第11話 side桜餅 最低最悪な俺。

フライドポテトを食べながらも、パフェを食べながらも、凛々子さんが時折ボッーとしていた。

わかってる。

花岡先輩に敵わない事ぐらい。

それでも、凛々子さんを愛しく感じる。

今すぐ抱き締めてあげたい。

その手を握りしめたい。

そんな事ばかり考えてしまう。


お会計をして、外に出て……。

凛々子さんが、花岡先輩の元に帰るってわかった瞬間、悲しくなってしまった。

胸が締め付けられて苦しくて、どうにも出来ない気持ちから、つい手を握りしめてしまう。

凛々子さんが、泣いてしまった。


最低。

最悪。

俺は、何て酷い事をしてしまったんだ。

急に、押し寄せてきた後悔。

凛々子さんは、走って行ってしまった。


「桜木君……」

そう呼ばれた事がショックだ。

桜餅って言われて嬉しかった。

りりまるって呼べて嬉しかった。


なのに……。


終わった。


駅前につくと人なんてほとんどいなかった。

藍子が起きてるかは、わからない。

俺は、定期を取り出して改札を抜ける。

ポケットにさっき凛々子さんに渡してもらった家の鍵が入っていた。

もう二度と会えない。


あんな顔させといて……。

【また、会いたい】なんてメールを送れるわけがなかった。



やってきた電車に乗り込んで、すぐにポケットからスマホを取り出した。

終電に乗ってる客は、まばらだ。

見るからに、みんな酔っている。

俺と同じだ。


凛々子さんのメール宛に

【今日はすみませんでした。鍵を届けていただいた事、感謝しています。花岡先輩に宜しくお伝え下さい】と送信した。


さっきまでの会話と違って、他人行儀な自分に笑いそうになる。

頑張って忘れればいい。

凛々子さんだって、それを望んでる。



電車に乗って二駅。

最寄りの駅について降りる。

さっきした自分の行動に吐き気がした。

いや、これは飲み過ぎか……。

自分の家の駅に着いたから、一気に酔いが回ったのを感じる。



「うっ……。気持ち悪い」


俺は、ふらふらと改札を抜ける。

いつもよりも、今日は駅から歩いて10分のマンションを借りてよかったと思った。

家に着いて、鍵を開ける。

真っ暗なのは、当たり前か……。


玄関で靴を脱いで、洗面所に向かう。

スーツを脱いでハンガーにかける。

洗面所の引き出しから、パジャマを取り出す。

帰宅するといつも、顔を洗い、頭と足を拭いてからパジャマを着る。

飲んで帰宅した日は、夜シャワーに入らないでと藍子にお願いされている。

半年前に藍子の親戚のおじさんが、酔ってお風呂に入り、石鹸で滑って転んで入院したからだ。

その話を聞いた俺も怖くなって風呂に入るのをやめた。

顔を洗って、歯を磨く。


鏡に映った自分を見つめる。

凛々子さんと一緒にいた時間は、高校生の頃みたいで楽しかった。

高校の頃に、あんまりいい想い出はないんだけど……。


歯を磨き終えた俺は、歯ブラシを棚にしまった。

凛々子さんとは、もう二度と会う事はないんだから。

忘れよう。


俺は、スーツを持って寝室に向かう。

寝室には、大きなクローゼットがあってそこにいつもスーツをかける。

ポケットから、スマホを取り出してベッドに行く。

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