第9話 sideりりまる セカンドパートナー?!
「セ、セカンドパートナー?!」
「りりちゃん、声が大きいよ」
「あっ、ごめんね。それで、何だっけ?」
「だから、セカンドパートナーを作ったら更年期症状も和らぐって話」
「だから、そのセカンドパートナーって何?」
「肉体関係を持たずに精神的な繋がりを求める事よ。私もいるのよ」
美奈子は、悪戯っ子みたいに笑う。
「お待たせしました」
店員さんが、ミートスパゲティのセットを置いていなくなると美奈子はまた話を始める。
「私の所はレスだったから、肉体関係も持ってるから。もう、セカンドパートナーってより不倫。だから、お互い納得出来るように双方のパートナーにも話したのよ。そしたら、
向こうは向こうで相手を作ったの!まあ、訴えられる事を考えたらその方がいいからね」
美奈子の話す言葉の意味を理解するのに数分はかかった。
「りりちゃんもレスなんでしょ?」
「レ、レスって事は……」
「ぇーー。じゃあ、何で赤ちゃんいないの?」
「何でって言われても。出来なかったから……」
私の言葉に美奈子は、
「りりちゃん可哀想だね」と呟いた。
「可哀想って。そんな事ないよ」
「いやーー。私は、選択子なしだったからいいけどさ。欲しかったけど、出来なかったってパターンは苦しかったでしょ?セカンドパートナーの集まりで出会った人の中にもそんな人いたからね」
美奈子の言葉に何も言い返す事は、出来なかった。
確かに、子供が出来なくて苦しんだ。
だけど、その日々が可哀想だったとは思っていない。
治療を積極的にしなかったのは、治療後に駄目だった親戚が離婚したなからだった。
子供は欲しいけど、優ちゃんを失いたくなかった。
私の中で、子供より優ちゃんの順位の方が遥かに上だっただけ……。
「やっぱり、辛い思いしてきたんだね。だったら、セカンドパートナー作るべきよ」
「別に、必要ないわよ。私には、夫がいるし……」
「私だって結婚してるわよ。いるか、いらないかは集まりに行ってから答えを決めたらいいじゃない。それとも、セカンドパートナーになりたい誰かがもういたりして……?」
美奈子の言葉に何故か彼が浮かんだ。
昨年のクリスマスパーティーで、夫が連れてきた人。
玄関でお出迎えをして、現れた彼を見つめてしまった。
それは奥さんが、ブーツを脱ぐ瞬間にさりげなく鞄を持ったからだった。
優ちゃんは、「持ってて」と言わなくちゃ持ってくれないのに……。
彼は、タイミングをきちんと見ていた。
きちんと奥さんを見ていて素敵だと思った。
彼みたいな男友達が欲しかったと思ってしまったりしたけれど……。
彼は、夫の後輩で。
私に興味を持つなんてあり得ない。
「いないなら、ちょうどいいじゃない。三ヶ月後の水曜日に集まりがあるのよ!一度だけでいいから参加してくれない?」
「えっ。それは、無理よ」
「お願いよ。りりちゃん」
美奈子は、顔の前で両手をしっかりと合わせている。
やっぱり、私は押しに弱い。
「一度だけだからね」
「ありがとう。助かるわ!実はね、セカンドパートナーの集まりでカップルになった人が、次の集まりの幹事をしなくちゃならないのよ。それで、どうしても後一人足りなくてね」
「それって、最初から私を誘うつもりだったって事?」
私は、フォークにスパゲティをくるくると巻き付けながら怒っていた。セカンドパートナーなんて欲しくもないものを求める集まりなんかに参加したくなかった。
「ごめんね、りりちゃん。でも、子なし夫婦ってなかなか見つからないのよ。だから、りりちゃんから連絡が来て丁度いいって思っちゃったのよ」
美奈子の丁度いいって言葉にイライラする。
昔から、美奈子の言葉は人をイライラさせたり悲しませたりする所があった。
「どうせ、レスで子なし何だからいいじゃない。気晴らしになるわよ!たまに、イケメンもいるし」
「そんな言い方しなくてもいいじゃない」
「ごめんね。でも、芸能人に会うぐらいの感覚でいいからさ」
私は、美奈子に無理矢理納得させられていた。
食事を終えた美奈子は、チラリと時計を見つめる。
「彼と今からデートなの。じゃあ、お会計は私が払うから……。りりちゃん、お肌の潤いも更年期もよくするには新しい男との出会いが大切よ。旦那だって、浮気してるかもしれないでしょ?」
美奈子は、嬉しそうに鞄から財布を取り出してレジに向かった。
私は、カップにまだ残っている紅茶を見つめる。
私と優ちゃんは、レスなんかじゃない。
ただ、体の関係を積極的に必要としなくなっただけよ。
それは、私が子供を諦めたいって話したから……。
温くなった紅茶を飲み干して、立ち上がった。
何が、セカンドパートナーよ。
不倫相手を探したかっただけじゃないの?
でも、男友達ぐらいなら欲しかったかも。
どうしようもなく辛い時に話を聞いてもらえる相手。
優ちゃんに言ったら傷つけてしまう事を話せる相手。
そんな人は、欲しかったかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます