第4話 side桜餅 さようなら恋
1年前の12月10日。
早いけどクリスマスパーティーをしようと先輩の家に呼ばれた。
俺は、先輩の奥さんに会うのはこの日が初めてだった。
俺と先輩は、2ヶ月に1度は会っていたけれど……。
奥さんと会う機会はなかった。
会って挨拶をしたかったけれど、奥さんが体調を崩したり用事があったりしてなかなか会えなかったのだ。
だから、昨年ようやく会う事が出来て嬉しかった。
俺は、藍子と共に先輩の家に向かい玄関の扉を開けると先輩と奥さんが待っていてくれた。
俺は、先輩の奥さんを見て僅か2秒で恋に落ちた。
食事している最中は、連れてきた藍子にバレないか心配で堪らなくて……。
一緒にいる間中、ずっと心臓がドキドキしていた。
子供が出来ないから、パートナーを変えたいとかではない。
俺は、純粋に恋をしたのだ。
それからは、毎日毎日考えた。
まるで、自分が中学生に戻ったみたいで……。
先輩から、奥さんの話が出る度に胸が傷んだ。
この気持ちは、会わなければいつかなくなるわけだからと自分に言い続けて我慢していた。
それなのに……。
それなのに……。
「藍子ちゃん、終電までに帰ってきてくれたらいいってよ」
藍子~~。
俺の気持ちを知らずに、そんな事を言いやがって。
「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて」
月並みの言葉しか言えなかった。
「そうと決まれば会計して行くぞ」
「は、はい」
先輩は、店員さんを呼び。
ばってんをしながら、「チェック」と笑い……。
お会計を払ってくれた。
「ご馳走さまでした」
「いいって、いいって。ちょっと、掛けるから待ってな」
先輩は、凛々子さんに連絡をしながら小さく手で丸を作って笑う。
オッケイじゃないんですよ。先輩。
俺が、大変な事になるんですよ。
だから、我慢してるんですよ。
って、言いたい言葉は全部飲み干すしかなかった。
先輩の家につき、リビングまでついていくと……。
キッチンで凛々子さんが、作業をしていた。
「桜木君、いらっしゃい」
「お邪魔します」
「固い、固い。桜餅」
先輩に肩を叩かれて、無理矢理笑って見せた。
……緊張する。
まるで、初恋の時を思い出す。
「ワイン取ってくるから座ってな」
「はい」
フラフラとした足取りで、先輩はキッチンに向かう。
「優ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
「飲み過ぎだよ」
「今日ぐらいいいだろ?あっ、何かつまめるのある?」
「ポテトサラダはあるけど出す?」
二人の会話を聞きながら、ギリギリと胃が痛むのを感じる。
凛々子さんは、先輩の奥さん。
変わらない現状に泣きそうになる。
それから、先輩といいワインを飲んでポテトサラダやら簡単なつまみを凛々子さんが出してくれて……。
正直、胸の痛みに気を取られて何を話していたか何をしていたか覚えていない。
気づいたら、先輩は酔いつぶれてて。
俺は、凛々子さんと二人で起きている空間に耐えられなくて「帰ります」と言ったのだ。
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それで、スーツのポケットに入っていた家の鍵がない事に気付き。
居酒屋に電話しようとして、凛々子さんが現れて……。
俺は、振られた。←今、ここって脳内で差されている状態に陥っている俺。
何で、告白したのか酔いすぎてわからない。
頭が、グルグル回ってる。
どうしよう。
次の言葉を見つけられない。
「友達なんて嫌だよね。ワガママだよね」
混乱している俺に凛々子さんは、そう言った。
「い、嫌とかじゃないです。凛々子さんが、先輩を愛してるのは知っています。それに、俺も既婚者なんで。なのに、何で言ったのかって思って。本当は、言わないでおこうって。心の中にしまっておこうって」
もはや、自分でも何が言いたいのかわからない。
俺は、あからさまにガッカリした態度をとった。
「限界だったんでしょ?それなら、仕方ないよ。蓋をすれば、する程。気持ちって溢れちゃうもんね」
「凛々子さん……」
凛々子さんの言葉に振られた現実を突きつけられた俺は、泣いていた。
「大丈夫?あっ、ハンカチ持ってない」
「大丈夫です。社会人なんでちゃんとあります」
俺は、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭う。
「優ちゃん、今日荒れてたね」
「えっ、あっ、はい」
「実は、昨日ね。私が、もう子供は諦めなきゃいけないよねって言ったの。それが、かなり辛かったんだと思う……」
「先輩の事、愛してるんですね」
俺は、当たり前の事を呟いてしまう。
馬鹿すぎる、俺。
「ご、ごめんなさい。桜木君にこんな話しちゃって。今まで、男友達とかいた事なかったから……。ほら、男女の友情はどちらかが相手に好意を寄せてるからだって聞いた事があったから……。だから、友達なんか作らなかったの。それなのに、桜木君には一生の友達でいたいとか話して……。すぐに、こんな話してごめんなさい」
凛々子さんの言葉の全てが頭の中を綺麗に流れていき。
【一生の友達】部分だけが、頭の中でキラキラ輝くのを感じた。
凛々子さんの【初めて】になれる!
俺は、凛々子さんの手を握りしめる。
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