第12話 side桜餅 藍子への気持ち
睡眠の質が悪くなるからと俺と藍子は、4年前から別々で寝ている。
寝室には、シングルベッドが並んでいた。
ベッドに横になって藍子を見る。
俺は、藍子を嫌いになったわけじゃない。
ただ、好きな人が出来てしまっただけだ。
俺は、一生凛々子さんに気持ちを伝えるつもりはなかったし……。
藍子とも離婚する気もなかった。
なのに、何で。
凛々子さんに気持ちを打ち明けてしまったんだろう?
不倫する勇気なんてないくせに。
俺は、隣に眠ってる藍子を見つめる。
ごめん……藍子。
でも、俺。
凛々子さんが好きなんだ。
この……一年間。
俺は、藍子を抱けなかった。
「このまま、私達レスになる?」
藍子の言葉に何も答えられなかった。
凛々子さんを好きな気持ちを抱えたまま藍子を抱いたりしたら……。
藍子を凛々子さんの代わりにしてしまってるようで、嫌だったんだ。
「藍子……待っててくれ。俺、ちゃんと忘れるから」
小さな声で、ポツリと呟いて目を閉じる。
眠ってる藍子に聞こえない事なんてわかっている。
それでも、口に出したかった。
出さなきゃ……。
決意が揺らぎそうだから……。
俺は、ゆっくりと目を閉じる。
今までと違って、モヤモヤしていないのは気持ちを打ち明けられたからだ。
さっきのファミレスで楽しくお喋りした事だけで充分。
それ以上に望むものなどない。
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「ファーー」
いつもと違って目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
向こうのベッドの藍子は、もういない。
俺が起きてくる前に、きちんと朝食を用意してくれたりするって考えたらすごい事だよな。
藍子は、どうやって起きてるんだろう。
目覚ましをかけている気はしないんだけどな……。
ベッドから降りてキッチンへと向かう。
「あれ、目覚まし鳴ってないよね?」
「今日は、何か早く目が覚めちゃったんだ。藍子は、凄いな。目覚ましかけないで起きるなんて……」
「目覚ましかけてないわけないじゃん。ちゃんと小さい音でかけてるよ」
「へぇーー。そうなんだ。全然、気づかなかった」
「逆に気づかないって凄いね。あっ、今日。もしかしたら、帰って来れないかも。明日も……」
「何で?」
「お母さんが、お父さんと喧嘩して家を出るって言い出したみたいでね。それで、ハチが体調崩しちゃったみたいで。仲直りもいまだにしてないみたいなの」
「って事は、実家に帰るんだよな」
「そう。陸斗、ごめんね。二人が仲直りするまでいたいんだけど……。仕事休むの4日が限界だったから。遅くても、3日後には帰ってくるから」
朝御飯をテーブルの上に並べてくれる。
それが終わるとバタバタと用意をしている。
「寒いから、暖かくしなきゃ風邪引くよ。こっちと温度違うだろうから」
「わかってる。わかってる」
藍子の実家は、北陸の方にある。
午前中に新幹線で行かないと1日の半分を移動に使ってしまう事があった。
「陸斗、ごめんね。晩御飯は、適当にあるものか外で食べてきてくれる?」
「うん。わかった」
「じゃあ、もう行かなきゃ!お昼までにつかなくちゃ、お父さんと話せないから……」
「わかった。気をつけてな」
藍子は、バタバタっ行ってしまった。
俺は、歯磨きをして顔を洗ってから、藍子が用意してくれた朝御飯を食べる。
歳を取っても喧嘩するんだなーー。
藍子の両親は、よく喧嘩をする。
若い時から変わらないらしい。
喧嘩の回数は昔よりは減ったけど、今の方が重症だと藍子は言っていた。
どうやら、お互いに貯金があるから母親はすぐに離婚して出て行くと言うらしい。
それを毎回止めに行くのが藍子の役目になっている。
「3日は、帰って来ないかもな」
俺は、スマホを見つめる。
凛々子さんから、メッセージはきていなかった。
やっぱり、堅苦しかったのがわかる。
他人行儀な文章だったよな。
たかが【桜木君】って言われたぐらいで、どうかしてたよな俺。
このまま、連絡も取らなくなって、会わなくなれば……忘れられるな。
「ご馳走さまでした」
シンクにお皿を置いてから、俺はスーツに着替えに行く。
今日も、また仕事だ。
昨日の酒が完全に抜けてなくて頭がガンガンする。
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