第28話 商店街ロケでオンエアバトル
俺たちはコンビで初めて、街ブラロケをさせてもらえることになった。
BSだが、テレビの仕事だ。
番組名は「クイズ、街がえないで」という、俺も見たことがない番組。まあBSだし見るのは50歳以上がほとんどとのこと。CMも補聴器とかだもんな。
そんななか俺たちがこの番組に出る理由……おそらく相方が理想的な孫娘みたいだからだろう……。
番組内容は、街でロケをしながら、クイズを出し、パネラーが回答。それだけ。
台本では行く場所は決まっているが、クイズはその場でタレントが出すというのがウリらしい。難易度とか毎回違っちゃうしいいのかと思うが、それがBSらしさなのかもしれない。
パネラーの人たちは一応芸人もいるが、演歌歌手とか、落語家とか、昔アイドルやってたタレントとか。
なのでクイズの答えがわかっているからと大喜利になる……みたいなこともないようだ。街がえないで、って言ってるしな。
そもそも見ている人もお年寄りが多いし、ゆるいクイズ番組なので、笑いの要素はあまりいらないらしいが……。
「進行はちゃんとやるから、思いっきりボケていいよ!」
ビシッと親指を立てる相方。頼もしいね~。いや、頼もしすぎるかもしれません。求められてないんですから。
「オンエアできるかどうか、ディレクターさんとバトルだよ」
オンエアできるかどうかバトルって。爆笑オンエアバトルかよ。
そんなギリギリの戦いをするような番組じゃないんですよ。
はっきりいって……この番組で思いっきりボケるのは、まず間違いなくスベる!
ネットの動画なら、その場でウケなくてもどっかでバズるとかあるけど。
BSのクイズ番組……クイズ、街がえないで……。
いや、ここで俺がぬるいことやって乃絵美がブチギレるよりはマシ。
俺らがやるのはあくまでロケ。
現場でMCがなんとかしてくれると信じよう。
「はい、本日はこちらの商店街に来ておりまーす!」
ればさしは人生初のロケのはずだが、最初っから完璧だった。こりゃ俺が進行することは今後ないな……。
「アンラヴァーズは、はじめてのロケなので、緊張しております」
どこがやねん。
スムーズすぎるだろ。
夏真っ盛りなのに、汗ひとつかいてないよ。
しかし俺がするべきはツッコミではない……。
「お、お、俺は緊張してないけどね!」
「ほっぴーさん、タバコを逆に吸ってますよ!」
別にタバコなんて吸わないんだが、このためにタバコを買っておきました。
緊張してるのはホントなんだが……。スタッフの誰も笑ってないことから更に緊張してきた。
「タバコは、こうやって吸うんですよ」
「おい! 女子高生がタバコを咥えるな!」
お前もボケるのかよ!
結局俺がツッコミしてるし!
オンエアできるわけねえじゃん。未成年タバコ。
「ちょっとちょっと、ここでタバコ吸わないで。きみ、未成年じゃないの?」
警察来ちゃったじゃねえか!
BSのクイズ番組で警察沙汰とか絶対だめじゃん。オンエアどころじゃねーっ!
ディレクターさんがすぐに警察に駆け寄る。
「あ、すみません。今、テレビの撮影してまして……」
「テレビでも未成年の喫煙は駄目でしょう……というか、なおさら駄目でしょう」
「いや、あの、なんというか、冗談です」
「冗談……? 面白くないね」
「はは……すみません」
死にてええええええ!
なんという辱めだ。
ればさしの顔を見ると、俺をみながらニヤニヤしていた。なんてやつだ。面白くなってきたね……じゃないんだよ。
「さて、ここで第一問!」
「ええっ!?」
ればさしはカメラマンに向かって勝手に出題。
ディレクターさんが職質中に問題を出すという大問題。
「このあと、ほっぴーさんが警察官に言う失礼な一言とはなんでしょう?」
「待て待て待て待て」
俺にボケさせるんじゃなかったのか。
暴走がひどいって。
「ればさし。警察官に失礼なこと言っちゃ駄目なのよ」
「言っちゃ駄目ですか。では、ホッピーさんが警察官を怒らせた行動とはなんでしょう?」
「それはもっと駄目なのよ。公務執行妨害になりかねないのよ。最悪ロケがここで終わっちゃうのよ」
「あらら。残念」
「街ブラロケで絡むのは商店街の人だから。警察じゃないから」
「なるほど」
なるほどじゃねえよ。
まともに進行してくれるはずだったのでは?
クイズは確かに自由でいいと言われてるが、クイズを出す店は決まってんですよ。
「さて、警察への謝罪も終わったようなので、次にいきましょう」
「絶対カットされるだろ、ここまで全部」
タバコを買ったこと自体を後悔しながら、歩き始める。
商店街はアーケードになっており、夏の強い日差しから逃れられる。
乃絵美――いや、ればさしはデニムのショートパンツに、白いTシャツ、スニーカーと、まあ健全で明るい女子高生らしいファッション。絶対にタバコなどくわえてはいけない爽やかさだ。ほんと。
「あ、お茶屋さんですねー」
ようやく最初のクイズの店だよ。ほんとようやく。
お茶屋さんは、茶を焙じているのか、強烈だが優しい香りを溢れさせていた。いい匂いだぜ。一番好きな香りかもしんない。
「こんにちはー」
「こんにちは」
ればさしが挨拶すると優しそうなおばあちゃんが出迎えてくれた。70歳くらいかな?
俺はおばあちゃんに質問する。無難なやつね。
「ここは長いんですか?」
「そうですね、わたしが小さい頃からやってますね」
「あー。じゃあ江戸時代からですか」
「んふふふふ、やだ、もう。あははは」
おばあちゃんにウケた。
いいんじゃない? なら視聴者もウケてるだろうぜ。
「さて、ここで問題です」
急だな、ればさし。
あ、でもここで本当の年齢とか?
本当はいつからやってるかとか?
いいかもね。
「おばあちゃん、このほっぴーの彼女の職業はなんでしょう?」
「おいおいおいおい!」
なんでおばあちゃんにクイズ出すんだよ。
俺らが出すべきクイズは、視聴者とスタジオになのよ。
あと俺の個人的なことのクイズはいらんし、答えが笑えない。
答えなくていいですよ、と言おうと思ったらおばあちゃんはればさしの持ってるマイクに近づく。
「あら、彼女がいるのかね。惜しいねえ、わたしが彼女になりたかったねえ」
「おばあちゃん、ほっぴーさんを狙ってたの!?」
スタッフ、爆笑。
俺たちには一切笑わなかったスタッフ、おばあちゃんで大ウケ。
いや、このおばあちゃんがボケてくるとは思わなかったからな。これが街ブラロケの面白さか。
「そうだねえ……芸人さんの割に、見た目がちゃんとしてて、真面目そうだからね」
ボケて終わるかと思ったが、答えるらしい。すごいね、おばあちゃん。ただこの流れだと答えは出ないな。出す必要もないしな。
俺は早く終わらせようと相槌を打つ。
「あ、そうですか? 答えは……」
「誠実そうだし、女遊びとかしなさそうだねえ」
「そうですね。それで答えは……」
「そうだねえ……ちょっと若すぎるけどねえ……」
ずいぶん、もったいぶるなあ。
さっさとはずして、ホントのクイズしようぜ。
「女慣れしてないから、キャバ嬢にでも引っ掛かったんじゃないかい」
「当たるんかーい!」
なんで当たるんだよ。
当てなきゃスルーできたけど、当たっちゃったら言わなきゃいけないじゃん。
「おばあちゃん、大正解!」
「だてに歳くっちゃないよ」
ほんとだな……。すごいね。
「それで、街がえないでのクイズはどうするんだい」
「あ、そうですね」
おばあちゃんが進行しはじめちゃったよ。どうなってんだよ。
「それでは第一問です」
ればさしが改めてマイクを握り直し、カメラを向く。
「このお茶屋さんのおばあちゃんが、隣のスタバで抹茶フラペチーノを買ってる人に思っていることとは?」
「待て待て待て待て」
おばあちゃんをイジるなよ~。普通の問題でいいってー。確かに隣にスタバあるけどー。
ればさしは、カメラに向かってパッと手を差し出しながら……
「クイズー、まちがえないで!」
と言う、スタジオに問題を出すお決まりの流れ。いいのかこれで。ディレクターの顔を伺う。
「はいオッケーでーす。次、答え合わせいきまーす」
いいんだ……。
「おばあちゃん、お茶屋さんの隣のスタバで抹茶フラペチーノを買う人に思うこととは?」
変なこといわないでくれよー。両手を合わせる俺。
「そうだねえ。ほうじ茶フラペチーノの方が美味しいのに、って思うねえ」
「買ってるんかーい!」
おばあちゃんもフラペチーノ買ってるんかーい!
