第29話 sideりりまる 何で?

「それじゃあ、皆さん。頑張って下さいね」


何事もなかったように美奈子は笑って去って行く。



「いい人見つかるといいわね」

「はい」


参加する人の中から、初めてを探すなんて出来るわけない。



「今日は、皆さん素敵な時間を楽しんで下さい」


男がそう言うと、女性達は気になる人の元へ行く。


「あの……。お話いいですか?」

「あっ、はい」

「何飲みますか?」

「えっと……」

「シャンパンでいいですよね」


甘いマスクの男の人が飲み物を取りに行ってくれる。


「ちょっと来て」

「な、何で?ここに……」

「話しは後でするから……いいから来て」


どこにいたのだろうか?

突然、私の腕を掴んできたのは桜木君だった。


「おい!お前。何してんだよ!俺が、今話してんだよ」

「関係ない。俺は、この人に大事な話があるんだよ」

「はあ?ふざけんなよ」


桜木君は、戻ってきた男と言い合いになる。

ここにいるって事は、慣れてるって事?

桜木君も、セカンドパートナーが欲しいって事だよね。


「いいから行こう。ほら……」

「やめて、離して」

「嫌がってんだろ。離せよ」

「待って、大事な話があるんだ」

「私は、ないから……」

「じゃあ、向こうに座りますか?」

「あっ、はい」



桜木君に冷たく言って歩き出す。

あの日の気持ちを嬉しいと思ったのに……。


桜木君も他の男と変わらないんだ。

ただ、そういう事が出来ればいいんだね。


「俺、隆也って言います」

「あっ、私は凛々子です」

「素敵な名前ですね。これどうぞ」

「ありがとうございます」

「でも、嬉しいな。凛々子さんみたいな綺麗な人と出会えるなんて」「綺麗だなんて……。そんな事ないですよ」



下心しかない言葉。

何の喜びも感じない。



「俺、絶対凛々子さん選ぶから!凛々子さんも俺を選んで下さいね」

「えっ……。それは……」

「まあ、話してからですよね」



隆也さんは、隣に座ると私の腰に手を回してくる。



「あの……。それは……」

「いいじゃないですか別に……。皆してますよ!ほら、見て」



周囲を見渡すと確かに皆している。いったい、このパーティーは何なのだろう?



「あの人何か大胆じゃない?見て」



隆也さんが指差した方にいたのは、桜木君だった。

女の人は、大胆にも桜木君の太ももに触れている。



「ご、ごめんなさい。ちょっとトイレに……」

「わかった。待ってるから」

「はい」


桜木君を見ていられなくなった私は立ち上がりトイレへと向かう。



「待って……。いいから、話そう」



いつの間にかやってきた桜木君が腕を引っ張る。



「話なら、ここでして」

「出来ない。だから、ついてきて」

「いや……」

「どうして?」

「桜木君も……。桜木君も他の参加者と同じでしょ?」

「えっ……」



どうして?

そんなに悲しい表情をするの?



「したいなら、そう言えばよかったじゃない」


私の言葉に桜木君は怒ったのか腕を引っ張る。


「ちょっと離して」

「嫌だ。離さない」



桜木君に強く引っ張られて、中庭に出されてしまった。



「いい加減にしてよ」


腕を振りほどこうとした瞬間。

引き寄せられる。



「な、なに……」

「凛々子さん。俺を信じて」



耳元で囁いた言葉に驚いて、言葉が出てこない。



「お願いだから、俺を選んで」


桜木君は、私から離れる。


「どういう意味?」

「詳しく説明は出来ない。だけど、俺は凛々子さんを好きだから……。だから……。戻ろう」



だから……の先の言葉が何なのかわからない。

桜木君は、私を置いて会場に戻ってしまう。


何が言いたいの?

信じてとか選んでとか……。

桜木君は、初めて参加した人なの?


わからない。

どうしたらいいかわからない。



「凛々子さん。大丈夫?さっきのやつに何かされなかった?」

「えっ、あっ、大丈夫です」

「この場所にいすぎたら怒られちゃうよ。戻ろう」

「えっ?そうなんですか……」

「あっ、うん。俺の知り合いが怒られたって」


慌てる隆也さんの言葉を聞いて、初参加者ではないのがわかった。

この場所に長時間いられたら主催者が困る何かがあるんだ。


「行こうか?」

「うん」


歩きながらキョロキョロと見回す。

この場所は、会場からよく見えないからよくないのだろうか?

見えなければ話してる内容が聞こえないから……。


お酒が入っているからだろうか?

さっきより参加者達の密着が高くなってる。


桜木君を見つけると困った顔をしながら数人の女の人から逃げていた。


「俺達もくっつきながらお酒飲もうか?」

「わ、私はいいです」

「えーー、何で?つまんないじゃん」

「それでもいいです」

「チッ……。つまんない女だな!だったら、参加してんなよ」


隆也さんは、イライラしたのかいなくなる。

いなくなってくれてホッとした。

他の人みたいにイチャイチャなんかしたくない。

シャンパンを飲みながら、桜木君を見つめる。



信じてとかいいながら、楽しそうにやっていた。

やっぱり、桜木君もここにいる参加者達と同じ。

したいだけなんだ。


「いやっ……」

「綺麗ですね。ずっと話したかったんですよーー」



メガネをかけた小太りのおじさんに急に腰を抱かれて声が出てしまった。



「ちょっと、やめて下さい」

「やめて下さいって別に腰に手を回してるだけだろ?尻を触ったわけじゃないんだからさ」

「そんな問題じゃないです」



強い口調で言っても、ニタニタと笑いながら腰に回した手を強く自分の元に引き寄せる。


「本当にやめて下さい」

「その気で参加してるくせに偉そうに言うなよ」


最悪。

この会場では、誰も守ってくれない。

周りの人達も触らせるぐらいどうって事ない感じに見える。


帰りたい。

こんな場所にいたくない。



「ワイン飲むでしょ?」


ご丁寧に店員さんがワインをトレイにのせて現れた。

この人がいなくなっても、また次がやってくる。

私は、ここから逃れる事は出来ないんだ。

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