第10話 sideりりまる 一生の友達と言った理由

「ぼんやりして、大丈夫?」

「あっ。ごめんね」



ミルクティーをかき混ぜながら私は、美奈子との事を思い出していた。

約束の日は、明後日で……。

思い出したのが、ついさっきで。

酔っている優ちゃんと楽しくお話する桜木君を見て……。

私も桜木君みたいな友達が欲しいと思った。

それで、桜木君がトイレに行ってる間に鍵をわざと盗んだのだ。



「あのさ、桜餅君……」

「君はいらないよ」

「あっ、桜餅」

「何?」

「桜餅は、不倫したいと思ったりする?」

「ふ、不倫?!ま、まさか、そんな事思ったりしないよ。あっ、でも、俺はりりまるに告白したわけで。下心が普通にあったわけだよな」


桜木君は、あたふたと焦っている。



「お待たせしました。チョコレートパフェになります」

「ありがとう」

「ご注文の商品は以上になります。ごゆっくりお過ごし下さい」



私は、店員さんに軽くお辞儀をする。



「そんな深刻に考えないで」



まだ、テンパッてる桜木君に笑いかけた。



「ごめん。何て言うか……。不倫するとかまで考えてなくて告白したのかって思ったら。俺って我ながら馬鹿だなって思っちゃって」

「じゃあ、私と体の関係は持ちたくなかったんだ?」

「えっ……あっ!!そういうのは……」

「目が泳いでるよ!桜餅」

「あっ、すみません。持ちたいです。そりゃあ、男だから当たり前っていうか……。実際、したいですよ。今だって、普通に……。でも、先輩を裏切りたくはなくて。だから、二度と家には行かないつもりで……」



桜木君は、困ったように眉を寄せたり頭を掻きながら話をしていた。

【素直でいいやつ】

優ちゃんが言った言葉の意味がわかる。



「もういいよ。好きだって言ってくれて嬉しかった。桜餅を初めて見た時に仲良くなりたいって思ったから」

「ほ、本当に言ってる?」

「うん。本当だよ」

「それは、嬉しい。あのさ、りりまる……さん」

「さんはいらないよ」

「だよね。りりまる。この気持ちをちゃんと消すから……。だから、もう少し待ってて欲しい」

「無理矢理消さなくていいよ。無理にしちゃうと辛いだけだよ」

「わかってる。だけど、俺が気持ちを持ってたら……。先輩にも妻にも申し訳ないから。だから、一年。ううん、半年以内には消すから。いや、もっと短くないと駄目か……」

「もっと短かったら、桜餅が苦しんじゃうよ。半年でも、一年でも、三年でも……。私の気持ちは変わらないから、ゆっくり手放してくれていいよ」




桜木君は、一瞬寂しそうに目を伏せたけど……。

すぐに笑って、「わかった」と答える。

もしも、セカンドパートナーを選ぶなら桜木君みたいな人がいい。



「これ食べ終わったら帰ろうかな」

「あっ、そうだね。先輩が起きてるかもしれないから」

「うん。そうだね」



私は、チョコレートパフェを食べ始める。

甘いクリームと甘いチョコレートに包まれている酸っぱい苺とキウイ。

甘酸っぱい。

いじめられていた私は、青春なんてなかったから……。

優ちゃんと桜木君が羨ましかったのかな?



「りりまるって、モテたでしょ?」

「えっ?モテないよ」

「嘘だ。昔も、綺麗だったでしょ?今と変わらなかったんじゃない?」

「変わるよ。もう、おばさんだし」

「おばさんだって、俺は思わないよ」



少しだけ、頬が赤く染まる。

こんな会話、テレビドラマでしか見た事ないかも。

やり取りは、おばさんの会話だけど……。

話してるテンポや雰囲気は、

「アオハルーー」ってこないだ加藤凪沙かとうなぎさちゃん演じる夢見円香ゆめみまどかが叫んでいた言葉が浮かんでくる。

【夢見円香は、どうやら岬君が好きらしい】ってタイトルだった。

あのドラマ楽しくて、大好きで。

私にも、こんな青春があったらって思ったんだよね。



「自分の事、おばさんだって言わないでよ。俺だっておじさんだし。だけどさ、年齢なんか関係ないよ。だから……」

「桜餅は、深刻に考えすぎだよ」



私は、桜木君に笑いかけた。

そう言えば、あの日もこんな風に怒られてたよね。



「花岡先輩にいつもそれ怒られてばっかだよな。俺……」

「あーー、やっぱり!クリスマスパーティーの時も怒られてたよね」

「怒られてた、怒られてた。俺、いっつも怒られるんだよね。桜餅、深刻に考えすぎだって……。やっぱり、夫婦って似てるんだね」



桜木君の言葉にドキッとした。

私、何してんだろう。

41にもなって、優ちゃんの後輩を騙すような事して……。

ここにいて……。



「そろそろ。終電になっちゃうよね。帰ろう」

「えっ?タクシーでも大丈夫だよ」

「ダメダメ。そんなのもったいないから……」



一秒でも、早く。

この場所を去りたくて、私は鞄を取ってコートを着る。



「俺が払います」

「いいよ」

「駄目だよ。男だから!!」

「わかった、ありがとう」

「はい」



桜木君がお金を払ってくれる。

私、ちゃんと付き合ったの優ちゃんが初めてだ。

いじめられてたせいで、人に嫌われたくなくて。

いつも、誰かの顔色伺って。

高校の友達に紹介された人と付き合わされて……。

バイト先の仲良くなった人の紹介された人と付き合わされて……。

自分で、誰かに恋をして選んだのは優ちゃんが初めてだった。

優ちゃんが初めて三ヶ月以上続いた人で……。

だから、一生優ちゃんと生きてくって決めた。



「ごちそうさま」

「いえ、いえ」

「じゃあ、気をつけてね」

「あの……。りりまる」

「えっ……」



桜木君の手は、思ったより暖かい。

セカンドパートナーをもし選べるなら、私は桜木君がいい。

だけど、きっと無理。

わかってる。

明後日行っちゃ駄目な事ぐらい。

多分、美奈子は私を誰かとくっつける。

だって、美奈子はいつだって……。

自分だけが、悪者になるのを嫌うから。



「ご、ごめん。泣かせるなんて思わなかった。嫌だったよね……ハンカチ、ハンカチ……」

「だ、大丈夫。気にしないで。あっ、私。帰らなきゃ……。それじゃあ、気をつけてね。桜木君」

「えっ……」



私は、涙を拭いながら走り出した。

美奈子と会う事を決めたのは、他でもなく自分なのに……。

何で、泣いたりなんかするのよ。

私が泣いたせいで、桜木君は傷ついた顔してたじゃない。

馬鹿じゃないの、私。

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