第30話 LIFEがなくなる水上バラエティ
俺は二十歳とかなり若い。
周りは若手芸人とは言いつつも、三十を過ぎた人も多い。
よってマジでダッシュをすると、一位になってしまう。
「……」
わざと走りを遅くする。
だって、俺だけルールわかってねえんだもん。周りを見ないと動けません。
「うおおおおおおお!」
いいね、体育会系の芸人が走っていく。
後ろをついていく作戦だ。
プールの上の発泡スチロールの島を走り抜けると、そこには奔模さんが待っていた。
クイズの主題者なのかな?
回答する体育会系の先輩は……たしか、坂場さんだな。サッカーで国体に出たことがあるとかいう、コントをするトリオのひとり。
「くじを引いてくださ―い」
奔模さんの隣の女性アシスタントが、箱を振りながらそう言った。
なるほど? クイズが入ってるくじ箱ってこと?
「ヘディ――――ング!」
くじを引きながら叫ぶ、坂場さん。サッカーギャグなんだろう。シュートじゃなくて、ヘディングなんすね。
引いたくじを奔模さんに渡した。そういうルールなんすね?
奔模さんが読み上げる。
「水鉄砲を使ったギャグをしてください」
ギャグだと!?
クイズじゃねーのかよ!?
アシスタントの女性から水鉄砲を渡されるが――
「うわー、うわー、えーと」
いや、難しいよなこれ。
様子を見てよかったよマジで。
「どすこいどすこーい!」
坂場さんは、目を閉じながら両手を交互に突き出した。どういうこと?
「見ず、テッポウ!」
なるほどー!
そういうギャグかー!
これを即興でこのスピード。さすが先輩だぜ。
「いや、ダジャレじゃん。水鉄砲を使って、って言ってんのに。使ってねえじゃん」
奔模さん!? 判定、そんな厳しいんすか!? 確かに使ってないが!
「ええー!?」
「はい、やりなおーし!」
「ちくしょー!」
ダッシュで戻っていった。
もう他の芸人たちが行列をつくっている。なんで二番手になってしまったんだ。まだよくわかってねえぞ。
俺の顔見るなり、奔模さんはニヤリと笑った。
「あ、JKとコンビ組んだ犯罪者のやつですね」
「違いますよー! なんで犯罪なんですかー!」
「合法なの?」
「合法ですよ! 美少女JKを合法的に相方にした、アンラヴァーズのほっぴーですよー!」
「あ、そう」
このイジり……ありがてえー!
俺たちはまだまだ知名度のないコンビなので、これはイジってるというよりは自己紹介と同じ意味あいになってくる。
俺の説明は現状、女子高生芸人の相方というのが最速で覚えてもらえる。
さっすが奔模さんだぜー。
「じゃ、引いてくださーい」
アシスタントの女性が持ってる箱から、紙を引く。多分だけどクイズじゃなくて、なにかお題が出るのかな?
大喜利とか、ものまねとか?
「えー、海岸の変質者の顔をしてください」
「ええーっ!?」
最悪だ、顔芸かよー?
俺は顔芸で面白いタイプじゃないし、やったこともない。しかも変質者の?
ハゲのおじさんならいいだろうけど、俺みたいな好青年がやったってうまくいくわけねえー!
しょうがない、乃絵美にセクハラすることでも想像するか……
「うわー!」
「すご……」
ん?
なんか反応がいいが……
「わらわーらー!」
そう叫んで、奔模さんがくじを裏返す。どゆこと?
「同じボケを繰り返すことをあらわす、食べ物にちなんだ言葉はなに?」
へ?
クイズになった?
「天丼」
「せいかーい! すすめー!」
俺が最初にクリアしちゃったみたいだぞ!?
どうやらクイズは簡単で、クイズを出してもらうには試験官のお題をクリアしないといけない……ってことかな。
先頭を走るのは不安だが、露出は増える。これはチャンスだ。
「最初のクイズをクリアしたのは、アンラヴァーズのほっぴー!」
「次のエリアは、ウォータースライダーでーす!」
アナウンスあったんかい。俺が聞こえてなかっただけ?
ウォータースライダーは滑るだけだから簡単だな。スベる……いや、気にしないでいこう。
階段を駆け上る。こりゃけっこう高いぞ?
登り終わると、長い直線のスライダー。多くのマンションや家が眼下に広がる。
出口付近には、さっきと同様。男性らしき人と女性らしき人がいる。誰かはわからないね。さっきと行こう。
「よし、いこ……あっちー!?」
ケツが!!
熱すぎる!!!
「熱湯ウォータースライダーはどうですかー?」
「バカすぎる! ウォータースライダーだから途中で逃げるとかできねえー!」
そう。ふつう、熱湯っていうのは熱くて逃げ出すのが面白いんだろ。逃げ道がないのは拷問だってーの。
これ、飛び上がっちゃって落ちて死んだらどーすんの? LIFE無いよ、1つしか?
ただひたすらにケツの熱さと戦う……こんなに楽しくないウォータースライダーがあるだろうか、いやない。
「ああああー、ちいいー!」
そう叫びながら手を挙げるしか無い。
これウケるの?
なんとか到着すると、二人の顔がわかった。男の方はまたしても中堅のお笑い芸人。ラジオの王者と呼ばれていたり、雑学がすごくてクイズ番組によく出ていたりする、
「はい、クジひいてくださーい」
「ちょっと! ケツ熱いんだから、イジってくださいよ!」
「熱い? だいじょうぶ?」
「ガチの心配!? これちゃんと使われます?」
「相方の方は使われると思います」
「最悪だー!」
最悪だ、と言ってるが、もちろん最悪ではない。このやり取りで使われる可能性が増えているのだ。
キレイな女性アシスタントさんから、クジをひいて渡す。
天橋立さんが読み上げた。
「大喜利。こんな水着姿は嫌だ」
「え、えーと。相方のればさしが俺以外に見せる水着姿」
「マジで相方に恋してんじゃん!?」
「いや、してないですよ。だ、誰があいつなんて」
「なんなんだよこいつー! はい、もっかい滑ってこい」
「ええ~!?」
ここ突破できないとケツが激アツのスライダーやり直しなの!?
地獄かよー!
スライダーに戻ると、もう芸人たちの行列ができていた。
乃絵美に熱湯スライダーなんてやらせられねえぞ。どこ行ったんだ?
アンラヴァーズ 暮影司(ぐれえいじ) @grayage14
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アンラヴァーズの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます