第28話 side桜餅 契約内容
下都賀は、契約書の小さな文字に虫眼鏡をあてる。
「だいたい、美奈子さんを信じてる人は彼女の説明だけで納得するのよ。で、彼女はこの契約書を詳しく読ませてくれないの」
「それって、詐欺師の手口じゃないか」
「そう。美奈子さんは、詐欺師よ。でもね、最近ようやくわかったのは彼女は蔵前を手放したくないからそうしてるって事」
「蔵前に差し出すように仕向けてるって事か?」
「新しい人は、みんなそうよ。私だって……」
下都賀は、言葉を濁す。
「無理に言わなくていいから。蔵前からだいたいのルールは聞いてる」
「そう。彼はね、初ものが好きなの。誰の手垢もついていない一番目は自分が食べたいの。新しい
「いや。下都賀が悪い訳じゃないよ。悪いのは、蔵前だ」
「望んできてる人達もいるから仕方ないわよね。だけど、私みたいに望んでない人だっている。私は、美奈子さんにお願いされて行っただけだから……」
「辛い話をしてくれてありがとう。下都賀」
「別に、もう辛くなんかないわよ。じゃあ、説明するわね」
眉を寄せて話す仕草に下都賀の苦痛は、まだ続いているのがわかった。
だけど、中途半端に助ける事は出来ない。
「この契約書の最後に小さな文字でこう書かれていたの。
セカンドパートナーを見つけられなかった、もしくは、選ばれなかった場合。金額は異なりますが、50万円~買われる事になります。
注(パーティーに参加を二回以上している男性に選ばれた場合、もしくは選んだ場合は必ず買われますのでご了承願います)※
その事に同意の上でサインをお願いします」
「こんな小さな文字……。普通に読んでも見落とす」
「そう。そこが、蔵前と美奈子さんの汚いやり方なのよ。現に私もサインをしたくせにって言われたもの」
「じゃあ、どうすればいい?相手が二回目かどうかなんて確かめようがないだろ?」
「そう。それがここに書いてある。(このパーティーの参加回数を聞いた場合、故意でも不注意であっても失格になります。失格とは、男性であっても女性であっても売られる事になります)」
「男も売られるのか?」
「そう。そう言うのが好きな人もいるからね」
「じゃあ、どうやって助けられる?」
下都賀の読ませてくれる契約書には、隙がない。
俺が凛々子さんを選べばいいだけか?
「セカンドパートナーの契約は、双方に同意しなければ出来ないの。現に私は選ばれたけれど、セカンドパートナー契約を結ばなかった」
「それじゃあ、助けたい彼女が俺を選ばなかったら?」
「彼女は、売られる」
「そんな……」
ガッカリした俺の手を下都賀が握りしめてくれる。
「パーティー時間は二時間。その間に彼女を口説きおとすしかないじゃない」
「無理だよ。自信ない」
「諦めちゃ駄目よ。パーティー会場のテラス席に彼女をどうにか連れていけない?」
「テラス席?どうして」
「ここだけは、監視カメラが届いてないのよ。全体を見渡せても、音声がハッキリ聞こえないと聞いたの」
下都賀は、紙にテラス席を描く。
出口に近い場所にあるテラス席だけが、どうやら監視の目から免れているようだ。
「話すならここで話せと?」
「そう。自分を信じて選んで欲しいって頼むのよ」
「だけど、彼女が売られると知らなかったら?」
「それはないわ。売られるのは、何度も参加してる人から聞かされるから」
「下都賀も聞いたのか?」
「私の時は、二回目の参加者はいなかったの。みんな一回目だったから、何も知らなかった。だから、あの時セカンドパートナー契約をしておけばよかったんだと思う。そしたら、こんな目に合わなくてすんだんだから……。人間って、つくづく自分の選択で生きてるんだなって身に染みて思った」
下都賀の言葉に俺は何もしてあげれなかった事を悔やんでしまう。
「まあ、終わった話よ。それで、参加者から聞くのはね。二回目以降の参加者の中から一人選ばれるの。私も一度その役を引き受けた事がある」
「初参加者に売られるのを伝えるって事?」
「そう。報酬は、10万円。だから、やらない理由なんてないのよ」
「落ち込んだ参加者にこの契約書が見せられるのか?」
「そう。私は、売られてから見せられたけどね」
「売られてからなら、蔵前とはそうならなくてもよかったんじゃ?」
「一番最初に私を買ったのがあいつよ」
下都賀の言葉にあのBlu-rayは、蔵前と下都賀だったのがわかった。
映像を上手に加工していたんだ。
「助けたいなら、開始五分でテラス席に連れて行って説得するの。今はもうほとんどの人が初参加ではないはずだから。それに、女性もお金目当てに参加してる人が多いからね」
「わかった。だけど、俺が初参加だって事はわからないんだよな」
「だから、とにかく説得するの。セカンドパートナー契約をして欲しいって。お願いをするのもバレたらアウト。だから、絶対にテラス席に連れて行くの。わかった?」
「わかった。やってみるよ」
下都賀は、俺の手を握りしめる。
「桜木なら出来るよ!私、信じてる。それに、また会えてよかった」
「ありがとう。それと……助けられなくて、ごめん」
「何で桜木が謝るのよ。私は、大丈夫だから心配しないで……」
「わかった……」
「明日なんでしょ?」
「うん」
「蔵前に行くって話した方がいいんじゃない?」
「連絡するよ」
「連絡じゃ駄目だよ。お金を持って行かないと」
「あっ、そうだった」
「すぐに行って……私も出掛けなきゃいけないから」
「下都賀、本当にありがとう」
「ううん。また、お茶でもしよう」
「そうだな」
俺は、下都賀の家を出てATMに向かう。
明日は、何としても凛々子さんに俺を選ばせなきゃ……。
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