第3話 side桜餅 さようなら恋

「何か重くなったか?」

「い、いえ。そんな事は……」

「あっ!その顔は、やっぱり重く考えてんだろ?桜餅は、あの頃と変わらねーーな」



先輩は、ビールをぐっと飲み干して笑った。

先輩達が、結婚したのは11年前。

その頃、祖母が危篤だった俺は先輩達の結婚式に参列する事が出来なかった。

でも、もし参列していたら……。

俺は、妻の藍子あいこと結婚していなかっただろう。

だって……俺は……。



「桜餅ん所は?子供。聞いちゃまずかった?」

「いえ、大丈夫です。俺の所も、出来ない気がします」

「結婚して何年だっけ?」

「9年です。もっと早くにしてたら違ったんですかね」

「女も男もタイムリミットがあるって聞くもんなーー。俺も、体力ないからなーー」



先輩は、焼き鳥のねぎまを食べた。

俺は、先輩にずっと内緒にしてる事がある。

何も悪い事をしていないのに……。

先輩と一緒にいるだけで、苦しい。




「桜餅。今日は、まだ時間あるか?」

「何でですか?」

「昨日、いいワインが届いたんだよ!家で飲み直そう」

「いや、ここでいいですよ。急にお邪魔するのは迷惑ですし……。先輩の家に行くのなんて」

「1年ぶりだろ?クリスマスパーティーやったよな。俺の親がこんなデッカイ鳥送ってきたからさ」



先輩は、両手を広げながら笑っている。

先輩の家に行きたくないのは、迷惑をかけるからとかではない。



「妻が遅くなったら心配するかも知れないんで」

「じゃあ、俺が伝えててやるよ。スマホ貸しな!」

「えっ?」

「ほら、いいから。いいから」



俺は、スーツの胸ポケットからスマホを取り出して先輩に渡す。

先輩は、藍子に電話をかけて遅くなる事を伝えてくれている。

行きたくないのは、先輩の奥さんに会いたくないからだ。


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