第27話 sideりりまる いくら?

昨日から、ずっと同じ事を考えている。

昨日、桜木君に会った。

優ちゃんの友達だと言えばよかったのに、私は美奈子に嘘をついてしまった。



「凛々子、早いね。体調、大丈夫なの?」

「おはよう」



ご飯茶碗を持った優ちゃんの手を止める。


「先に、シャワー入ってきたら?私が、朝御飯するから」

「ありがとう。じゃあ、そうさせてもらうよ」


ニコニコ嬉しそうに笑いながら、優ちゃんは洗面所に向かって行く。

私は、朝御飯の用意を始める。

冷凍してある鮭をお皿にのせてレンジで解凍させながら……。

昨夜の残りの味噌汁を取り出して、火にかける。

いつも夜に味噌汁を多めに作ってしまうから余った分を鍋ごと冷蔵庫に入れるのだ。

卵を3つ取り出して、玉子焼きをさっと作る。

作り終わるまでに、鮭の解凍が終わったので魚焼きグリルで焼いた。

朝御飯の準備のお陰で、桜木君の事を考えずにすんだ。


もしかして、珍しく朝起きれたのは、桜木君のお陰なのかな?


「久しぶりに朝御飯の匂いがする」

「用意出来たから座って」

「凛々子は?」

「私は、漢方飲まなきゃ」

「そうだったね。体調は、違う?」

「あんまり、変わりないかも」


私は、小さなお盆に朝食セットを用意して優ちゃんに渡した。


「いただきます」

「はい」


優ちゃんは幸せそうに朝御飯を食べ始め、私は漢方の為にお湯を沸かす。


「あっ!今日、晩御飯いらないから」

「仕事?」

「うん。明日までに終わらせたいものがあってね」

「そう、わかった」


優ちゃんの帰宅が今日遅いと知っただけで、少し安心していた。

もし、セカンドパートナーなんてものが出来たり何かしたら優ちゃんの顔をまともに見れるかどうかわからなかったからだ。



「ごちそうさま。もしかしたら、帰宅夜中かも知れないから先に寝てて。体の事も考えてさ。ご馳走さま」

「うん。無理はしないでね」

「ありがとう。じゃあ、行ってきます」

「待って。送るから」


久しぶりに玄関まで、優ちゃんを見送れて嬉しかった。


「さぁーー。用意して行こう」


やっぱり、私にはセカンドパートナーなんてものは必要ない。

パーティーが終わったら、ちゃんと美奈子に言って断ろう。

パーティーに行く準備をして、すぐに家を出る。

昨日書いた契約書の中身をちゃんと読みたかったと思いながら、会場についた。


会場につくと私を入れて7人の女の人が待っていた。


「あなた、初めてでしょ?」

「えっ?」

「大丈夫よ。私には話しても」


50代ぐらいの女の人が突然話しかけてきた。

少し戸惑いながら頷く。


「やっぱりね。見ない顔だもの。で、あなたはいくら欲しくてきたの?」

「いくら……?」

「やだわーー。借金とか旦那がお金をくれないとかみんな理由はあるでしょ?私はね、一回一万もらえたらいい方なのよ。歳がね……。だけど、たまに熟女好きに当たるからそしたら5万はいけるのよ」

「あの……それって」


私の表情を見て女の人は固まる。


「あら、ごめんなさい。ここは、表向きはセカンドパートナーって話してるけど、本当は売春斡旋する所なのよ。あなた以外みんな二回以上参加してるわ。体売ってお金になるなんて、この歳になったら安いものだもの」



女の人は、嬉しそうに笑いながら誰かを見つけたようで罰の悪い顔をして私から離れて行く。


売春を斡旋してる?体を売る?

私は、何も困っていない。

帰らなくちゃ。

立ち上がった私の前に美奈子がやってきた。


「りりちゃん、何処に行くの?」

「用事を思い出したの。帰らなくちゃ」


私を見て美奈子は「チッ」と舌打ちをする。


「また、小山おやまのババアがしょうもない事を先に言ったのね」

「美奈子?」

「あっ。ごめんね。でもね、りりちゃん。契約交わしたわけだから逃げれないわよ。逃げるなら、調べて旦那さんに連絡するわ」

「ちょっと待って。売春を斡旋してるって?」

「そうよ。だけど、いいじゃない。歳をとってるのに女として見られて」

「だけど、私はそんな契約はしていない!!」


私の言葉に美奈子は、昨日の紙を見せる。


「老眼には、ルーペが必要よね」


美奈子が虫眼鏡をあてて、読ませた文字に驚いた。


※(セカンドパートナーを見つけられなかった、もしくは、選ばれなかった場合。金額は異なりますが、50万円~買われる事になります。

注(パーティーに参加を二回以上している男性に選ばれた場合、もしくは選んだ場合は必ず買われますのでご了承願います)※

その事に同意の上でサインをお願いします)


最後の文字をちゃんと読んでいなかった。

私は、ガクッと肩を落とす。

昔、父に口を酸っぱくして言われていた。

安易に何でも契約してはならないと……。



「りりちゃん。わかってくれたならいいのよ。もしも、売られたくないならパーティーに初参加の男を探しなさい。ただし、参加回数を口に出せば即失格で売られるけどね。アハハハハ」


美奈子の笑い声が入り口に響き渡る。

何とかしなきゃ。

私は、売られる。

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