じゃあ、これ、クイズとして成立するやないかーい!
「はい、クイズ1問目はこれでOKです」
ディレクターもOK出たよー!
どうなることかと思ったけどコレでいいんだねー?
「じゃ、次のお店にいきましょう。とうっ」
二人でジャンプする。
「「到着」」
これやりたかったんですよー。
ロケでジャンプしたら次のポイントに着地するやつ。
そして、ひとボケ。
ればさしがキョロキョロとしてから――
「あ、ほっぴーさんがキャバ嬢と付き合ってる世界線だ」
「別の世界線から来たん?」
もちろん俺はればさしの顔に人差し指をつきつけて、ふたりでカメラ目線ね。
こういうとき、スタッフは少しくらい笑ってくれてていいと思います。
あと、これアドリブですね。
もともとは「私が平民に生まれた世界線だ」ですけどね。もっとファンタジックなネタなのよ。
このアドリブのボケのせいで、さっきのキャバ嬢のくだりが使われなかったらコレも全部カットですよ。
だから、なんとしても俺がキャバ嬢と付き合ってる話を放送させようとする相方の強い意気込みを感じます。なんで?
俺の疑問の眼差しを気にもせず、意気揚々とお店の紹介を始めるればさし。お店からは気の良さそうなお母さんが出迎えてくれた。
「美味しそうなお惣菜屋さんですねー! なんとこれ1つ10円ですよ!?」
「はい、おひとりで100個買っていく人もいますよ~」
「100個! でもわかりますね~。すみません、今この店で一番売れてるのはなんでしょうっていうクイズができなくなりました」
「あら~! あははは、ごめんなさいね~」
うちの相方はロケが上手だなー。そつがなさすぎる。そつがなさすぎて俺が入っていけない。
「さて、ここで問題です。ほっぴーさんどうぞ」
「いきなりだな!」
雑すぎるフリ。
まあ、ここで俺にボケさせてから自分で問題を出すんだろ。
「えー、ればさしさんがこのお店のお惣菜を全部食べて、一番マズいと思ったのはなんでしょうか」
「失礼ですね! マズいお惣菜なんてないよっ! そもそも全種類のお惣菜は食べられないし!」
うちの相方はツッコミもできますねえ!
可愛らしく言えてますねえ!
このツッコミでお惣菜屋さんのお母さんも大笑いですねえ!
俺がボケたのに俺に手応えはないですねえ!
もういいよ、クイズにいってくれ。
「はい、ボケはもういいので、本当の質問をどうぞ」
「俺が出すのかよ!」
ボケて終わりじゃねえのか~!
もっかいボケるっていうのアリだが……今のボケがカットされる気がします。問題を考えるか……
一問目がお茶屋さんのおばあちゃんが隣のスタバの抹茶フラペチーノを、なんと思ってるかだったからな。
ここは鶏を中心としたお惣菜屋さんだから……
「お母さんがテレビCMで『今日、ケンタッキーにしない?』と言われて思うこととは?」
「はい、それでは~」
ればさしは、スムーズにカメラへパッと手を差し出して……
「クイズー、まちがえないで!」
問題にしちゃったねえ。いいのかねえ。
お茶屋さんにはフラペチーノはないけど、ここは唐揚げもチキンカツも売ってるからねえ。大嫌いとか言われたらオンエアできないんじゃないの。言ったの俺だけど。
「オッケーです。答え合わせいきまーす」
「おかあさん、今日ケンタッキーにしない? というCMを見て思うこととは?」
「そうだね、レッドホットチキンが出るのが待ち遠しいね」
「辛いのが好きなんかーい!」
よかったー!
結果的にはいい問題になっててよかったー!
このような感じで生まれて初めての街ロケは行われていった。
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