第27話 質問コーナーでだましうち!
「それでは質問コーナーに入ります」
俺達の今日の仕事は学園祭だ。
俺が二十歳で、学生たちと同じ年代。そして、相方は女子高生だからこれから受験する可能性がある参加者と同じ年代。
そんな理由からか、学園祭のオファーはかなり来ている。あのおっぱいちゃんとかいう配信者のファンもやっぱり若い人たちに多いらしいしな。ま、あとギャラが安いってこともあるだろう。
漫才とトークを終えて、今は質問コーナーだ。聞きたいことを聞くってやつ。
普段は授業に使われているであろう教室。80人ほどの客が座っている。
「はいはいっ」
THEがつくようなお調子者が手を上げた。
司会役の学生が「どうぞ」と発言を許可する。
「お二人は、付き合ってるんですかー!?」
想像通りの意外性のない、くそつまんない質問だったが、周囲はよくぞ言ってくれた感に包まれていた。しょうもないやつらだな。
いつもの回答をすればいい。俺は相方の顔を見ると、任せろと頷いてくれた。頼むぜ。
「えー。そもそもアンラヴァーズというコンビ名はですね、恋人じゃないって意味の名前なんです!」
そうそう。それそれ。言ってやってくれ。そういうバカな質問を黙らせるためのネーミングだってな。
「そんなことより」
そんなことより……?
「ほっぴーは、キャバ嬢と付き合っています」
「うおおおおおおおい!?」
なに言ってくれてんだよ!?
とんでもない、だましうちしてくれやがった!
「ま、まじっすかー!?」
慌てふためく質問者。しかし、俺のほうがよほど慌てている。
「まじじゃないっすー!」
くそおもんない返しをする俺。しょうがないっす。
「俺に彼女はいません!」
「あ、あれは彼女じゃないんだ。じゃ~セフレってことか~」
「うおおおおおおおおおおお!?」
言うな!
お前はセフレなんて言葉を一生言うな!
あとこの教室には女子高生もいるんだぞ! うつむいてるじゃんかよ!
女子高生が女子高生を引かせるなよ!
汗をかきながら、落ち着き払った乃絵美の肩を掴む。
「違うって。そういうんじゃないって。そういうこと言うな」
しかしながら、もともとの理由が相方とは付き合ってないことを証明するためにデートしていたわけで。
ある意味この流れはなるべくしてなったとも言える。
「うわー、二十歳でキャバ嬢と……」
「すげーな。芸人ってモテるんだな」
「なら、五歳も年下の相方とは恋人にはならないか」
「確かに……」
くっ。作戦が功を奏している!
こうなってくると「いや違うんだよ」とは言えないッ!
信じろ、この状況は望むべくして望んだ結果だッ!
エロい感じの女と付き合ってる状態なら、女子高生の相方なんて目に入らないよなーという世間の評価ッ!
むしろ有り難いと考えるんだッ!
「はい、質問続けてどうぞ~。ほっぴーはNG無しですよー」
「うをい!?」
ればさしよ、なんで促す?
もういいじゃない?
もう十分すぎる結果が出てるじゃない?
「キャバ嬢さんは何歳ですか?」
「いや、なんでキャバ嬢への質問なんだよ! せめて俺への質問にしてくれよ!?」
ドッとウケた。
ウケたが嬉しくない。人生で初めてかもしれない。ウケて嬉しくないことなんてこの世にあったんだね。
「で? 何歳なの?」
なんで乃絵美さんは答えさせるの?
もうウケたんだから答えなくてよくね?
逃さないとばかりに目を射抜かれる。なんでよ。
「えっと……年齢は知らないです。お酒は飲んでたと思うけど」
「「おお~」」
おお~、じゃないんだよ。
俺は笑わせにきているのであって、そんなのいらないんだよ。
続けて、アホそうな男が手を挙げる。
「キャバ嬢さんの名前はなんですか?」
「言うわけ無いだろ!?」
ドッとウケた。
ウケたが嬉しくない。人生で二回目かもしれない。一日でそんな体験二回もしたくない。
「あ、あの本名じゃなくて源氏名でもいいです」
「やかましいわ!」
思わず関西弁が飛び出てしまった。
マイクはもらっているが、思わず大声になるほど会場が爆笑に包まれているのだ。
漫才よりもウケてる気がするぞ。
所詮俺達は有名ではないお笑い芸人。学園祭ということもあり、ネタよりこういうみんなとのやり取りの方がうまくいってしまうのはあるあるなのかもしれない。
「ラジオネームなら教えてもいいですよ。アメリカのアメです」
「あ、ありがとうございます」
しーん。
なんでスベったみたいになってんだよ。本名じゃなくて源氏名じゃなくてラジオネームを教えたらスベったよ。
スベったけど全然悲しくない。人生で初めてかもしれない。
次に手を挙げた人にマイクが渡る。
「えっとー、おふたりの好きな食べ物はなんですか」
「いや、キャバ嬢のこと聞けよ!?」
もうそういう流れだろ!?
またしてもドッとウケたが、もうよくわからん。ウケたのに自分の気持ちがわからん。混乱するにもほどがある。
ればさしは頬杖をつきながらマイクを口に近づける。
「聞いて欲しいんだって?」
「本当は聞いて欲しくねえよ!?」
「みなさん、こうみえてドMなんですよ」
「どうみえてるか知らないけどドMじゃねえよ!」
みんな手を叩いてドッカンドッカンウケている。
もはやウケたから嬉しいとかそういう次元ではなくなったが……。
結果的にうまくいったのか?
実際のところ、今日の質問コーナーで一番怖かったのは、ればさしを可愛い女の子として扱う質問が飛び交うことだった。
それこそ、彼氏はいるのか、好きな男のタイプはなんだ、なんで可愛いのにお笑いなんてやってるんだ、そういう類のもの。
まさか俺の方に質問が集中し、笑いに包まれるなんて想定していなかった。
ま、俺がイジられるだけでみんなが喜ぶなら、それでいいだろう。
「じゃあ、次の質問で最後にします。一番奥のお姉さん」
帽子を被ってマスクをかけた女の人だ。顔がまったく見えない。
「えっと、キャバ嬢さんはればさしさんより可愛いですか?」
「は? いや、うちの相方より可愛い女の子なんているかよ」
――!?
しまった、気を抜いた!?
刹那、会場は「うおー!」「キャー」など割れんばかりの悲鳴や叫び。
ればさしは、頭をかかえて突っ伏していた。
す、すまん……。
「ボケですよー。そういうお約束ー!」
俺の叫びはみんなの声にかき消されて聞こえてそうになかった。
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