっと……。
「本当に~?女の子に可愛い服を着せて遊んだ挙句、いちゃいちゃしてたんじゃなくて~?」
「本当だよっ!ねっ?フィルカちゃん。」
「は、はい。本当です。」
「ふぅん。まっ、そういうことにしておこうか~。それにしても、担がれて来た時とはずいぶん、見た目が変わったねぇ。」
「フィルカちゃんの力?らしいの。」
「へぇ。っと、まだ名乗ってなかったよね。ボクはソミア。この宿、『湖畔の夢』の、まぁ、支配人ってところかな。そんな感じで切り盛りしてるんだ。よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「ソミアちゃんは何か知らない?こういう魔法について。」
メルティエさんが聞くと、ソミアさんは、う~ん、と唸って。
「ボクは見たこと無いなぁ。第一、こういうのはメルティエちゃんみたいな魔法使いが専門なんじゃない?」
「それが、あたしも初めて見たんだ~。」
えへへ、と少し困ったような笑みを見せたメルティエさん。
「フィルカちゃんみたいな子がこの町に居るって聞いたことも無い、かな?」
「そうだねぇ。こんな子がいたら、噂になってるはずだから。」
「だよね~。」
ふたり一緒に
「あ、あの。私はそんなに気にしていませんので。思い出せないのはちょっと残念ですけど。」
「でも、これからの生活はどうするつもり?お金とかは持ってないよね?」
ソミアさんが尋ねてくる。
「お金、ですか……?」
「お金については覚えてないみたいだね。」
「ごめんなさい……。」
「あ、いやいや。謝るようなことじゃないから。でも、困ったなぁ。今日は泊って行ってもらって構わないけど、明日からは……。」
「ソミアちゃん、何とかならないかな……?」
「なんとかしてあげたいけど、ボクも生活がかかってるし。」
助けてもらっただけでも、とてもありがたいこと。その厚意にいつまでも甘えるわけにもいかないのも分かっている。だけど、これからどうやって生きて行けばいいのか見当がつかない、というのが正直なところで……。
途方に暮れていると。
「そうだっ!あたしと一緒に『探索』してみない?」
「探索、ですか?」
「うんっ。あたし、この町のすぐ近くにある迷宮でとあるものを探しててね。そのためにこの町までやって来たんだけど。迷宮にはモンスターが居てね、そのモンスターが落とすものとか、迷宮に自生してる素材を集めればお金になるから。あたしと一緒に探索して、生活のための資金を貯めたらどうかなって。そうすれば、フィルカちゃんがどこまで戦えるか分かると思うし、ついででいいから、あたしのおつかい、手伝ってもらえたらなぁって。」
「いい案なんじゃない?何事も試してみないとだしね。」
「ですが……。」
足手まといにならないかな、私……。
「フィルカちゃんが良ければ、だけど~。」
おずおずと尋ねてくるメルティエさん。
……ソミアさんが言ったみたいに、何事も試してみないと分からない。
役に立たないかもしれないけど……、それはその時にまた、考えるしかない、のかな。
「連れて行ってもらってもいいですか?迷宮に。どれだけ役に立つかは分かりませんけれど。」
「ほんと!?ありがとっ!実はね、一人で探索するの、限界かなって思ってたんだよね~。」
えへっ、気恥ずかしそうに笑ったメルティエさん。
私、とても運が良かったのかもしれない。こんなに良い人達に拾ってもらえて。
それなら、私も何かできることでお返しがしたい。しないといけない。
その探索っていうので、私の力が少しでもメルティエさんのためになるなら。
「決まりだね。まぁでも、あんまり無理しないように。っと、フィルカちゃん、お腹空いてない?夕飯にはちょっと早いけど、もう作ってきちゃおうかな。何でもいいよね?」
「ソミアちゃん!あたし、
「メルティエちゃんはそればっかりだねぇ。若いんだから、お肉も食べないと。」
「お肉も美味しいけど、ソミアちゃんの作る煮付けが美味しいんだもん。フィルカちゃんも食べたら絶対、ハマっちゃうんだから。」
メルティエさんがきらきらした笑顔を向けてくる。
よく笑う子だなあ。メルティエさんって。
それに、その一つ一つが眩しく
「お任せします。」
何が好きで何が嫌いだったのかすらも思い出せないから任せるしかない、というのもあった。だけど、メルティエさんが言うんだから、きっとおいしいんだろうって、確信に近いものもあって。
ついさっき出会ったばかりの人に対して、そんな風に感じるのもなんだか不思議だった。
「りょ~かい。じゃあ、ちょっくら行ってきますか。」
ぴょんっ、と元気よく立ち上がったソミアさんが扉の前まで歩いて行き、ピタッと止まって。
「メルティエちゃん、ふたりきりになるからってフィルカちゃんのこと、襲っちゃだめだぞ~?」
「襲わないよっ!!」
頬を膨らませて怒るメルティエさんか逃れるように、そそくさと部屋から退散してしまったソミアさん。
「あはは……。ふたりは仲がいいんですね。」
「ソミアちゃん、とってもいい子だから。きっとそのおかげかな?まだ出会って1週間くらいだけどねっ。」
「メルティエさんもいい人だと思います。見ず知らずの私を拾ってくれたんですから。」
「困ったときはお互い様、だからねっ。ほら!あたしもフィルカちゃんに探索、手伝ってもらうんだし。早速明日から~、と言いたいところだけど、探索をするには手続きが要るし、ついでに町の人でフィルカちゃんのこと、知っている人がいないか聞いて回った方がいいかなって思うの。どうかな?」
「そうですね。町のことも知りたいですし、お願いしてもいいですか?」
「おっけ~っ!えへっ。楽しみだなぁ。」
ベッドから投げ出した足をぶらぶらと大きく前後に揺らすメルティエさん。
そんな彼女の姿を見て、私も明日が楽しみになっていた。
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