第14話 side桜餅 蔵前健吾
「相変わらず、桜木は嫌な顔するね。そんなんで、営業が勤まるのか?」
「悪かったな。お前には、特別だよ」
「やっぱり、俺の事怒ってるんだ?」
「あっ君が、この街を離れたのも。
「桜木の正義感は相変わらずだなーー。松波は自分で出てったんだろ?俺のせいにするなよ」
蔵前健吾は、俺の小学校からの幼馴染みである
彼女の名前は、
「真空ちゃんだって、お前と結婚しなかったら……」
「死ななかったって言いたいの?松波と結婚したからって死なない保証はないでしょ?」
「少なくともあっ君となら寿命を全うできたはずだ」
「アハハハハ。俺が浮気したからって言いたいの?」
「当たり前だ。癌だったんだぞ!そんな人にお前は……」
口に出すのもおぞましくて、俺は蔵前を睨み付ける。
「しゃーーないだろ?俺、依存症なんだから……」
「知らねーーよ。そんなの。もう、次に行くから」
「おいおい、待て待て。ここで会ったのも何かの縁だろ?話し聞けよ」
「お前と話す事なんてないから」
俺は、蔵前が大嫌いだった。
高3の夏。
あっ君から、真空ちゃんを奪い。
一年後に結婚した。
真空ちゃんは、20歳の冬に癌になったのだ。
俺は、蔵前の度重なる浮気のせいでストレスが溜まったのだと思っている。
真空ちゃんが癌になって入院してるのを聞いてからあっ君は、時間が許す限りお見舞いに行き続けた。
それなのに、蔵前は……。
闘病中の真空ちゃんに向かって
「癌でもやれるんだよな?ちゃんと。しないとか俺無理だから」と言ったのだ。
あっ君は、病室を出て蔵前を殴った。
蔵前は、出来ないならいらないからお前にやるわと笑ったのだ。
真空ちゃんを看取ったのは、あっ君と真空ちゃんの家族だった。
真空ちゃんの死因は、自殺。
余命半年と言われていたのにも関わらず。
病院の窓から飛び降りたのだ。
飛び降りたけれど、真空ちゃんは暫くは生きていた。
そのお見舞いにも来なかった蔵前は、葬式でだけ白々しく泣いていたのだ。
「そう言うなって桜木。これ大変だよな?置いてやろうか?俺の店に」
「必要ないよ。じゃあ」
俺は、蔵前の手を紙袋から払いのけて歩き出す。
「お前んとこ、レスなんだって?」
「はあ?」
俺は、蔵前の言葉に足を止めた。
どうして、こいつが俺と藍子の事を知ってるんだ?
俺だって久しぶりにこいつに会ったし、藍子はこいつと繋がっていない。
「俺ね。何でも知ってるんだよ」
「意味わかんない事言うなよ」
蔵前は、気持ち悪い顔でニコニコ笑う。
「まあ、単純に俺はバツが10回ついてるから!」
「バツが10回って誇れるような事じゃないだろ」
「確かにね。だけど、全員と綺麗に別れられてるのは誇れる事だよ」
「そうかよ!俺は、忙しいから」
「8番目の嫁の名前は、三上紫乃。聞き覚えないかな?桜木の奥さんの叔父さんと駆け落ちしたらしいんだけど……」
蔵前の言葉に足を止めた。
今日に限って、この名前を二回も聞くとは思わなかった。
それに、藍子が三上紫乃に言ったのか?
俺達がレスだって?
「気になるなら、俺の話し聞くか?」
「わかった。聞くよ」
「じゃあ、ついてこいよ」
蔵前は、嬉しそうに笑いながら俺を案内するように歩いて行く。
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