第15話 side桜餅 商品を置く条件
「三上紫乃とは、今も繋がってるんだ。桜木の奥さんの
「お前に何でもバレてるなんて最悪だな」
「こうなるなら、松永みたいにこの街を出てればよかったって思ってるか?」
蔵前の言葉に俺は黙る。
「無理だよなーー。桜木は、あの花岡ってパイセンに憧れてるからなーー。まあ、花岡パイセンの事は桜木の方が詳しいから安心しろよ。俺は、同級生の事しか知らないからな」
蔵前は、黄色いシャッターの前で足を止める。
真空が亡くなって自暴自棄になったあっ君に一緒に街を離れないかと誘われたけれど、俺は断った。
理由は、単純だった。
俺は、花岡先輩の近くにいたかったから……。
花岡先輩が、街を出たなら俺だって出ていた。
だけど、花岡先輩は街を残し再生するプロジェクトを行っている企業に就職したのだ。
花岡先輩が、この街から離れない事を知った俺はあっ君の誘いを断った。
今、思えば一緒に出て行っておけばよかったと思う。
そしたら、
蔵前は、シャッターをガラガラと開ける。
いったい、何屋さんなんだ?
「真空の保険金の額は、一億だった。真空の両親が、掛けていたんだ。で、最後まで看取らなかった俺がもらったのは三千万。松永は、一千万もらったって話。それは、真空の最後の遺言だったみたいだ」
「だから、何だよ」
「ハハハ、怒んなって!それで、この店を始めたんだよ」
中に入っても、店のコンセプトがよくわからなかった。
「この辺りのスーパーは、潰れてったから。スーパーやってるの」
「スーパー?これが?」
「そう。生物は冷凍だけどな」
店の一角には、大きな冷凍庫が2台並んでいる。
菓子パンやお菓子もあるけど、スーパーと言うよりはコンビニに近い感覚だ。
「それ、置いてやるよ!満月チョコレートだろ?ここらで、置くやつ少ないけど……。さざ波に置けたら、売り上げは五割増しって言われてるだろ?」
この街の事を何でも知っているだけあって、蔵前は俺の会社の事情もわかっていた。
俺の会社は、小さなお菓子工場だ。
昔は、駄菓子とかも製造指定らしいけど……。
今は、チョコレート菓子を主に作っている。
チョコレート菓子は、大手メーカーに比べると価格が数百円高い。
だから、なかなか売れないのだ。
ただ、県外にある高級スーパーには置いてもらっていて……。
俺の会社は、それでやっているようなものだった。
それでいいと思っていたんだけど、5年前初代社長が亡くなり……。
その遺言に、この街で満月チョコレートを販売して欲しいと書かれていたという。
そして、5年前からこの街で営業をつづけている。
けれど、さざ波商店街にある店は全滅だった。
この街の中心にあるだけに、さざ波商店街に置ければ売り上げは五割増しだと言われている。
蔵前は、嫌いだけど……。
喉から手が出る場所ではある。
「考えるまでもないんじゃないか?桜木」
「そうだな……お願いします」
まさか、人生でこいつに頭を下げる日が来るとは思わなかった。
「無理だよ。そんなんじゃ」
「それなら、どうすればいいんだよ」
「落ち込むなって桜木。昔から、桜木は面だけはマジでいいんだからさ……。だから、協力してよ」
「協力って何だよ」
「明日の集まりに参加してくれるだけでいいからさーー」
「集まり?商店街の集まりとか何かか?」
俺の言葉に蔵前は、クスクスと笑い出す。
「そんなんに参加してどうするんだよ。違う、違う」
「だったら、何だよ」
「セカンドパートナーの集まり」
セカンドパートナーの集まり?
何だそれ……?
そもそも、セカンドパートナーってのが意味がわからない。
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