第29話 プールで土下座の座王

 女子高生の相方が、思う存分働ける夏休み。

 休みなんかいらないとマネージャーに伝えていたら、ほんとに毎日仕事となっていた。ありがたいんだが経験したことないから疲れるぜ。


「乃絵美はどう、大丈夫? 毎日仕事だけど」

「このくらい大丈夫だよ。野球部の男の子の方がよっぽど大変そうだよ」


 確かにな……夏の高校野球ってヤバイよな。


「この炎天下であんなユニフォーム着て走るとか、エグすぎるよな」

「そうだよ。水着で働けるなんてありがたいことだよ」

「そうだよな……って水着!?」

「水着でしょ、今日」

「だ、ダメでしょ、水着!」

「なんで? 入れ墨してんの?」

「してるかー!? 俺じゃねーよ、お前の水着がダメなんだよ!」


 俺の水着なんてどうでもええわい!

 乃絵美の水着が世の中に!?

 そんなのダメですよ!


「いや、今日はプールでやるクイズバラエティなんだから当たり前でしょ」

「なんだってー!?」


 お笑い芸人の中に、一人だけグラビアアイドルが乱入しちゃう!

 グラビアアイドルにしては胸が小さいけど!


「え、ていうか今日はテレビの仕事じゃないよね?」


 クイズバラエティ?

 そんな大きな仕事が入ってたっけ?


「テレビじゃないよ、なんで下調べしてないの。動画配信サービスの独占コンテンツだよ?」

「動画配信サービス……?」


 有料コンテンツだから、テレビよりも規制がゆるいぞ。ポロリもあるかもしれねーじゃねーか!


「Hネクストってやつ」

「え、え、え、エイチネクスト!?」


 Hネクストって、それこそイメージビデオとかが多く配信されてる、おじさん向けのやつじゃねーか!

 俺は契約したことないけど、先輩がセクシー女優とバラエティ番組やってたよ。あかんがなー!

 

「はい、到着でーす」


 どうやらロケバスが到着しちゃったよ。

 なんで俺はこの時点で、今から何をやるか知らないの? めんどくさいからって、マネージャーからのメールを無視したからですか? 忙しいんだもんよ。


「うわー!」


 こりゃ大きな番組だぜ。若手の芸人がいっぱいいる!

 セットも豪華で、MCは超大物だ。え? マジですごい番組なのでは?

 しかし、こんな大きなプールを貸し切るとは。屋外型で、いくつものウォータースライダーや、大きな流れるプールを有した場所。こりゃテンションが上がるぜ!

 晴れた大空の下、女性ADが声を張り上げる。


「男性はこちら、女性はあちらで着替えてくださ~い」


 き、着替えだと……。こりゃ黙って待ってらんねーぞ。


「ちょ、ちょ、ちょっと。男性はあちらでーす」

「あ、俺は女性の相方の付き添いで……」

「ダメに決まってるでしょう!?」

「いや、絶対に盗撮されるって! うちの相方の着替えなんて、必ず盗撮されてしまう!! そんなことは許せないぞ!! 俺が阻止するしかないんだ!」


 ――捕縛されました。

 ADさん二人に組み伏せられて、膝をついております。

 このスピードでの土下座。あるいみ座王です。

 スーツのおじさんが近づいてくる。


「えっと……アンラヴァーズの男の方だっけ?」

「はい……ほっぴーです」

「誰が盗撮するって?」

「すみませんでした……」

「相方がカワイイだけのコンビのくせに、調子のんなよ?」

「ハイ、申し訳ございません」


 プロデューサーに叱られました。怖いです。


「ちょっと、なにやってるの……」

「の、ればさし~。よかった、まだ着替えてないな」

「うん。ここで着替えるからね」

「えっ、あっ、そんな、あーっ? ああ」


 乃絵美はがばーっとTシャツとデニムのショートパンツを脱いだ!

 なんてことをーっ!?

 あ、あ~。


「ちゃんと着てきてるから」

「な、なるほど」


 最初から水着着用だったわけだ。盗撮の心配はない。その手があったか。そうと知っていれば怒られなくてすんだのに。


「「わー! かわいー!」」


 しまったッ!

 乃絵美が麗しき水着姿になったことを忘れていた!


「今日はよろしくねー」

「よろしくー」


 うん。女性芸人だね。先輩だね。問題なし。


「よろしくお願いします!」


 ればさしがペコリ。


「よろしくお願いします!」


 俺もペコリ。


「いや、あんたはなんでココにいるん? 着替え場所あっちやで」

「あ、すんません」


 また怒られたぜ。

 乃絵美……ればさしは、めちゃくちゃカワイイ白いビキニ……などではなく、紺のワンピースだった。というか、女性芸人全員そうだった。そりゃそうか。ほんとにグラビアアイドルのバラエティだっていうならともかく。

 男性たちも紺のパンツで統一です。地味ですね。急いで着替えて集合場所に。

 すでにMCも準備は万端、番組収録はすぐに始まった。


「さあ、はじめていきましょう、Hネクスト限定の水上クイズバラエティ、答える前にお疲れサマー! クイズ、笑Waterわらわーらー!」


 ふーむ。どんな番組だかさっぱりわからん。資料読んでないとヤバいじゃん。

 こんな大人数の芸人が、どでかいプールでクイズ? 答える前にお疲れサマー? どういうことなんだぜ?

 まあ、説明があるだろ。


「はい、番組の説明はナレーションでいれますんで、一問目初めてくださ―い!」


 マジかよディレクター!?

 俺みたいに資料を一切読んでない人だっているんですよ!?


「一問目、スタートー!」


 一斉に、みんながダッシュ。よくわからんが、ついていく。

 なんでクイズなのに走らなきゃいけないのかもわからん。

 プールの上に浮かぶ発泡スチロールの島を、みんなして駆けていく。若手芸人の仕事って感じで、ワクワクしてきたぜ。

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