第26話 すべらない話が相方にすべる

「ってことがあったんだよ」

「ふーん」


 自信満々でエピソードトークを話したのだが、乃絵美は超興味なさそうだった。どういうこと?

 今日もいつものように、我が家にやってきて、一緒による飯を食っていた。

 いつものように肌は写真加工し終わったように完璧で、シルクのハンカチを思わせる白さ。

 少しだけ茶色の髪はサラブレッドを想像させる高貴さ。

 そんな上品な見た目が鼻につかない人懐っこい態度。

 乃絵美のルックスは今日も絶好調。

 ところがいつもの朗らかで天真爛漫な笑顔は見られず、おばあちゃんが期待外れのお菓子を出してきたような顔をしていた。俺の顔は落雁か?


「え? 今の話面白くなかった?」

「面白くない」


 ガーン。

 いや、だって、キャバ嬢から大笑いかっさらった話だよ?

 千恋は最高に面白いって言ってたよ?


「おかしいな……」

「え? いや、なんでおかしいの?」

「一回話してるから」

「うわー。こんなつまんない話聞いてくれるの親くらいでしょ。親大事にしなよ」


 そこまで言うか~!?

 いや、確かにキャバクラは最上級に笑ってくれる客ではある。絶対にすべらない話になる。

 それにしても、そこまでひどくはないだろ。


「親じゃないよ。ファンだよファン」

「ファン~?」


 片眉を吊り上げて、訝しむ相方。

 なんだ、おめーなんかにファンなんかいないだろってか。

 俺だってファンはいるんだよ。


「そうだよ。ファンだよ。ラジオにもメールくれたんだから」

「ふーん。ラジオネームは?」


 ラジオネームを聞く?

 疑ってきてるなあ。


「アメリカのアメっていうんだよ」

「ああ。はいはい。クショウちゃんがラジオに出たときに絶対にメールしてくる人ね」

「えっ?」


 知ってんの?

 俺も覚えてませんのですけど?

 あと、今のセリフって俺がラジオに出たときに絶対に全部聞いてる人しか言えないセリフなんですけど?

 といっても俺がラジオに出たなんて、全部で四回しかない。しかも全部違う局。超ローカル深夜。当然一回限りのゲスト。全部聞いてるわけがない。


「クショウちゃんがすべってるのに、イジらないで褒めちゃう人でしょ」

「よく覚えてるな……」

「こんな仮面ライダーは嫌だ、ってお題でバイクじゃなくて電車に乗っているとかボケちゃって、電車に乗ってる仮面ライダー本当にいるんだよな……ってなっちゃったじゃん」

「忘れろそんなこと!?」

「あえて、ですよねとかいうメール送ってきたでしょ、アメリカのアメ」

「記憶力すごいね?」


 俺も覚えてないのに。いや、スベったから忘れたのか。そっか……。


「わたしはチャンとイジってるからね。クショウちゃんを」

「ん?」


 なんだって?

 乃絵美の顔を見ると、ニッと笑う。なんと形のいい唇だ。ビジュが良すぎる。


「わたしも読まれてるから。苦笑にチクショウ」

「苦笑にチクショウ!? お前だったの!?」


 俺が唯一覚えているラジオネームだ。

 面白いやつだなーと思っていたが。まさか乃絵美だったとは。いや、苦笑にチクショウとコンビ組めて光栄だよ。偶然にも俺の名前のクショウとかかってるし。


「ラジオはパーソナリティのものだし、ゲストはそこでスベっても全然いいわけじゃん」

「お、おう……」

「ただそこでイジればラジオリスナーとのやり取りがうまれて、面白さになる。それがラジオの醍醐味ってやつでしょ」

「お、おう……」

「アメリカのアメは違うんだよね~。はっきり言ってメール読むのが悪いと思う」

「お、おう……」


 こいつラジオに対して考えがしっかりしすぎじゃね?

 どんな女子高生だよ……。俺はそこまでラジオを聞いてないので、こんなちゃんとした意見に返す言葉がない。


「まあ、アメリカのアメは素人だからしょうがないけどね。わたしは芸人なんで」


 俺の方が先輩芸人ですけどね……。


「で、アメリカのアメは? どういうファン? 昔大学で落研にいてお笑いわかってますよっていう態度のハゲのおじさん?」

「偏見すごいね? 令和の女子高生なのに?」

「あれ? じゃあ別に本人が面白いわけじゃないのに、フォロワーだけ多くなって勘違いしちゃったツイッターアカウントの運営をしているイタイ男?」

「もう何も言うな!」

「じゃあ教えてよ」


 くっ。あまり教えたくはなかったが、もはや本当のことを言うしかない。

 しかしなるべく詳細は言いたくないな……なんとか誤魔化したい。


「キャバ嬢です……」

「え? なんて? 小さな声すぎて聞こえなかった。もっかい言って?」


 こ、こいつ……。

 落ち着け……落ち着いてこのやり取りをこなさないと。


「キャバクラで働いている方です」

「ブス?」

「ブスじゃねーわ! 細い目をほにゃっとさせて笑ったらめっちゃカワイイわ! 品もあって色気もあるわ!」

「フ――――――――――――――――――――――――――――――――ン」


 しまった―――――――――――――――――――――ッ!

 ドラクエの「いてつくはどう」ってこれだったの? ってなってるゥ―――――!

 とんでもなく目がつめてーッ!


 この日は、ネタ作りなどはせずに解散となりました。

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